第1話 アヴェ・マリア

 夏は嫌いだ──。

 日が長いせいでいつまでも明るく、仕事・・がしづらいのだ。

 暑さで体もべたつく。臭いも酷い。

 でも──、不思議と獲物の汗は嫌いじゃない。

 恐怖で出る汗はサラサラしているせいだろうか。

 ただ、糞尿については例外だ。

 だから、捕まえたら何も与えずに数日生かしておく。そうやって、獲物の中からあらゆる汚れを出しておくのだ。

 そう。こいつらは鰻と一緒だ。

 

 暗く、湿った廃工場に、鼻歌を歌いながら祭壇を作る。

 マリア像に十字架。銀とはいかないが、燭台と蝋燭。

 蠟燭に火を灯し、薔薇の花びらを、血の飛沫の一部のように散らす。

 一旦離れて全体を眺める。

 ふむ。いいだろう。

 己の罪で穢れた豚も、こうすれば傍目には美しい。


 さあ。

 こんなに美しく飾ってあげたのだから、早く見つかるといいね。

 この暑さだ。

 あっという間に醜く変わる。


 小さなMP3プレーヤーに手を伸ばす。

 がらんとした工場内に、透き通ったアヴェ・マリアが響き渡った。

 


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