第2話 …だる

それにしてもよくわからないことが多い。


そもそもなぜ今、こんな加護を得たのか。


取り敢えず部屋を探索する。


拳銃とデスクトップパソコンとでデスク、それ以外はほとんど何にもない殺風景、いや弾痕があるのでかなり不気味な部屋だ。


「…む、これは?」


とデスクの下に封筒を見つける。


封筒には何も書かれていない。


「…なんだろう」


だが、問答無用、で開ける。


「…むむむ」


そこには一枚の手紙。




翼へ


新東京都十王市横町○○


ここへ行け




そう書かれていた。


「…私に?」


そう、翼、つまり、多分、私宛。


…ますますわからなくなってきたが…どうやらこの状況は何者かに…仕組まれたものだ、確実に




「…む、めんどい、保留」


ということでなんかもうめんどくなったので保留することにした。


別に日時とか書かれてなし、まあここにはその内行ってみよう。うん、それでいい。


時刻は既に23時50分、明日も学校だし、もう、寝る。












翌日


「…行ってきます」


母はすでに仕事へ行った。だから一人家を後にする。


「…む、いい天気」


5月上旬天気は快晴だ。


通学路を歩く、同じ高校の生徒がまばらだがいる。


「翼ちゃん!」


「…む」


とそこで自分を呼ぶ声。


「おはよ!」


「…おはよ」


現れたのは同級生の子、名前は知らない。


それからたわいもない世間話。


友達の名前も知らないって?


だってこの子は別に友達じゃないから。


…「持たざる者」のほとんどは若いうちに社会からドロップアウトする。


簡単だ、周りからの蔑み、哀れみ、に耐えられなくなるから。


現にこの話しかけてくる同級生は…鈍い私でもわかる、明らかに哀れみが視線に込められる。


…だるい。


別に同情なんて求めていない。私は。








「じゃあ!」


そう言い自分の席に向かっていくあの子、いつの間にか、教室についていたようだ。


「…」


無言の視線の圧、私は様々な視線の元にさらされる。


様々だが…共通していることがある。


―なぜお前はまだここにいる―


被害妄想だろうか…いや、違うだろう。


社会に萬栄している空気、即ち「持たざる者」は日の当たるところにいては場違い。


この人類社会は加護を持つものの場所。


…加護を持つ者こそ昔は異常者だったのに、圧倒的なマジョリティとなって異常者は…自分が異常ではないと思い込むようになった。


だるい…だがどうでもいい、だってどうやら昨日から、私も、異常者になったから。


…まあ少し意味が違うのだが。


例えば「迷宮の加護」持ちの人間同士だと攻撃しあっても大したダメージは与えられないようになっているらしい。


…だが、私は、多分、殺せる。


…これがなんかイきりとか中二病とかいう奴なのだろうか、なんかここであの拳銃を…乱射したら…最高に…ハッピーな気分に…


「やあ、なんか今日はやけに楽しそうだね、翼」


「…む、雅」


と、なんかトリップしていた私に話しかける男子が一人。


厳島雅、小柄で生意気そうな顔をした男子。


「…別に」


「そう、今にもテロりそうな表情をしていたよ?君」


「…」


何故わかるし、いや今のはただの侵入的思考であって…


まあいいや、雅は何時も何故か私の考えていることを当ててくるし。いつものことだし。


…む…とまあ、私が家族以外で唯一名前を憶えている人間がこの厳島雅だ。


幼馴染…いや腐れ縁?


「わかるよ?有象無象にああいう視線を向けらればね」


む、相変わらずのクソイきりガキっぷり。…え?鏡見ろ?…む。


…まあ雅は弱冠16にしてAランク探索者なのだから、こう、周りを見下すようになるのは仕方がない。


「で、なにがあったの?」


「…む?」


「昨日までとまるで雰囲気が違うよ、君」


…いつものことだが、何故わかるし。


「…加護」


「…ああ、なるほどね」


いや、自分で言うのもあれだが今の一言で何を察したし


「どうやら、君の父は賭けに勝ったようだね」


「…何を知っている、雅」


「さぁね?とりあえず…その場所に行ってみれば?」


雅、全部知っている?何故に?


…まさか蒸発した父とも関係があったのかな。


というか、今回の件のステークホルダーの一人っぽいんだけど?流石に怪しすぎる。


「…あの場所に何があるの?」


「行けばわかるよ…じゃ」


そう言って自席に向かう雅。


…だる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る