中間試験 5
日曜日の夜に寮に帰ると、ハイライドがぶすっとふくれっ面をしていた。
わたしとヴィルマの両方がアラトルソワ公爵家に帰っていたので、ハイライドのことは寮で働くメイドにお願いしていた。
どうやら、それがお気に召さなかったようだ。
ハイライドは、わたし以外の人にはただのカナリアにしか見えない。
メイドに預けられていた昨日と今日、ハイライドはペレットと水しか与えてもらえず、それが大変不満だったようなのだ。
……でもさ、ハイライドって食べなくても生きていけるんでしょ?
ペレットが食べたくないなら食べなきゃいいのにと思うが、食い意地が張っているハイライドは、食べるものがなかったらペレットを口にする。そしてまずいまずいと怒るのだ。面倒くさい。
ヴィルマが控室に下がった後で、わたしは二日間放置したお詫びにハイライドお気に入りのクッキーを差し出した。
鳥かごから出て、お気に入りの自分専用クッションの上でくつろぎながら、ハイライドは満足そうにクッキーをかじっている。
わたしはその隙に、枕の下からスマホを取り出した。
このスマホ、わたし以外の人間には見えないようなのだが、ハイライドも例外ではないようだ。
……これ、本当に何なのかしらね~?
疑問は残るものの、スマホでレベルアップができるとわかったので使わない手はない。
わたしはステータス画面を開いて、ポイントを確認した。
……うふふ、溜まっているわ! そうじゃないかと思ったのよ! だって昨日と今日で、たくさんお勉強したもの!
お兄様のお仕置きが怖かったとも言うが、お兄様のスパルタ教育に頑張ってついて行ったのである。
その結果、何と六十二ポイントというポイントをゲットしていた。
……ここはレベルか、それとも習得魔法レベルか。
悩んだわたしは、ひとまずちょっとずつレベルの方にポイントを加算して、レベルが三から四になるところで止めることにした。
その結果、二十七ポイントを加算したところでレベルが上がった。前回加算したポイントを足すた結果、レベルが三から四に上がるには、合計四十ポイントが必要だと言うことがわかった。
と言うことは、レベル四から五に上がるには四十ポイント以上のポイントが必要な計算になるので、今のポイントを全部入れても上がらない。
明日の中間試験までに極力レベルアップしておきたいので、残りの三十五ポイントは習得魔法レベルに加算した方がいい気がする。
……よし、加算っと!
すると、わたしのレベルはこうなった。
名前 マリア・アラトルソワ
誕生日 四月一日
称号 アラトルソワ公爵令嬢
レベル 四
魔力 三十六
習得魔法レベル 三
習得魔法レベルが一から三になりましたよ!
するとつまり、扱える魔法が増えたはずですね!
わくわくしながら、わたしは「詳細」タブをぽちっとする。
火 ファイアーボール 消費魔力 五
土 ストーンブレット 消費魔力 十三
水 なし
風 なし
やったー! 魔法が増えたー!
これで実技試験は怖いものなしだわ! 何もできなくて恥をかくことはまずないはずよ!
扱える魔法が一つ増えただけで、とっても強くなった気がするから不思議だ。
わたしはレベルが上がったことに満足すると、スマホを枕の下に納める。
すると、クッキーを食べ終えたハイライドがじっとこちらを見つめていた。
ハイライドの視線に気が付いたわたしは、そこでふと「資格持ち」について思い出した。
……わたしは、ハイライドが見える。ということはわたしは「資格持ち」なのよね。
つまり、ハイライドが力を貸してくれたら、光魔法も操れるんじゃないかしら。
わたしの中でむくむくと興味が湧く。
「ねえハイライド」
「うん? 何だ」
「わたしって、資格持ちなのよね」
「そうだ。だから俺が見えるんだろう?」
「じゃあさじゃあさ、わたし、光魔法が扱えるの?」
ハイライドはきょとんとした顔になって、それから腕を組んでうーんと唸る。
「……扱えないこともないと思うが、試してみるか?」
「うん!」
もちろん、試しますとも!
わたしはベッドから飛び降りて、てってってっとハイライドの側に駆け寄った。
ハイライドがひらりとわたしの肩に飛び乗る。
「手のひらを上にかざして、『ライト』と唱えてみろ」
「それだけ? 長い呪文とかいらないの?」
「精霊に力を借りる時のような呪文か? そのようなものは不要だ。そもそも、呪文で呼びかけられたところで妖精は力を貸したりしない。妖精が力を貸すのは、選ばれたもののみだ」
へー、よくわかんないけど、「ライト」だけでいいなんて、他の魔法より簡単なのね。
火土水風の魔法も、上級者になれば詠唱破棄で魔法が使えるが、最初から不要なんてなんて素敵なのかしら。あの呪文、長ったらしくて舌を噛みそうだったんだもん。
わたしは言われたまま手のひらを上に向けて「ライト」と唱える。
すると、0・一秒くらいのほんの僅かな時間だけぴかっと光った。
「……これだけ?」
「ふむ」
ハイライドは神妙な顔をして一瞬だけ光った虚空を見た後で、わたしの肩の上に立ち上がると、ぽんぽんとわたしの頬を撫でた。
「どうやら、魔力不足だな」
……光魔法を操るには、わたしはまだまだレベル不足のようだった。
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