牡丹と獅子 双雄、幻異に遭う

翁まひろ/角川文庫 キャラクター文芸

 そのたんは、こつぜんと現れた。

 兄の頭上にぽっと浮かんだかと思うと、半開きだった紅紫色の花弁を、一枚、また一枚と開いていった。

 秘められていた黄色いしべがあらわになり、ほのかな香りがただよいはじめる。

 それを、らくほうはただぼうぜんとして見つめた。

「どうかしたのかい、洛宝。急に黙りこんで」

 不自然に会話を止めた洛宝に気づいて、兄が不思議そうな顔をする。

 だが、洛宝はなにも答えられなかった。

 まばたきすら忘れ、あでやかに咲きほこる大輪の花に目を奪われる。

 げんそうにしていた兄の目が、ふと、見開かれた。

 ほんのいっとき、視線を泳がせてから、兄は困ったようにほほえんだ。


「そうか。私はもうすぐ死ぬのだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る