旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重郎 

転生石原莞爾

第1話 北伐の完遂

=とある現地司令部=


 やっと第一関門をクリアできたぞ。


「国民党軍と奉天軍が合流して共産党勢力の追い込みに入っています。これで奴らはお終いでしょう」


「共産党もコミンテルンも国民党軍と奉天軍に任せればよい。満州一帯は当初の計画通りに進めるんだ。張作霖の奉天軍と国民党に返還して再び中国を統一する。我々の権益が失われた。そのように見えようと構わない。奉天軍は私兵に過ぎない。満州鉄道は堅持した。ここに極楽浄土を建国する土台を築き上げた」


 時は1932年に入っている。


 国際情勢は世界恐慌から混迷を極めている中で中国の大地は内戦に燃えた。特に中国国民党と中国共産党が泥沼の内戦を繰り広げる。極東の大国である大日本帝国は静観を貫くが、満州に陣取る関東軍は独自の権限を振りかざし、政府や陸軍上層部を無視した独断専行に興じた。本来は即座に処罰されても良い案件も予備役編入が最大で甘さが否めない。


 それもそのはず、関東軍作戦主席参謀たる石原莞爾という男が切れ者と暗躍した。奉天軍を率いる張作霖を謀殺から救い出すと、あっという間に権限を掌握してしまい、奉天軍と事実上の同盟を結んでいる。関東軍は国民党の北伐を支持して満州一帯は奉天軍も含めて返還することを約した。


 ロシアから確保した権益を手放すのかと激高する者が現れても軽くあしらう。満州鉄道など権益は握り込んだ。それも独占ではなく中国の親友と協同して管理することを前提に置き、この大地には豊かな資源が眠っていると主張し、皆で手を取り合って発展を目指そうではないか。そして、大日本帝国と交易を通じて相互に経済を回復から増強に転換させる。


「田中義一元首相が張作霖と私的な交流を紡いでくれた。幣原外相の外交手腕に期待しよう」


「あの幣原外相ですか。融和と宥和が多くて信頼に足りるかどうかです」


「私が兵士を率いて堂々と国会議事堂の門を叩いても良い。まだ時期尚早だがな」


「是非とも、副官とお供させてさせてください」


「張作霖との会談が先に待っている。彼は駒として丁度良い」


 この場で中国を動かしている男こそが石原莞爾だ。関東軍主席参謀が嘗ての東洋の猛虎を飼いならすとは恐ろしい。現に中国国民党と奉天軍の間に入って仲介役を務めた。あまりにも100点以上の答えを導出する故に天才の息を超えて預言者や救国者と称えられる。その反面に絡め手には収まらない数々の謀略を張り巡らした。彼の抱える優秀な部下と奉天軍の協力もあって北伐の完遂を目前にする。


「一人で考え事をしたい」


「わかりました。何かあれば何なりとお申し付けください。我らが石原閣下のため」


 仮の副官を退室させて一人の時間を設けた。


 いかに天才でも物思いに耽る時間が欲しい。


「ここまで長かった。あの爆殺事件の阻止から転換することができた。張作霖ら奉天軍の一派を懐柔して味方に引き込む。すでに親日派で固めることに成功した。汪兆銘のクーデターに応じて傀儡と変わる」


 一旦はタバコを吸うために独り語りを止めた。


「満州を起点に工業化を推し進める。中国は一大兵器工場に変えて世界最終戦争の日米決戦までに大艦隊と大機甲師団、大航空戦力を揃える。北伐の完遂は第一関門を潜っただけであり、次はクーデターを引き起こして蒋介石を失脚させる試練が待ち、欧米の魔の手を排除せねばなるまいて」


 このタバコの味も現代の物と比べて段違い。


 私がタイムスリップと転生してから暫く経った。いきなり張作霖爆殺事件に巻き込まれるとは予想だにしていない。これを聞いている同志諸君に同調をお願いしたく思った。


 自己紹介が遅れて申し訳ない。


 私はこの世に生まれ変わった石原莞爾だ。現代日本で所謂オタクと生きていたが、ヤケ酒から深い眠りに陥ってしまい、ハッと目覚めた時は『現在及び将来に於ける日本の国防』を執筆している。これは偉いことになったと藻掻くこともできない。あれよあれよ、私は関東軍の作戦主任参謀に召し上げられた。己の浅薄な知識を基に一生懸命と働かざるを得ない。


