第59話:学年チーム戦の前日
講義と特訓によって日々は過ぎ去り、学年チーム戦が明日に控えた頃。俺たちは当日の動きについて君島から説明を受けていた。
学年チーム戦での生徒会の役目は監視だ。
各部屋にはVR機器に繋がるVR空間を覗くことのできるモニターがある。それはVR機器に接続したユーザーを映し出すようになっており、ユーザー数ごとにモニターの画面も増えていく。
生徒会のメンバーはそれを見て、不正を防止したり、様子のおかしい生徒に声をかけたりする。そのため、VR空間との通信の取れるヘッドセットをつけておく必要があり、ヘッドセットの使い方も予め予習しておく必要がある。
とはいえ、一つの試合に対して、生徒会メンバー1人と先生1人がつく手筈となっているので、使い方が分からなくても先生がなんとかしてくれるだろう。
「以上が学年チーム戦での我々の動きだ。今日の夜、または明日の朝に今一度自分たちの動きについて各々で確認するように。私からの説明はこれで終わりとする」
君島は話を終えると、久世さんにバトンタッチした。
「では、今日の議会はこれで終了とする。試合時の作戦等は今日のうちに済ませておくように。我々は学年チーム戦の際はチームから離れることが多いからね」
注意喚起を含めた閉会の言葉が終わり、本日の会議は無事終了することとなった。
明日からは学年チーム戦だ。今までの特訓が無にならないように気合いを引き締めていく必要がある。
「明日はよろしく頼むぜ」
会議が終わるとすぐ隣にいた宵越が話しかけてくる。明日の試合が待ちきれないのか、心の中で闘志を燃やしているように目がギラついていた。
学年チーム戦の対戦表はすでに公開されている。
最初はリーグ戦が行われる。5チームが1つとなり、上位2チームがトーナメント戦に進む方式だ。俺と宵越は共に同じリーグに属している。それも最初の対戦相手として設定されている。
「いつも負けているから一緒になって不満を垂れると思ったけど、そうでもないんだな」
宵越とは午後のカリキュラムでよく戦っている。
彼女が「本気でやれ」と言ってくるので全身全霊を持って戦っているのだが、結果はいつも俺の勝ちで終わる。一度も勝てていない相手に対してここまで強気に言えるのは、ただ単に強がっているだけでなのか、それともちゃんとした根拠があるのか。
「個人だったらそうかもしれない。でも、今回はチーム戦だからな。いつもとは勝手が違う状況なら、私が勝つ可能性は捨てきれない。学年チーム戦という大舞台でてめぇの負け面が拝めてやるよ」
どうやら、ちゃんとした作戦があるみたいだな。
「楽しみにしてるよ。忘れてもらっては困るけど、俺にもチームがいるからな。いつもと勝手が違うのはお互い様だぜ」
ここ最近の特訓によって、美里の【部分時戻】も強化されたし、晶の【瞬間移動】だって進化した。チームとして盤石な状態だ。そう簡単に負けることはないだろう。
「試合は明日だっていうのにすでにバチバチだね」
二つ隣の席にいた暦が俺たちの様子を見て、微笑ましい声を上げる。夜襲から数週間の時が過ぎたため、体の傷はすっかり癒え、いつもの元気を取り戻していた。
「二人の自信を見る限りは勝ち上がってくる可能性が高いね。トーナメント戦で戦えることを楽しみにしているよ」
俺と暦の間に座る我妻も会話に加わってくる。まだリーグ戦が行われていないというのに、早くもトーナメント戦の話を持ち出す。我妻も相当自信がある様子だ。
「じゃあ、私は久世先輩に言われたとおり、これからチームで最終チェックに入る予定だから先に行くわね」
「私も行く!」
我妻が席を立ち、生徒会室を後にする。宵越も彼女についていき、一緒になって出て行った。午後のカリキュラムを通して二人は仲良くなっていった。お互い波長が合うのだろう。宵越は見るからにして戦闘狂だが、我妻も同じような性格をうちに秘めている。
「警備の方はどうだ?」
暦と二人になったところで俺は話題を切り替える。
