第11話 夢
ヒスイは夢を見ていた。
真っ暗な空間に1人で立っている。
向こうに人影が見えたので、走り寄って声をかけるとこっちを向いた。
「………ナズ?」
7年前に会った時と寸分変わらぬ姿がそこにはあった。
「ナズ?え?また会えるなんて。なあ、地上に行った時は助けてくれてありがとう。俺、話したいことがいっぱ……」
「来るな!」
近づこうとするヒスイを、ナズは大声で拒絶する。
「……巻き込んでしまってごめん。でも、どうしても、俺で終わりにして欲しかったんだ………。お前はこれ以上こっちに近づいたらいけない。………早く待っている人達のところへ帰れ」
泣きそうな声なのに、手を顔で覆っているから泣いているのかはわからない。
そんなナズにどうしていいかわからずにいると、そのまま後ろにグイッと引っ張られる力を感じ、ヒスイはナズからどんどん遠ざかった。
「ちょっと待って………ナズ!せっかく会えたのに!話を聞かせてくれよ!」
ナズの姿が見えなくなる。ガクッと落ちる感覚を感じて、ヒスイの意識は途切れた。
次の日もヒスイは起きない。
相変わらずベッドのそばから離れないレインは、頭を撫でてみたり、話しかけたりしている。
「明日はコトラが来るって。みんなに色々な所に連れて行ってもらったから、勉強したいことがいっぱいあるんだ。だからヒスイも一緒に勉強しよう」
返事のない横顔に、レインは泣きそうになる。こんなことではダメだと頭を振って再びヒスイを見ると……
ゆっくりとヒスイの瞼があいた。
「ヒスイ!わかる?僕だよ!レインだよ!」
しがみつくようにヒスイの手を握り、レインは必死に話しかける。
少し遅れて意識がもどってきたのか、ヒスイがレインのほうを向き「どうした?泣きそうな顔して」とか細い声で答えた。
「………!トーカ!クキ!ヒスイが目を覚ました!」
レインの大声にトーカとクキが部屋にやってくる。ヒスイの目が開いてるのを見て、クキは泣きながら抱きつき、トーカはその場でホッと胸を撫で下ろした。
「ナズの夢を見たんだ」
自分が2日間も寝込んでいたことを聞いて驚いたヒスイは、眠っていた間のことを話し出した。
ナズに言われたこと。最後はどんどん遠ざかって目が覚めたこと。
それを聞いてトーカは自分の仮説が正しかったことを確信した。
その上で、昨日クキ達にした話をヒスイにも聞かせた。
「ナズが拒絶して最後は遠ざかったということなら、感覚の共有はひとまず切れていると考えていいだろう」
トーカ達は安心したが、ヒスイは納得しきれない様子だった。
「……ナズは泣きそうな声だったんだ。もっと話を聞いてやりたかった。ヤドを解放する術が見つかったなら、あいつに救いを与えてやりたかった」
布団を握る手に力が入る。悔しそうにするヒスイの肩に、トーカが手を置いた。
「落ち着いたらラボに話を聞きに行こう。俺達にできることはなんなのか。それを考えるんだ」
「でもまずは体力を回復しないとね。ずっと寝てたんだからすぐに動いちゃダメだよ。レインくん手伝って。とりあえずおかゆ作ろう」
「うん!」
クキとレインは慌ただしく部屋を出ていく。
悔やんでばかりでは前に進めない。
ヒスイは、待っている人達のところへ帰れと言ったナズの言葉が頭を離れなかった。
数日後。ヒスイたち4人は組織のラボに向かっていた。
本当はヒスイとトーカだけで向かうはずだったが、レインがどうしても行きたいと珍しくゴネたので、保護者としてクキも一緒に4人で来ることになったのだ。
「いらっしゃい。ヒスイ君、体調はどうかしら?」
所長室へ行くとプティが歓迎してくれた。ヒスイが倒れた件は必要な人達には伝えてある。
「プティさん。もう大丈夫です。心配おかけしました」
「念の為サリに検査をしてもらえるよう頼んでありますので、ヒスイ君はまずそちらへ」
ヒスイと付き添いのトーカだけプティに連れられ所長室を出る。
残されたクキとレインのもとには、ノーマがやってきた。
「待っている間ヒマでしょう。ラボを案内します。ついてきてください」
ノーマは2人にラボの中を案内して回った。近づかなければ研究している所も見ていいと言われ、クキとレインは初めてくるラボに興奮しっぱなしだ。
「ここが訓練室です。ヒスイの武器を作る時もここで色々と試して武器を決めました」
部屋の隅には様々な武器が置かれている。
武器なんてなかなかお目にかかれない2人は、近づく許可を得ようとノーマに熱視線を送る。
「触るのは危険ですが、見るだけならいいですよ」
興味を隠そうともしない2人にノーマは苦笑する。
「やったー」と喜んで2人は武器を眺めはじめた。
「敵を捕まえるトーカとクキかっこよかった。僕もあんな風に戦えたらいいのにな」
レインの呟きにノーマが反応する。
「……武器を持つというのは覚悟のいることだ。俺も作る時は持つ者の気持ちを考えて慎重になる。ヒスイは君にそんな覚悟をしてほしくはないと思うぞ」
叱るようにではなく、諭すようにノーマは武器の怖さを教える。憧れで言った言葉の重さを知ったレインは反省した。
「そうだね。簡単に言っちゃダメだよね。ありがとう。ノーマさんはいい人だね!」
素直な感謝にノーマが照れる。
クキはそんなやり取りを微笑ましく見ていた。
別室では、サリがヒスイの体に異変がないか検査をしていた。
「特に問題はないようですね。ヤドの適正に関してはここでは調べられませんが、感覚の混線状態もひとまずは落ち着いているようです」
トーカが「そうか」と胸を撫で下ろす。
あちこちを器具で繋がれたヒスイはずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「ナズと感覚がまた繋がることはあるのか?俺から繋いたりはできないのか?」
「前例がないので何とも言えませんが、ヒスイ君からというのは難しいと思います。ナズ君からアクセスしてくるのは可能かもしれませんが」
「そうか」
ナズの心が知れるかと期待していたヒスイは落ち込む。
トーカはその肩を優しく叩いて元気づけた。
「とりあえずナズの言葉を実現できるか考えよう。もうすぐアサギが来るから、ヤドの解放について話を聞いてみようか」
ヤドの解放。数多の人々が心血を注いで望んでいたことが、だんだんと現実味を帯びてきていた。
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