白薔薇の庭 2

 白薔薇の庭~白薔薇の庭~どんなところかしら~きっと素敵なところだわ~。

 自作の鼻歌を歌いながら、放課後、わたしは白薔薇の庭の入り口にやって来た。

 バラをかたどった優美な柵の向こう側は、まるで別世界のように咲き誇る真っ白な薔薇で埋め尽くされている。

 入り口には守衛さんがいて、コインを見せたら鍵を開けてくれるのだ。

 その守衛さんの建物の側に、お兄様が立っているのが見えた。


「お兄様!」


 白薔薇の庭に入れるのが嬉しくて駆け寄ると、お兄様がふわりと微笑んでくれる。


「ちゃんと来たね、いい子だ」


 それはもちろん、来ますとも!

 何といっても憧れの白薔薇の庭ですからね!

 わたしとお兄様がそれぞれコインを見せると、守衛さんが入り口の門の鍵を開けてくれる。


「さあ、お嬢様、お手をどうぞ」


 お兄様がふざけた様子でわたしに手を差し出してきた。


 ……もう、お兄様ったら! お遊びが過ぎるわよ! でも、わたしはできのいい妹ですから、乗ってあげますけどね!


「素敵なナイトさん、わたしの手を離しては嫌ですわよ」

「ふふふ、お前の中で私はナイトなのか。まあ、悪くはないね」


 お兄様がくすくす笑いながら、わたしをエスコートして歩き出す。

 石畳の道を歩いて行くと、等間隔に四阿が立っている。

 四阿の中に人が入っていると、四阿の屋根の薔薇の蕾の彫刻が花開く仕組みだ。

 四阿の屋根の薔薇の彫刻が咲いていない四阿に入ると、中は八畳くらいの広さがあった。

 真ん中にソファとテーブルが置かれていて、壁際の棚の中には時を止める魔道具があった。あの中には飲み物やお菓子が入っているのだ。


 お兄様がわたしをソファに座らせて、魔道具の中からアイスティーの入った容器を取り出すと、棚にあるコップを二つ取って戻って来た。

 四阿の窓からは外の様子がよく見える。


「それにしても、お兄様、驚きましたわ。だって、白薔薇の庭のコインを申請してくださると思っていなかったんですもの!」


 アイスティーを受け取りつつ、ちょっと興奮気味に言うと、お兄様が楽しそうに笑う。


「それは申請するとも。何といっても、マリアは私と結婚するのだから」


 契約ですけどね、お兄様。

 でも、そんな些細なことはどうでもいい。

 今だけは、「ブルーメ」のヒロインにでもなった気分だ。というかそういう気分に浸らせてほしい!


 ……ああ、アイスティーが美味しいわ!


 白薔薇の庭の中だからだろうか、何の変哲もないアイスティーが、特別なものに感じられる。

 お兄様はアイスティーを飲むわたしをにこにこと見つめて、笑顔のまま言った。


「じゃあマリア、さっそく白状してもらおうか。土曜日、アレクサンダーと、どんな逢引きをしていたんだい?」


 ぶーっ!


 わたしは、口に含んでいたアイスティーをぶちまけた。


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