地球、冷やしてました

CHOPI

地球、冷やしてました

 今日は平日なのに何やら外が騒がしい。……なんだ? ふとカレンダーを見て、少し考えてからようやく合点がいった。もう7月も下旬。そりゃいつもより賑やかな声が聞こえてくるのも当然だと思う。


 先日この時期恒例の、ランドセルの蓋部分にうまいこと防災頭巾をはさみ込み、重たそうな手提げバッグを両手にかけ、必死の顔で朝顔の鉢を抱えて歩いている背の低い集団を見かけたところだ。いつも思うんだけど、なんであんなにも担任の先生が『計画的に荷物を持って帰ってね!』ってアナウンスしているにも拘わらず、こういう集団が各地で発生するんだろう。もはや季節の名物のひとつにすら思えてくる。


 座卓にささやかな朝ごはんを広げながら、ふとそんな回想に浸り始めていたところを、外から聞こえてくる賑やかな音色が現実に引き戻しにかかる。


「待ってよー!」

「早くしないと置いてっちゃうよー!」

 同時に聞こえた一生懸命走る音。無事に追いついたのか『ごめん!』という声と『いーよー、早く行こー!』と応える声。賑やかな声はやがて遠くなっていく。


 ジー、ジー!!

 ミーンミンミン……

 夏の象徴のような鳴き声がかすかながらに聞こえてくる。もうあと数週間すれば、この音ももっとやかましいものになるんだろう。


 そんな音に耳を傾けつつ、一人座って手を合わせ、いただきます、と口にする。そうしてから箸を取り、味噌汁を一口すする。う~ん……、我ながら良い出来。簡単に塩で漬けたきゅうりをかじりつつ、白米を口に運ぶ。口に広がるきゅうりの塩味が白米と程よく混ざって解けていく。目玉焼きに手を付けながら壁掛けの時計に目をやると、8時を少し回ったところだった。


 ……なんだろう、この、得体のしれない違和感。


 咀嚼しながら考えてみるものの、一向にその正体はわからないままだった。隣にいる相棒(扇風機)が送り出してくれる風がなんだか少しだけ生ぬるく感じて、一段階風量をあげる。もう一度口をつけた味噌汁の温かさが身体をじんわり温めて、体温を少しずつ上げていくせいで額に汗がにじむのが何となくわかる。汗ばんだ肌にまとわりつく空気に質量を感じて少し嫌になった。


 少しジトッとした気持ちのまま朝食を終え、立ち上がってお盆に食器類を乗せてキッチンへと運ぶ。それから食器類を流しに突っ込んでサクッと皿洗いを終わらせて、自室に戻った所でようやく気が付いた。


 


 窓が!! 開いている!!!




 必死で冷風を出しているエアコンの下、窓が1/3ほど開いていて、そこから生ぬるい風が吹き込んでくる。


 ……通りで今日は外の音がやたら聞こえていたわけだ……


 納得したと同時に膝から崩れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地球、冷やしてました CHOPI @CHOPI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