第34話:ブルーアルクトドゥス
「うん、知っていたよ、分かっていたよ。
自由騎士殿ならこれくらい狩れるし、1人で運べる。
俺は知っていたよ、分かっていたよ……」
気安く話せるようになった東大城門の当番兵がブツブツ言う。
「休みは決まりましたか、朝1番で待ち合わせします?」
「いや、悪いけど、一緒に狩りに行く約束はなかった事にしてくれ。
妻も子供もいるから、王都警備隊で普通に暮らしていきたいんだ」
「はい、分かりました、残念ですが、迷惑をかける気はないので良いですよ。
行く気になったらいつでも言ってください」
気安くなった兵士は話しかけてくれるが、他の兵士や隊長は黙っている。
東大城門を守っている部隊の隊長、王国騎士の名誉を守るために僕を助けようとしてくれた騎士が、苦笑いしながら見送ってくれた。
同じように王国警備隊の名誉にかけて僕を助けようとしてくれた兵士たちも、僕とブルーアルクトドゥスを見比べて苦笑いしている。
「凄いぞ自由騎士殿!」
「こんな巨大な魔獣、生まれて初めて見ました!」
「自由騎士殿がいればスタンピードが起きても安心だ」
「普通のベアで良いから狩ってくれ、商業ギルドに依頼すれば良いのか?」
「「「「「自由騎士さま~!」」」」」
「「「「「こっち向いて」」」」」」
周りの空気を割るような大歓声を受けながら、商業ギルドに向かった。
まるでプロ野球の優勝パレードだ。
僕がこんな風に歓声を受けるなんて、信じられない!
「調子に乗っていたら痛い目にあうんだからね!」
「なによ、下品な化粧の女に手を振られてよろこんでいるじゃないわよ!」
「いや、調子乗ってないよ、こんなに評価してもらったら誰でもうれしくなるよ。
女の人に手を振られたからうれしいんじゃないよ、たくさんの人に評価してもらったからうれしいんだよ」
エマとリナにヤキモチを焼いてもらえているのならうれしい。
★★★★★★
「申し訳ありませんが、これも競売にかけて良いですか?
ブルーアルクトドゥスなんて150年ぶりに狩られた超貴重品です。
いくらで落札されるか想像もつきません、とても買い取れません」
ギルドマスターが頭を下げながら言う。
「いいですよ、預かり証を書いてくださるなら競売で良いです。
ただ、昨日と同じように内臓をもらって行っていいですか?」
「申し訳ありません、他の部分は良いのですが、熊胆の材料になる胆嚢だけは残して頂けませんか?」
「高く売れるのですか?」
「はい、五臓六腑の全てを治す万能薬としてとても高く売れます。
普通のベアの熊胆でも大金で取引されているのです。
ブルーアルクトドゥスの胆嚢がどれほどの値段をつけるか、想像もつきません」
「分かりました、胆嚢だけ残しておきます。
もしかしたら他の内臓も高く売れるかもしれないので、冷凍保存します。
欲しいという人が現れたら教えてください」
「ありがとうございます、そうしていただけると助かります」
「必ず狩って戻れるとは言いませんが、割の良い魔獣はいますか?」
「体重に比べて買取価格が良いのは、鹿茸のあるシカ系の魔獣です。
ただ、ショウ様の場合は関係ないと思います。
普通の冒険者や猟師が狩れないような魔獣を狩られた方が、競売にかけられるので、高く売れると思います」
「分かりました、競売にかけられるような魔獣を狙いながら、シカ系の魔獣が目に付いたら狩るようにします」
僕が商業ギルドのマスターと話している間に、荷役たちに運んでもらった魔樹小枝の買取が終わっていた。
大人の体力と筋力なら、3抱えから5抱え運べる。
女の人が1抱えから3抱えで、子供が1抱えから2抱え運べる。
442人で5万3040アルもあった。
「今日の分のパンを買って、1度街区に戻ってから、改めて魔境に来てください」
「「「「「はい!」」」」」
これまでは僕とエマとリナが、王都内で昼食用のパンを買って配っていた。
だけど荷役が毎日何度も王都内に入れるようになった。
僕たち3人がパンを買って渡さなくても、好きに買ってもらえるようになった。
だから日当と一緒にパン代として20アル渡す事にした。
ライ麦堅パンでも白パンでも好きな物を買ってくれればいい。
何ならチーズやベーコンも一緒に買えばいい。
僕たち3人で442個もの3人用ライ麦堅パンを買って運ぶのは面倒なので、自分たちで買って、家まで持ち帰ってくれたら助かる。
僕は【身体強化】した身体で東南魔境の奥深くに向かった。
王都内は、誰かとぶつかると危険なので、細心の注意を払って駆け抜けた。
だけど東大城門を通ってからは全力で駆けた。
祝福を41回も重ねた身体は、この世界でも最強に近いようだ。
更に能力100倍の恩恵は、桁が2つも違う強さだ。
本気で駆けたらとんでもなく大きな音を発生させるくらい速くなってしまった!
ブィイイイイイ、ブィイイイイイ、ブィイイイイイ、ブィイイイイイ
とんでもなく大きな音を出さないくらいの速さに加減して駆けた。
イノシシ笛の音が打ち消されないように気を付けながら駆けた。
ちょうどいいシカ系魔獣がいないか、視覚と聴覚、嗅覚と第六感に神経を集中させながら駆けた。
いた、ちょうどいい獲物がいた!
青い毛並みで、またブルーアルクトドゥスかと思ったが、違った。
4000kg級のブルーコーナーエルクを見つけた!
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