 石原莞爾の姿は見た目だけと思うが、腹心の部下を用いて様々な工作を仕掛けており、前年には内戦介入の口実に満州鉄道を爆破してみせた。史実の満州事変と呼ばれる事件を引き起こしても、張作霖ら奉天軍と蒋介石ら中国国民党へ入念に根回しを済ませており、個別的な自衛権を拡大して北伐へ全面的な参加を表明している。


 あくまでも、我々の敵はコミンテルンなのだから。


「日米決戦は絶対に避けられない。あの東条を蹴落として総理大臣になってもか。どうせなら最前線で連合国軍と戦いたい。大東亜連邦を結成して欧米による支配を許さず!」


 ミリオタの妄想の類と言われようと構わないも何もなかった。石原莞爾に転生してしまった以上は悲劇を回避する以外に生を全うするしかあるまい。まずは張作霖爆殺事件は認めず、張作霖の奉天軍は十分に利用価値を見出すことができるのだから、当然と言えば当然の行いと胸を張った。


 世間一般には満州事変から狂ったと言うが、私は張作霖爆殺事件が発端と認識する。ここを上手いこと渡り歩くことができれば満州事変も良い方向に進んだ。ちょうど、田中義一元首相や幣原喜重郎現外相など使える駒が多くある。田中義一元首相は張作霖と旧知の間柄で説得を試みてくれた。幣原喜重郎現外相は親欧米ながら日本の立場は譲らない。陸軍本国上層部と政府の面々を活用して権益を堅持した。


 頭の中に保管してあった自著を何度も読み込む。中国の再統一は対米決戦の準備であり、結局のところ、大東亜連邦を作るための糧だった。東亜に大日本帝国と中華民国(仮称)を基幹にアジアのアジアによるアジアのための体制を構築する。


 我が悲願に掲げた。


「再統一が完了した後は満州に大工場地帯を作る。まずは航空戦力と機甲戦力を整備して、海軍さんには悪いが本国で頑張ってもらいたい。南方地帯の制圧に機構戦力と航空戦力は必要不可欠だ。着実にコツコツと行こう」


 まだ1932年でも時代は急速に移り行くものである。航空機の時代が到来することを予期した。満州に建設を予定する工業地帯に飛行機メーカーを置こう。私は航空機が主兵力になることを確信した。さらに、南進に合わせて熱帯雨林を切り開く機甲戦力の整備も考えている。やっとこさで八九式中戦車を拵えたばかりだが、鈍足で使い物にならず、機動戦を重視の快速戦車を志向した。


「中華民国と手を組んでよい事は諸外国の兵器から技術まで沢山を入手できる。ドイツ製からイギリス製、アメリカ製と目白押しなんだ。これらを片っ端から複製して国産化することで短期間の内に熟成を試みる」


 あと10年もすれば日米決戦の幕が開ける。


 石原莞爾だから陸軍だけとは限らない。海軍にも噛み付くつもりだが物事には順序が存在した。米内光政や長谷川清など海軍系の有力者を味方に引き入れる。それから本領発揮だ。陸軍と海軍が連携できなければ戦う前に自滅する。この石原莞爾が陸軍と海軍の橋渡し役を立派に務め上げた。変に気前の良い軍人よりも奇人や変人の方が適する時もあろう。


 日米決戦と日中決戦を同時に行うことは無茶苦茶としか言いようが無い。日米決戦は避けられないが、日中決戦は策略によって回避できる上に友邦と迎えられ、重要な後方拠点と機能した。我が国が東方と西方に大戦線を構築できる力は無い。たとえ、下から突き上げられようとも、中国を味方に引き込むことは譲れないのだ。


「二・二六は厳しいかもしれない」


続く

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