日本の不文律 (前編)

にこにこ先生

日本の不文律 (前編)

不文律とは、明言されていない、或いは明文化されていない規則で、暗黙のルール、暗黙の掟と言うこともある。簡易に表現するならば、多くの人が当たり前のように従っている見えない規則のことを意味する。


こうした暗黙の了解という不文律は、社会通年として日本国内においても存在する。不文律について我々はどういったことに気を付けておくべきか。本稿では、様々な不文律について細かくチェックしていく。


[1. カップ焼きそばは焼きそばである]


言わずもがなカップ焼きそばは焼きそばである。実際には「焼く」調理過程がなく湯をそそいで所定の時間が経過したのち、湯切り口を開けてそこから台所の流しへ湯を捨て、結果として流しが「ボンッ」と音を立てる。昨今はターボ湯切り機能を備え、滝の如く湯切りが可能である。


一部の意見として、通常のカップ麺と同様、お湯で戻してソース又は調味料を掛け、かき混ぜただけのカップ焼きそばは焼きそばとは呼べない、というものがある。解釈が非常に狭量であり残念でならない。醜い争いを避けるためにも、日本に於いてはカップ焼きそばは焼きそばに包含されると定義付けて差し支えない。



[2. おにぎりはおにぎり]


1987年11月12日、能登半島の中央部にある杉谷チャノバタケ遺跡の弥生時代中期(約2000年前)層に属する竪穴建物の壁際から、握り飯と思われる炭化した米粒の塊が単独で出土した。この炭化米から人間の指によって握られた痕跡が発見されており、当初「最古のおにぎり」として報道された。


こうした日本最古のおにぎりは学術上、手で握られている事が判明しており、このことからも日本のおにぎりは手で握って調理する事が原則となっている。一方、現在、コンビニやスーパーマーケットなどで販売されるおにぎりは、その多くが食品製造工場などで機械(おにぎり成形機)か専用の押し型を用いて大量生産されている。


手を使って生産されたものではないが、これもおにぎりである。即ちおにぎりは「ご飯を三角に成形し、海苔で包んだもの」としておにぎり公理系が構築できる。ここから塩見のある具材を米で被覆する技法へと発展してきた歴史は自明である。



[3. おでんにはからし]


いつからおでんにからしをつけるようになったのか、その歴史は不明である。おでんを食す際、何かつけるかつけないかは賛否分かれる。また地方ごとの食文化に応じて、味噌だれや柚子胡椒やマスタードといったものを添付して食べる場合もある。それゆえ「おでんにはからし」は強弁になるが、全体像としてはそれ程大きく逸脱しているとは言い難い。



[4. 自動車教習所の先生は怖い]


教官は安全運転を教える教師であり、車の操作でミスがあると、人の生死に関わる事故が発生するおそれがある為、自動車運転のシビアさの伝達と表現の結果厳しくなる、と一般的に解釈されている。一方、ただ単に厳しいだけの先生(女性に優しく男性に厳しい、等)も存在する。怖い先生に当たらないよう回避する方法は無く、真面目に受講するのが吉である。



[5. オロナミンC一年分は飲みきれない]


M-1やキングオブコントで優勝するとオロナミンC一年分がもらえる。毎日一本飲むという営みの人は少ないので飲み切ることは難しいと言える。



[6. キオスクのゆで卵は綺麗に剥ける]


指定席の座席にテーブルを出して綺麗に剥けると景色も美しく感じる。



[7. 新幹線の窓は開かない]


外の空気を吸いたくても開けることはできない。



[8. 市役所ではたらい回しにされる]


少しでもややこしい処理を持ち込むと「あ、これは何番窓口へ持って行ってください」のように打ち返される。



§



見えない不文律はまだ多く存在する。見てきた通り、しかし不文律は不安定な構造をも有する。不文律の起源を限局し、同定することは資料や痕跡が薄い為、困難を極める。その為、一つ一つを数え上げて検証する他はない。



(後編へ続く)

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