第18話:グレーボアと薬草の値段

「凄いな、もう人を雇うようになったのか?!」


 東大城門から王都に入ろうとすると、昨日と同じ当番兵に言われた。

 昨日の帰りとあまり変わらない時間なのだが、どのような仕組みで交代しているのだろうか?


 グレーボアを見つけるまでに3時間、丈夫な木を斬り倒し樹皮をはいでグレーボアを担げるようにするまでに1時間、大城門まで戻ってくるに3時間かかった。

 決まった時間に当番して、何日かに1度休みがあるのだろうか?


「魔境近くに暮らしていたので、狩りは得意なんです。

 これは大物を狩るついでに狩った鳥です、食べてください」


「お、悪いな、だけどワイロに疑われるから受け取れないんだ」


「荷運びをしてくれた人たちに、晩飯に食べてもらおうとして狩った鳥です。

 売れるかどうかも分からない小鳥です、これもワイロになるのですか?」


「ああ、今の王都行政官様が堅物なんだ、小鳥で首になりたくない。

 気持ちだけもらっておく、ありがとうよ」


「休みの時に一緒に狩りに行きませんか?

 一緒に狩った獲物なら半分受け取ってもワイロにならないのではありませんか?」


「それはいいな、休みの時に一緒させてくれ。

 商業ギルドに連絡すれば良いのか?」


「はい、商業ギルドに連絡下されば僕に伝わるようにしておきます」


「おう、休みが決まったら連絡する、入って良いぞ」


 商業ギルドで説明されていた通り、大城壁の外側に住む貧民たちも、商業ギルドの会員が魔境で狩った獲物を運ぶ場合は、入都税を払わずに通れた。


 ★★★★★★


「これは良い、全く傷がないから肉も皮も最高品質で買い取れます。

 大きな牙は良い鎧通しになるし、小さな牙も良い矢になる。

 薬草の量も多いですが、何より貴重な薬草が入っています」


 商業ギルドの買取査定係が手放しでほめてくれた。

 ただし、レッドディアの鹿茸のような、極上の薬に加工できる高価な部位がない。

 肉としても皮としてもレッドディアと同じくらいの価値しかない。


「13頭で1万500アル、薬草は貴重な奴も含めて3000アルになりますが、それで良いですか?」


「はい、それでかまいません、買い取ってください」


 今日の狩りで1万500アル手に入ったが、全部利益と言う訳ではない。

 荷役10人の日当が500アル、商業ギルドの手数料が100アル、3斤分のライ麦堅パンが10個で200アル、合計800アルが必要だった。


 残り9700アルをエマとリナで3等分するのが公平なのだが……


「なに言っているのよ、私たちは獲物を追い込んだだけよ、バカにしているの?!」

「そうよ、追い込み役の取り分は少ないのが常識よ、3等分は非常識よ!」


 昨日も同じやり取りをしたのだが、がんとして3等分にはしてくれなかった。


「いや、だけど、エマとリナが追い込んでくれたから狩れたんだ」


「本気で言っている、言っているならパーティー解消よ!」

「私たちはバカじゃないのよ、ショウなら1人で狩れる事くらい分かっているわ!」


「確かに俺1人でも狩れる、だけどもっと時間がかかるし獲物を運べない」


「時間がかかっても別にどうという事はないでしょう!?」

「それに、運ぶのは荷役を増やせばいいでしょう!?」


「僕が獲物を探して荷役たちの側を離れている間に、強大な魔獣が襲ってきたら、荷役たちが皆殺しにされるかもしれない。

 エマとリナが獲物を探して追い込んでくれるから、僕は荷役たちの側にいられる。

 荷役たちが家族を残して死ぬような、危険をさけられるんだ。

 エマとリナは、自分たちが思っている以上に重大な役目をしてくれている」


「そ、そんな事言っても好きになったりしないんだからね!」

「そ、そんな風にほめたって口説かれないんだからね!」


「分かっているよ、そんなやましい気持ちじゃないよ。

 パーティー仲間として利益を公平に分配したいだけだよ」


「ダメよ、私たちが役に立っているのは分かったけれど、3等分はもらい過ぎよ」

「そうよ、追い込み役全員と仕留め役全員で4対6でももらい過ぎなのよ」


「それはエマとリナの村での分け方だろう。

 俺たちが村のやり方にしばられる必要はないよ。

 これからパーティーメンバーが増えるかもしれないし、僕たちなりの分け方を考えようよ」


「私たちの分け方を考えるのは良いけれど、3等分は絶対ダメよ。

 村では追い込み役3で仕留め役7だったわ」

「仕留め役が追い込んだ獲物を狩れずに逃がした時には、すごく非難されるのよ。

 普通なら、追い込んだ獲物を仕留め役1人で1頭狩れれば十分凄いのよ」


 まずいな、このままだと僕1人で利益の7割とか6割に決まってしまう。

 昨日と同じ分け方にするしかないか……

 

「分かったよ、エマとリナの考えも取り入れるよ。

 だけど、これから入るメンバーを追い込み役にすると思う。

 追い込み役の取り分が少な過ぎると十分な報酬にならない。

 だから追い込み役と仕留め役で折半にしよう。

 どちらに何人いようと5対5で分けよう」


「もの凄くもらい過ぎな気がするんだけど?!」

「新しいメンバーが加わったら、その時に話し合えばいいんじゃないの?」


「分かったよ、パーティーメンバーが加わるごとに話し合う。

 それまでは5対5にしてくれ、計算がめんどうなのは嫌なんだよ」


 こんなやりとりがあって、僕が利益の5割をもらう事になった。

 ホテル代を使って334万9849アルになっていた手持ち金が、7850アル加えて335万7699アルになった。

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