第30話:鹿笛狩り
「全員連れて商業ギルドに行ってくれ。
僕はその間に人数分の魔樹小枝を斬り落としておく。
時間が余ったら大物を狙って魔境の奥に行く」
37頭のダチョウを狩ったので、エマとリナに運んでもらう事にした。
余った人たちには、魔樹小枝を運んで行ってもらう事にした。
1人になれたら安心して狩りに専念できる。
「分かったわ、だけど無理はしないでね」
「ショウなら何が相手でもだいじょうぶだと分かっているけど、無理しないで」
憎まれ口をたたき合う事も多いが、根が優しいエマとリナが心配してくれる。
「分かっているよ、確実に勝てる魔獣しか狙わないよ」
そう言ったから安心してくれたのか、エマとリナが荷役428人を率いて商業ギルドに行ってくれた。
エマとリナに荷運びを任せられるのには理由がある。
僕だけでなく、エマとリナにもF級商業ギルド会員になってもらった。
僕の事で解散の危機にある商業ギルドを存続させるために加盟してもらった。
僕が商業ギルドを許したと分かるように、2人にギルド会員になってもらった。
僕もお人好しで商業ギルドを助ける訳ではない。
恩を売っておけば何かあった時に助けてもらえると思ったからだ。
約束手形でもらっている騎士装備代金を紙くずにしないためでもある。
それと、今回のようにエマとリナに荷役を引率してもらうためだ。
女性や子供に魔樹小枝を運ばせる事ができたら、2抱分で日当になる。
オノやナタがダメにならない俺にしかできない方法だが、働き手を失った女子供だけの家庭を食べて行けるようにできる。
「僕に加護を与えて下さっているオキナガタラシヒメノミコト、どれほど強大な魔獣でも狩れる力を授けてください【身体強化】」
エマとリナが安全な場所にまで移動するのを確認してから魔境の奥に向かった。
魔境から迷い出た魔獣がエマとリナを襲わないのを確かめてから向かった。
移動するついでに魔樹を斬り倒して魔境の奥深くに向かった。
エヤァアアアアア、エヤァアアアアア、エヤァアアアアア、エヤァアアアアア
コンスタンティナに教えてもらった、シカ系の魔獣を呼び寄せる指笛を吹きながら魔境の奥深くに向かった。
コンスタンティナの話では、シカ系の魔獣は、繁殖の季節だけ雄1頭が5頭から10頭の雌を率いて小さな群れを作るのだそうだ。
縄張りを主張するのも繁殖期だけだと教えてもらったけれど、もしかしたらシカの中にもケンカ好きがいて、この時期でも集まるかもしれないと思ったのだ。
エヤァアアアアア、エヤァアアアアア、エヤァアアアアア、エヤァアアアアア
赤箆鹿、レッドコーナーエルクと呼ばれている巨大なシカ系魔獣が現れた!
体重が3000kgにもなる強大な魔獣で、最近の騎士や冒険者では狩ることができず、依頼されても狩られる事がないと、ギルド職員に教えてもらったばかりだ。
僕の姿を見つけたレッドコーナーエルクが、血のように真っ赤な大きな角を向けて突進してきた。
シカ系の魔獣は、この季節は角が生え変わっているはずだろう?
角が落ちないのは変異種だからか、変異種なら普通種よりも強いのか?!
魔境で生きている魔獣は、どいつもこいつも、並の人間よりも強い。
良いスキルを授かった人間が、何度も神々の祝福を受けてからでないと、魔境の周辺部に住む小さな魔獣が相手でも勝てない。
まして魔境の奥深くにいる3000kg級の魔獣となると、100倍恩恵を授かった僕くらいしか狩れないだろう。
ブッシュウウウウウウウ
いつも通り、左右の頸動脈を斬り裂いて失血死させる。
ダチョウのように首を刎ねて頭を飛ばさないのは、貴族や大金持ちがはく製にするために大金を積むと聞いたので、後でつながなくても良い小さな傷にした。
完全に血が抜けてから、エマとリナと待ち合わせている魔境周辺部に運んだ。
【身体強化】した僕なら、3000kgの魔獣でも1人で運べる。
これまでは実力を隠していたが、もう隠す必要もなくなった。
腐っていたとはいえ王国騎士を21人も殺している。
何人もの貴族を暗殺した刺客を10人も生け捕りにしている。
レッドコーナーエルクまで1人で狩れる実力があるなら、3000kgくらい1人で運べて当然だから、もう隠しておく意味がない。
待ち合わせの場所についても、まだエマとリナは戻っていなかった。
【身体強化】した僕が本気で走ったら、多くの荷役を率いて5時間歩く距離くらい10分でたどり着ける。
何もしないで待っているのは時間の無駄なので、魔境周辺に生えている普通の木や、魔樹とまでは言えない少し堅い大木も斬り倒す。
斬り倒しておけば、僕がいなくても荷役の人たちだけで運べる。
貧民街で煮炊きに使う燃料にできる。
高く売れる魔樹小枝は王都に運び、普通の薪は自分たちで使えば良い。
「お~い、レッドコーナーエルクを狩ったぞ!
今度は僕も一緒に商業ギルドに行くから、みんなは魔樹小枝を運んでくれ」
【身体強化】では、筋力や反射神経だけでなく視力や聴力も強化されている。
遠くにいるエマやリナを見つけることができるので、2人が気付いていないのに大声で呼びかけてしまった。
「凄い、こんな強大な魔獣を狩るなんて、ショウは凄すぎます!」
「こんな強大な魔獣を狩ってしまったら、王家や貴族に目をつけられませんか?」
エマとリナが驚き心配してくれる。
憎まれ口をたたき合うのも楽しいが、心配してくれるのもうれしい。
「だいじょうぶだよ、危険だと思ったら一緒に他の国に行けばいい。
家族や友達が心配なら、みんなで行けばいい。
どこの国に行ってもやっていけるだけの貯金があるよ。
それより例の件は聞いてくれた?」
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