めおと椿

外レ籤あみだ

回り道する秒針

 ときは針押し、秒を忙す、分が歩む、時の動かず、いまだ休日にあり、朝である。こうなる置時計へと間近でながめる十文太へ、妻が長いこといますねと、夫の洗濯を畳みつ言う。

「こうすると遅い」

「なにがです」

「時が」

 じっとすれば針の動向はようやっと分の歩みに一周を見る。時がわずか動じた。十文太ほらと置時計の手へとった。妻へ動じたての短針しめした。

「こうして一刻と経った」

「暇なひと」

 畳終わったのを、膝からとなりへ積んで、積むしかたは呆れに放るようぞんざいである。それだから、折り目正しさが崩れる。置時計なおし十文太、くずれを正し整え、自身が膝へ貰ってしまう。

 妻が、遅いから時へ執念するに、それは浪費ですときっぱりしてくる。背筋とおった正しい物言いである。こちらは丸く曲がる背をして季節はずし梅雨めく口吻に、たまの休みが用途ないとぶつくさし、用途ないながらあるゆえには、勿体ないと続ける。この勿体なさを幸せにしたい、ではこの休日に追究できる幸せとは、仕事際がまだまだ遠く、今日の始まるを近場としている現時へ、長なが居座るところへ見出される。

 よって針遅くゆく思いするだけ、幸せがあった。こういう反論の十文太を、妻が立ちあがるついで見さげた。

「あなたとは八年でしたか」

「もうそんなものか」

「八年して、日ごと通じなくなりますよ」

「不通に至っていくが夫婦だよ」

「ならば別れます」

「それはまだ考えだなぁ」

 戯事、真剣を判じず、あいまいまま妻は食器あらうため台所に寄っていく。あとから朝食に汚れる食器は、ぶつかり合いし硬く鳴る。鳴る音せわしく甲高い、これが耳するたび迫りがある。座ったまま、堪らなくなり、十文太が台所に声の張った。

「手伝うか」

「邪魔でしょう」

「そうか」

「そうですよ」

 やはり不通を進んでいくなと、十文太は置時計に顧みする。ときが針押しの力をつよくしたらしく、よく回っている。膝のうえにある洗濯が、冬にやられ冷めてある。

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