モタザルモノの弾痕~現代兵器はえげつない~

@TOKAGE123

第1話 拳銃と弾痕

SNSにはインフルエンサー探索者たちの投稿で溢れている。

何故か部屋にある少し古い型のテレビでは芸能人探索者なる存在が目に付く。

人類の誇る現代兵器が一切通用しないモンスターを生み出すダンジョン、同じく現代兵器を無効化する「迷宮の加護」を持ち、モンスターを倒すことのできるスキルに覚醒しダンジョンを探索する超人「探索者」。

それらが一般的となった現代。

人類の実に8割ほどが10歳までに「迷宮の加護」を得るに至った現代。

私、竜谷翼は残りの2割…つまり「迷宮の加護」を得られなかった、選ばれなかったマイノリティー、まあ、悪く言うと、新たな被差別階級。

「…だる」

スマホをベッドに放り投げ天井をただ無意味に見つめる。

だるい。

それが今の心情を一言で表すもの。

「迷宮の加護」はあらゆる恩恵をもたらす…つまり「持たざる者」との差はびっくりするほど大きいのだ。

其れこそ気が滅入るほどに。

当たり前だ、探索者がいなければ世界は魔物に滅ぼされるからだ。

だが人間は結局感情で動くものだ、「持たざる者」の一部が持つ不満は…最早危険なものになっていた。

だから、私は、だるい。

この歪すぎる社会が。






「…むっ」

それから暫くして、寝る準備にと部屋を出た所で異常に気が付く。

隣の部屋のドアが、空いていた。

隣の部屋は、十年前に蒸発した父親が使っていた場所。

父が消えて以来鍵がかかっていた場所だ。

それが…何故か空いていた。

「…なんだろ?」

ドアが壊れたのかも?

取り敢えず占めておこうと部屋の前に立つ。

そこで私の視界に部屋の中の様子が映る。

放置されて埃っぽい部屋、少し古いデスクトップパソコンが置くに鎮座する。

「…」

そのキーボードの横にあるものに私は驚く。

それは、明らかに、拳銃であった。

「…モデルガン?」

そのまま引き寄せられるように部屋に入りデスク上の拳銃を見る。

大型で、サブレッサーなるものが付いている。

モデルガンにしても何故デスクに放置されているのだろうか。

躊躇なくそれを手に取る。重い、冷たい。

まるで本物みたいな出来だ。

…ほんとに偽物?

「…そいえば」

今にして思えば蒸発した父の職業を知らない。

昔、父の職場に見学に行っていたような気がするが…何故か記憶が曖昧だ。

ただ莫大な資産を残していなくなったので、なんとなしに、普通のサラリーマンではない事だけは分かる。

「…そもそも、ん!?」

そこで気が付く、部屋の壁に複数の穴が開いていた。

それは…まるで弾痕。

びっくりして、少し後ずさる。

…カラン。

そこで私の足に何かがある。

「…これは」

それを拾い上げてみる。

それは縦に潰れたような形をした金属塊。

…とある理由で、少しだけ、ミリタリーの知識がある私にはすぐに正体が解った。

「…弾丸」

そうなると…

「…じゃあ、この拳銃は…本物?」

そう私が呟いた時

―加護を得ました―

頭の中にそう合成音声のようなものが響く

「⁉…これは」

加護を得た時に起こる現象だと聞いた、頭の中に突如声が響くと。

しかし私は今16歳、加護を得るには遅すぎるはずだが…。

「…そうだ」

色々と訳の分からないことだらけだが、確認しておくことがある。

加護、つまり「迷宮の加護」を得たものは「ステータスプレート」なる光るウインドウを展開できるらしい。

それで本当に加護を得られたかどうか判断できるはず。

「…ステータスプレート」

そう唱える、すると目の前に光るウインドウ…ステータスプレートが現れる。

「…出た、ほんとに…あれ?」


名前 竜谷翼

加護 鉄血の加護

称号 武器商人の娘

スキル「加護貫通付与」

武器スキル「M1911」


…色々と突っ込みどころがある。

まず…

「…加護…鉄血?」:

ステータスプレートにはそう記されていた。

何これ?

「迷宮の加護」ではない「鉄血の加護」

「…だる」

なんかもうよくわからな過ぎて頭を抱える。…頭を抱える?

「…あれ、拳銃どこいった?」

手に持っていたはずの推定ものほんの拳銃がいつの間にか消えていた。

「…え、あれをなくすの、私」

慌てて周囲を見回す、そこではたと気が付く。

…ステータスプレートにある「武器スキル」、これは確か念じると召喚できる武器が表示されるらしい。

そしてステータスプレートには…武器スキル「M1911」なるものが。

まさか。

「…きて」

あの拳銃をイメージして、そう唱える、多分これでいいはず…多分。

すると数秒後

「…む!?」

空中に…あの拳銃が現れる、それは数刻後、重力に引かれ落下し。

それを慌ててキャッチする。

手に戻る、重さ、冷たさ。

拳銃、魔物にも…人類の8割にも通用しない武器。

私は、なぜか、その拳銃のスライドに手を翳し、コッキングをして弾丸を薬室に送り…両手で構え、部屋にある花瓶にアイアンサイトを合わせる。

なぜか、そうしろと、何者かに強いられているかのように

―パシュッ

案外軽い音と共にマズルフラシュが部屋を照らし。

私はまるで訓練を積んだ職業軍人のように反動を受け流す。

結果は単純、花瓶は砕け、貫通弾が部屋の弾痕を増やす。

我に返る。でもなぜか先ほどの行動への違和感はない。

何より…本物だ。予想どおり。

「…でも」

初戦、拳銃は探索者が使う魔剣や魔装に比べ何の意味もない、人類の2割にしか通用しない旧世代の兵器だ。

…まあ、それでも「持たざる者」からしたら十分脅威ではあるが。

「…待って」

そこで思いだす、ステータスプレートを見る


名前 竜谷翼

加護 鉄血の加護

称号 武器商人の娘

スキル「加護貫通付与」

武器スキル「M1911」


スキル「加護貫通付与」…鈍い私でも何となく…

それをタップしてみる。


スキル「加護貫通付与」

付与された兵器はあらゆる加護を貫通する


そう書かれていた。

「…付与」

そう唱える。すると拳銃は少し青く発光する。

「…だる」

遅まきながらすべてを察した私はそう呟く。

つまり、あれだ?私が加護貫通付与をした旧世代の兵器は…加護に守られているはずの魔物や…探索者に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る