第4.5話 幕間:団子屋の娘の苦悩

 自宅に帰った葉月は、シャワーを浴び、ベッドの上に大の字に転がった。

 まだ心臓がどきどきしている。

 西島が触れたウエストに、手の感触が残っていた。

「はずかしいぃぃ~!」

 ごろりと寝返りを打ち、枕に顔を埋める。

 頬が熱いのは、シャワーのせいか、それとも……。

「んんーッ!」

 枕に顔を押し当てて大きく声を上げる。そして、ぷはっと顔を上げると、盛大に息をついた。

「はぁ……。もう、バカね。中学生じゃあるまいし、ハグしたぐらいで……」

 恋愛経験がない訳じゃない。だけど、こんなにどきどきするなんて。

「ちょっと待って。心臓でも悪いのかしら?」

 思わずスマホを手にする。どこか調子が悪いと、直ぐに検索する癖がついた。


『胸がドキドキする 原因』


 キーワドを入れる。だが、検索はしなかった。

 本当は答えなんか分かっている。

 自分は西島に惹かれている。恋をしているのだ。

 公園で思わずしがみ付いた自分を、拒絶することなく抱きしめてくれた西島。

 そして西島の腕が緩み、互いの目が合った時、葉月には予感があった。

 あったのだ。キスが来ると!

 それが──!

 

「なんでぇ~!」

 

 葉月はあの時のことを思い返し、枕をバシバシと叩いた。

 二人の目が合ったその瞬間、西島はふいに葉月から体を離すと周囲を見回した。

 そして、急に「遅いから送る」と、一時間かけて葉月を家の前まで送り届け、そしてあっさりと帰って行ったのだった。

「何がいけなかったのかな。ラーメンにニンニクは入れてないし……。え。太ったとか? 意外に腰回りが太くてうわっ! とか?」

 葉月は起き上がると、鏡の前でパジャマを捲った。

 

 なぜだ。

 どこだ。

 何がいけなかった?

 食べた直ぐで胃が出てたとか?

 

 必死に考えるも、なにも浮かばない。

 一体全体どうなっているのか。

 葉月はその場に座り込んだ。


「なんで? なぁんでよぉぉぉぉーッ!」


 葉月の不毛な夜が更けていった。

 

 

 

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