第32話:鹿ホルモン
「僕に加護を与えてくださっているアマテラス様、レッドコーナーエルクの内臓を美味しく食べられるように【調理】させてください」
僕が心から願うと、土魔術で造った超巨大な洗濯機もどきの中にいれた、レッドコーナーエルクの内臓が適度な水流で洗われていく。
【調理】で思い浮かべた内臓の下ごしらえの1つが、洗濯機を使ってきれいにする方法だったので、粗く内臓を洗った後で試しているのだ。
汚い言い方だが、魔獣の内臓の中には食べた物や大便小便になりかけている物、大便や小便になっている物までが詰まっている。
それらを洗ってきれいにしなければ、とても食べられないという事を思い知った。
動物や魔獣の内臓を下ごしらえするというのは、うんこやしょうべんをきれいに洗う事だと、実際にやってみて思い知った。
僕はたくさんの魔術が使えるから、汚い物を直接触らずにできた。
もし自分で内臓を切って手で洗わなければいけなかったら、僕にはできなかった。
どれくらいの強さで何度洗うのか、全部【調理】でやれたからできた。
下ごしらえが終わったレッドコーナーエルクの胃は、牛と一緒だった。
シカ系魔獣の胃は4つもあって、全部美味しく食べられるそうだ。
第1の胃がミノ
第2の胃がハチノス
第3の胃がセンマイ
第4の胃がギアラ
胃の他にも肺のフワ、肝臓のレバー、脾臓のタチギモ、心臓のハツ、腎臓のマメ、小腸のマルチョウ、大腸のシマチョウ、直腸のテッポウ、横隔膜のハラミに分けてきれいに下ごしらえして、全部美味しく食べられるようにした。
「ショウさん、教えていただいた香草塩を作ったのですが、これで良いですか?」
【調理】魔法で知った、ホルモンを美味しく食べられる香草塩の作り方を、貧民街の女性たちに教えて作ってもらった。
「味見するので持って来てください」
醤油があれば日本の焼肉タレを作るのだが、残念ながらこの世界に醤油はない。
少なくとも僕が【調理】魔法で作らなければ醤油は発明されない。
せめてバーベキューソースが作れたらよかったのだけれど、この世界にはウスターソースもとんかつソースもないので作れない。
仕方がないので香草と塩を混ぜて香草塩を作る事にしたのだ。
良かったのは【調理】魔法が指定したハーブや香辛料が全部あった事だ。
僕は材料を知らなかったのだけど、七味に使う材料が全部あった。
ワサビもあったしホースラディッシュもあった。
「良いできです、これなら美味しく食べられます、焼き始めてください」
13種類の香草塩全部がとても良くできていた。
ホルモン13部位に合わせた香草塩を作ったが、絶対に僕が考えた通りの組み合わせで食べなければいけない訳じゃない。
自分が美味しいと思う組み合わせで、好きに食べればいい。
そう言ったのだが、最初の1口は僕の組み合わせで食べるという。
そう、僕1人でレッドコーナーエルクのホルモンを食べる訳ではない。
貧民街の人間がほとんど集まってきている。
少なくとも荷役として現場にいた428人と家族はホルモンを食べるという。
彼らは、僕が神様に美味しい食べ方を聞いた現場を見ている。
神々の加護が人生を決めてしまうような世界だ。
僕のような強者に加護を与えた神の言う事は絶対なのだ。
ジュウウウウウ
料理のできる者が、普通の薪で熱した岩盤プレートに脂をひく。
レッドコーナーエルクはとても脂が乗っていたのだ。
内臓を取り出す時に、内臓脂も全部一緒に取り出してあった。
岩盤プレートに肉がこびりつかないように脂をひいた。
岩盤プレートと言っても火山地帯から切り出してきたわけではない。
僕が火魔術と土魔術を使って貧民街の土から造った物だ。
野外バーベキューだから、料理用の金網を造れたら良かったのだけれど、僕のスキルレベルでは土から金網を造るのは無理だった。
岩盤プレートをジンギスカン鍋のように造れたら良かったのだけれど、これもスキルレベルが低くてできなかった。
せめて脂を下に落とせる細かい穴を開けたかったのだけれど、上手くできずに何度も失敗してしまい、最終的に一枚板の岩盤プレートになった。
「焼けたら好きに食べていいぞ」
そう言ったのだが、誰も僕より先に食べようとしない。
本当に食べられるのか心配しているのかと思ったら、子供たちがよだれをたらさんばかりにガマンしているのを見て、僕が食べないと食べられないのだと分かった。
「うん、美味しい、もの凄く美味しくできたよ、食べてくれ」
「「「「「はい!」」」」」
「美味しい、脂が甘くて美味しいよ!」
「あまい、脂がものすごく甘い!」
「これフワフワで美味しい!」
「これはショウさんが言っていた通り硬いけど、もの凄く美味しい!」
「香草の塩がもの凄くあっている、肉が甘くて塩が辛くて美味しい!」
脂が乗っていて、その脂が甘くて美味しいマルチョウから食べた。
粉末にしたローリエ、ニンニク、唐辛子と塩で作った香草塩が合う。
「肉らしいハラミが好き、エマさんもリナさんもこれなら食べられるよ」
エマとリナになついている少女が、2人にハラミの塩胡椒焼きを勧める。
確かにハラミなら普通の精肉とほとんどかわらない。
初めてホルモンを食べるのならハラミからが良いだろう。
「こっちのハツも普通の肉と一緒だよ、食べてみれば分かるよ」
少女と同じようにエマとリナになついている少年が言った。
確かに、心臓を切り開いてていねいにスジを取り除いたハツは精肉に近いと思うが、個人的にはハラミの方が良い気がする。
まあ、食べるか食べないかを決めるのはエマとリナだ、僕は強制しない。
それよりも久しぶりに食べるホルモンに集中して命一杯楽しむ。
コンスタンティナの所にいる時は、嫌な顔をされたので食べるのを諦めた。
ただ、1つだけとても残念な事がある。
はく製に使う舌の部分、大好きなタンが内臓あつかいではなかったのだ。
顔のツラミと尻尾のテールも、舌と同じように内臓ではなかった。
この世界でもタンとツラミとテールは普通に食べられていた。
「ウソ、美味しい、内臓がこんなに美味しいの?!」
「まだよ、今食べた所が美味しいだけで、他も美味しいとは限らないわ!」
エマとリナが少女に誘われてハラミを食べた。
食べてみて、その美味しさにもの凄く驚いている。
もうホルモンの誘惑からは逃れられない……と思うのは危険だ。
「エマ、リナ、今日はハラミとハツとミノだけにしておけよ。
他はクセがあるから、慣れる前に食べたら嫌いになってしまう。
少なくともフワとレバー、タチギモとマメだけは絶対に食べるなよ」
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