白薔薇の庭 1
月曜日。
寮から学び舎に登校したわたしは、何気なく靴箱を開けて目を丸くした。
靴箱の中に、白い封筒が入っていたからだ。
……まさか、ラブレター⁉
これがラブレターなら人生(前世含む)初である。
うきうきして差出人を見たわたしは、封筒の裏に「ジークハルト」と書かれているのを見て、がっくりと肩を落とした。
……なんだお兄様か。
でも、何故お兄様はわざわざ下駄箱に手紙なんて入れたのだろう。
靴を履き替え、手紙を持って、二年三組の教室に入る。
すると、あちこちから視線が突き刺さって来て、わたしは顔を上げた。
クラスメイトの女の子たちが、遠巻きに、じろじろとわたしを見つめている。
……もしかしなくても、アレクサンダー様とのお出かけのせいでしょうね~。
その前はお兄様、そして一昨日はアレクサンダー様と待ち合わせてお出かけしたわたしは、彼女たちにしてみたらさぞ面白くない存在だろう。
面と向かって文句を言ってくる人はいないけれど、わたしは針の筵にさらされた気分だ。
注目を集めながら窓際の自分の席に向かうと、わたしは白い封筒の封を切った。
……お兄様ったら、わざわざ手紙なんてどうしたのかしら?
同じ学園に通っていても、学年が違うのでお兄様との接点は少ない。
寮も、男子寮と女子寮に分けられているので、普通に生活していたら滅多に会うことはないのだ。
封筒から便箋を取り出すと、便箋の間に小さなコインが挟まっていた。
何だろうかと思ってコインを確認したわたしは、驚きのあまり息を呑む。
……白薔薇の庭の入場許可証‼
銀色のコインには、表にはわたしの名前「マリア・アラトルソワ」とお兄様の名前「ジークハルト・アラトルソワ」という文字、そして裏には薔薇の絵が掘られている。
……うっそー……。
まさか、わたしがこのコインを手にする日が来るとは思わなかった。
この世界の元になっている乙女ゲーム「ブルーメ」は、基本的には同じ名を冠する「ブルーメ学園」が舞台になっている。
そして乙女ゲームが舞台なだけあって、恋愛イベントのための特別な場所が用意されていた。
それが「白薔薇の庭」だ。
ブルーメ学園の敷地内にありながら、無断で侵入できないように柵がしてあり、扉には鍵までかけられているこの「白薔薇の庭」は別名「恋人の庭」という。
寮生活が原則のブルーメ学園は、男女共学でありながら、学び舎の中以外で恋人同士が会える場所がない。
何故なら男子寮も、女子寮も、それぞれ異性は立ち入り禁止になっているからだ。
けれども、この学園に通う生徒の多くが血気盛んな十代の男女である。
かつて、恋人に会うためにそれぞれの寮に忍び込んだり、門限を超えても帰って来なかったり、夜中に抜け出したりと、いろんな問題が生じたらしい。
そこで学園側は、それならば恋人たちが堂々と会える場所を作ろうと考えた。
それが白薔薇の庭である。
白薔薇の庭は、学園側に恋人同士であることを証明すると、入場許可証であるコインが発行される。
白薔薇の庭は、その名の通り、魔法で一年中枯れないようにしてある白薔薇にあふれた庭で、たくさんの四阿が置かれていた。
その四阿の中で、コインで恋人と証明されている恋人たちは、マックス庭園が閉園するまでの夜七時まで、誰にも邪魔されずに一緒に過ごすことができる。
ヒロインであるリコリスも、攻略対象と心を通わせたあとで、白薔薇の庭で甘いひと時を過ごしていた。
……憧れの白薔薇の庭に入れる!
相手がお兄様なのはちょっと怖いが、わたしは最初に「恋のABCはなしでお願いします!」と宣言していた。
だからきっと、そう言う意味での危険はない、はずだ。
……というか、多少の危険があったとしても入りたい!
実際に、ヒロインと攻略対象が甘いひと時を過ごした白薔薇の庭をこの目で見てみたい!
わたしはドキドキしながら二つに折りたたまれている便箋を開く。
すると、お兄様の文字でこう記されていた。
――今日の放課後、五時に庭園の入り口で待っている。
ということは、今日の放課後、白薔薇の庭に入れるんですね~!
わたしは思わず「きゃあっ」と歓声を上げてしまい、クラスメイト達に白い目を向けられてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます