天使さんと悪魔さん!

正徳タコ

第1話 堕天回避

 大天使だいてんしミカエルだとかなんだとか、名だたる偉大いだいな天使様はいる。でも、それは偉大だから名前が残っているだけなのだ。

 天使なんてものは実はたくさんいて、大天使と呼ばれているのは結構昔の話。歴史をたどれば、過去の人間の方が偉大な人が多いのではと思ってしまうのと同じ。

 だからてきとうに寝て起きてをかえしていたら千年なんてあっという間に過ぎると思っていた。


「二九三番。早急に神殿しんでんへ顔を見せよ」


 天の声がひびいて、その他天使たちはまたアイツかとあきれた顔をする。同僚どうりょうの一人が二九三番の鼻提灯はなちょうちんを割ると、しぶい顔で神殿の方を指さした。


招集しょうしゅう。何やったの」

「何もやってない」

「何もやってない、をやったってわけか」


 二九三番はぼやけた視界に目をこすって大きく伸びをする。

 この時まではただいつものようにしかられるだけだと思っていたのだ。




「……へ?」

「もう一度言う。地上に降りて天使としてのり方を学び直して来なさい」


 これは堕天だてんの一歩手前の命令。地獄じごくくだれと言われないだけましだが、しぱしぱと瞬きをして現実を受け入れるのに時間を要していた。

 しかし神も無慈悲むじひ、というか、もうしびれを切らしたようだ。


「七つの大罪のうち三つも犯し続けている。これは重罪だ」

「たった三つだけで!? 天使生てんしせい初めてまだ三百年なんだから、なにも地上に下ろさなくても──」


 これが最後の言葉だった。

 二九三番は天使のいない地上で唯一の天使に。番号ではなく、そう人間を名前でなく『人間』と呼ぶように、『天使』と呼ばれる生活が始まるのだ。


「……っていや、地上の生き物に天使は見えないはずなんだけど!?」


 少なくとも地上よりも格上である天界に住む天使は、どうやって生きて行こう。前途多難ぜんとたなんである。

 天使は天界から突き落とされ、それが遺言ゆいごんごとくなった。


 天使三百歳、突然ピンチです。

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