「特に何もなし。今はただ彩月や凛音とおしゃべりしてるだけで終わってるかな。最近は一緒になってゲームしたりしてる。本当は一緒にお風呂に入ったりしたいんだけど、入浴中に敵が来ないとも限らないからできないんだよね」
「軽いお泊まり会になっているな……」
暦もまた警備を通して二人と絆を深めているようだ。夜襲を受けた当初は元気がなくなっていた暦だったが、宵越や我妻が一緒にいてくれたおかげでいつもの朗らかさを取り戻していた。二人には感謝しないといけない。
夜襲はあれっきり音沙汰がない。敵はただ暦と神巫さんに対して「深入りはするな」と警告したに過ぎなかったのだろうか。
「二人とも。少しお話があるのですが、お時間を頂いてもいいですか?」
暦と話していると、神巫さんが俺たちに声をかけてきた。彼女の横には睦美さんがついていた。おそらく敵に関することだろう。
俺は一度暦に視線を合わせる。彼女も感づいたのか先ほどよりも真剣な顔つきになっている。俺は神巫さんに向き直り、深く頷いた。
席を立ち上がり、俺たちも生徒会室を後にする。それから廊下の端に設置された階段へと歩いていった。
「お二人に話したいのは私と伊井予さんを襲った敵についてです」
着くや否や神巫さんは本題に入っていく。睦美さんは壁にもたれながら視線を散らつかせている。おそらく部外者が耳を挟まないよう警戒しているのだろう。
「私たちを襲ったきり敵は姿を現していません。ですが、私としては今回の学年チーム戦のどこかで敵が私たちを狙いにくると予想しています」
神巫さんの言葉で緊張感が高まるのを感じた。
「どうしてそう思うんですか?」
俺よりも先に暦が神巫さんに尋ねる。
「簡単な推理です。敵が夜襲した目的が『私と伊井予さんを狙う』だったとしても、『私と伊井予さんに警告する』だったとしても達成できていないからです」
成果はゼロに近いが、俺たちは今もなお誇誉愛さんについての情報を集めている。
「達成できていない以上、どこかのタイミングで敵が再び我々の元に姿を現す可能性は高い。そして、学年チーム戦では我々を狙えるタイミングがある。敵はそれを見逃しはしないでしょう」
「確かにそうですね。学年チーム戦は生徒会のメンバーと先生で監視をする。もし学校側が今回の騒動を巻き起こしているとしたら、先生方は敵側に位置する。そうなれば、私たちが一人になるシチュエーションが生まれるわけですね」
暦の発言に、神巫さんは頷く。
「毎度理解が早くて助かります。暦さんの言うとおり、先生がいるからと言って安心はできません。彼らが敵側であれば、学年チーム戦の間に我々に何か仕掛けてくる可能性があります。ですから、危険な状況に陥った場合は我々にすぐに『警報』を飛ばしてください」
敵が仕掛けてくるのは危険な状況ではあるが、見方を変えれば誇誉愛さんに関する調査を進めることができる。だから神巫さんは前もって俺たちに注意喚起したのだろう。
「次は必ず彼らの誰かを捕まえ、誇誉愛先輩の居場所を聞かせてもらいましょう」
前回の失態を深く恥じているのか、神巫さんの瞳には火花が飛び散っていた。暦もまた神巫さんに感化され、拳を強く握りしめる。
神巫さんの用が終わったところで、俺たちはその場で解散となった。神巫さんはそのまま階段を上っていく。暦は俺に挨拶してから廊下を歩いて行った。
「久遠くん」
時を見計らって俺も立ち去ろうとしたところで壁にもたれていた睦美さんに声をかけられる。
「何かありましたか?」
睦美さんの方を見ると、彼女は急に俺との間合いを詰めてきた。前のシチュエーションがフラッシュバックし、思わず息を呑む。俺の緊張が彼女に伝わったのか、睦美さんは嘲笑するように微笑んだ。
「ごめんね。今回はスキンシップをするつもりはないわ。一つ伝えておきたいことがあるの」
彼女はそう言って、俺の耳元で注意事項を伝えたのだった。
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