第38話:自重自粛

「……なあ、これで3頭目だよな、あと何頭運ぶ気だ?」


 気安くなった東大城門の兵士があきれたように聞いてくる。

 あと7頭いると言ったら、あきれるのを通り越して怒りだすだろうか?


「それは神様の加護しだいなので、僕にも分かりません」


「それもそうだな、人間の身で神様の御心は分からんよな。

 4度であろうと5度であろうと、もう驚かないぞ、行ってくれ」


「ありがとうございます」


 東大城門を守る王都警備隊の隊長と他の兵士たちも笑ってくれている。

 僕が強大な魔獣を狩れる人間なのを受け入れてくれている。


「すっげぇ~、こんな大きな魔獣初めて見た!」

「本当にすっげぇな~、いくらになるんだ?!」

「なあ、さっき見たのはシカ系だったよな、これはウシ系だよな?」

「……本当に違う魔獣なのか、1日に3頭もの巨大魔獣を狩ったのか……」


「……1日に3頭……信じられねぇ……」

「信じられないと言ったって、目の前にあるんだぜ!」

「ママ、僕も猟師になる、猟師になってあんな魔獣を狩る!」

「バカな事を言うじゃありません、あんな魔獣を狩れるのはあの方だけです!」


「「「「「自由騎士さま~!」」」」」

「「「「「こっち向いて」」」」」」

「「「「「愛してる~」」」」」

「「「「「結婚してぇ~」」」」」


「……いいわね、奥さんが選びたい放題よ」

「王侯貴族を正妻にして、みんなお妾さんにしたら?」


「いや、お妾さんなんて1人もいらないよ。

 本当に好きな人とだけ、気の合った女の子と一緒に暮らすのが1番だよ」


「そ、そんな事を言っても、一緒に暮らしたりしないんだからね!」

「そ、そうよ、そんな言葉で口説かれたりしないんだからね!」


 ★★★★★★


「……ショウ殿、まだ4000kg級を狩られるのでしょうか?」


「これ以上は競売で売れませんか?」


「いえ、そんな事はありません、あればあるだけ売れます。

 ただ、かなしい事に、保管できる場所がないのです。

 これだけの巨大な魔獣は、下手に解体すると価値が下がってしまいます。

 肉質を悪くしないために内臓は抜かなければいけませんが、他は手を付けずに保存した方が、競売の時に高額で落札されます。

 ただ、これだけの魔獣をそのまま保管できる場所がもうないのです」


「でしたら僕が保管しておきます。

 神様から授かったスキルには、肉質を落とさずに氷漬けできる魔法があります」


「おおおおお、それは凄い。

 戦闘力だけでなく、そんな便利なスキルも授かっておられるのですね。

 でしたら、これからは競売に出したい獲物だけ見せてください。

 競売の日に会場に持ち込んでくだされば良いです。

 何なら先に預かった魔獣もお返しさせていただきます?」


「そうですね、商業ギルドの限りある保管場所を取るのも申し訳ないです。

 僕が自分で保管するようにします」


 商業ギルドのマスターと話し合って、預けていた魔獣を返してもらった。

 もちろん預かり証を返して争いが起きないようにした。

 

「僕に加護を与えてくださっているウカノミタマ、アマテラス様、狩らせて頂いたブルーコーナーガウルを他の魔獣に食べられないようにさせてください。

 僕よりも弱い魔獣が壊せない厚い氷に壁に包む魔法を使えるようにしてください。

 100年は冷凍保存できる氷壁を創る魔法を使わせてください【氷壁保存】」


 ギルドマスターを含む多くの職員の前で【氷壁保存】の魔法を使って見せた。

 言葉通り肉質を悪くする事なく冷凍保存できるのを、目の前でやって見せた。

 これがウワサとなって広まったら、個人で冷凍保存業をやれるかな?


 僕がギルドマスターたちと話し合っている間に、エマとリナが魔樹小枝の販売を終えてくれていた、全部で5万3160アルだった。

 2回目よりも1抱え分多くなっている、無理していなければ好いのだが……


 ギルドマスターとの話し合いで状況が全く違って来た。

 だから僕も方針を大幅に変える事にした。

 野営場にしていた王都外の貧民街区から出て行くことにした。


 出て行くとはいっても、遠くに行くわけではない。

 大城壁の外側にある貧民街区のさらに外側に、新たな街区を造る事にしただけだ。


 2000人以上の貧民が住んでいるという東大城門近くの貧民街区。

 元々は王都を支えるほどの穀物畑にしようとしていたから結構広い。


 貧民たちの全ての家に、魔境の落葉や柴などを置けるだけの庭があった。

 その広い東大城門外貧民街の、6倍は広い街区を造る。


 王都大城壁に沿う横幅は、東大城門外貧民街より少し広いだけにしている。

 東大城門外貧民街を守るように、覆う形で新しい街区を造る。

 

 いずれは、王都内にある街区防壁よりも厚く高い街壁を築くつもりだ。

 王都外なので壕を造っても文句は言われない。

 だけど、それはもっと後で良い、今は魔獣を保存する冷凍倉庫が先だ。


「僕に加護を与えてくださっているウワツツノオ、ナカツツノオ、ソコツツノオ、ウカノミタマ、アマテラス様、冷凍用の倉庫を造らせてください。

 【氷壁保存】した強大な魔獣を楽々と冷凍保存できる理想的な倉庫を造らせてください、お願いします【建築】」


 僕は異神眼で最適を思われる冷凍保存用の倉庫を見た。

 日本の大企業が造った冷凍保存用の倉庫も見たが、同じ物は造れそうになかった。

 なので、この世界でも造れる、昔の氷室のような冷凍保存用の倉庫にした。


 今狩ってある4000kg級(4トン)の魔獣でも冷凍保存できる倉庫。

 将来狩るであろう100トン級の魔獣でも冷凍保存できる倉庫。

 僕以外の人間でも、多数で協力したら出し入れできる構造の倉庫。


 さすがに100トン級は並の【身体強化】スキル10人でも移動させられない。

 だけど、10トンくらいまでなら移動させられる。

 頑丈な台車を作れるなら、魔法のあるこの世界なら、人力でも移動させられる。


 台車を利用することを前提に、階段だけではなく、スロープの出入口も造る。

 浸水被害も考えて、1階は完全防水で出入口も窓も造らない。

 1度2階に引っ張り上げてから1階、地下1階、地下2階に保管する。


「……ねえ、ショウは王家と戦う気なの?」

「……地方領主のお城よりも立派なんだけど、誰かに許可をとったの?」


「……お城じゃなく、ただの倉庫なんだけど、倉庫に見えない?」


「「見えない!」」


「……倉庫に見えない?」


「「「「「見えません!」」」」」


 エマとリナだけでなく荷役をしてくれている人たち全員に言い切られてしまった。

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