鬱と生きる~優しい世界で自然体で生きていくために~
サトノハズキ
プロローグ
今でも私を苦しめる。
20年以上前に患った病気がある。
鬱。
便宜上、ここでは鬱を「彼」と呼ぶ。
私は彼と人生を歩いている。
『もう、付いてくんなよ』って思ったことは、数えきれない。しかし、彼はいつもそこにいる。いつだってそばにいる。
彼は、たまに鳴りを潜める。そういった時の私は、そこそこ陽気なおっさんだ。しかし、彼はいなくならない。彼は静かに牙を研ぎ、調子に乗った私に襲い掛かる。調子に乗れば乗るほど、その反動は大きくて、私は何もできなくなる。
そんな彼と、私は人生を共にしているのだ。
私のことを少し。
妻と3人の子どもの夫であり、父である。
20歳で養子に入って1年足らずの21歳での大叔父との別れを皮切りに、3年連続家族を失った。22歳の時に兄をオーバードーズで、23歳には父を肺がんで亡くした。
そうして、心が壊れた私は彼に出会う。心が痛くて痛くて仕方がなかった。何もできない日々をただただ息をするためだけに過ごしていた。
私がそれでも今を生きていられるのは、妻や心優しい人々に出会えたからだ。
まだまだこの世界は彼を誤解している人が多い。
彼は人の心をまず殺す。
心が死んだ人間は実際の死を選びやすい。
しかし、彼は決して心が弱い人がなる病気ではなく、日常に常に潜んでいる。
彼を患うと日常は簡単に崩れ去る。
それでも私は、彼と生きている。
生きていられるのは、彼との付き合い方を学び、彼との共生を選んだからだ。そのころから少しずつ、私は人間に戻りつつある。
こうして、私が声を上げようと思えたのは、優しい世界の訪れを待つことにくたびれたからだ。
今、苦しいあなたのために私が彼と生きる証を残す。
家族を失って鬱を患って、家族を得られても鬱と別れられないこんな人間がいることを一人でも多くの方に知って欲しい。
知ってくれたなら、ほんの少しだけ私が理想とする世界に近づいてくれると思うから。
あなたの隣に、行き辛さを抱える人がいることを知ってくれたなら、世界は少し優しくなるだろう。
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