第17話:グレーボア
「「「「「昨日は差し入れありがとうございました。
精一杯働かせていただきますので、よろしくお願いします」」」」」
貧民街の荷役10人が深々と頭を下げてお礼を言ってくれる。
昨日ギルド職員を通じて差し入れした中小の鳥34羽の効果だろう。
ギルド職員が必要な人数と条件を知らせに王都外の貧民街に行くと聞いたので、指弾の練習ついでに狩った中小の鳥で、商業ギルドで買い取ってもらえない奴を持って行ってもらったのだ。
「よろこんでもらえたのなら良かった、これは今日の昼食だ、運んでくれ」
「「「「「え?!」」」」」
「私たちは10人なのですが?」
「力仕事をしてもらうんだ、足らないと力が出ないだろう?
多いのなら残りを晩飯にしてくれればいい」
「「「「「ありがとうございます」」」」」
俺とエマとリナは、昼食用に買ったライ麦堅パンを荷役たちに渡した。
荷役の昼食は雇い主が支給すると教えてもらったので、通常は1食用の小さいライ麦パンの所を、3人前の大きくて腹持ちがよくて日持ちもするライ麦堅パンを1人1つずつ用意したのだが、よろこんでもらえてよかった。
「その代わり、雇っている間は休みなく働いてもらう。
商業ギルドから伝えてもらっているが、途中で集めた薬草はこちらのものになる」
「はい、聞いています。
家に背負子が有る者を選んできました」
荷役の代表と思われる者が1歩前に出て答えた。
「俺たち3人が前を歩く、エマとリナが集めて欲しい薬草を教える。
ついて来てくれ」
「「「「「はい!」」」」」
昨日と同じように3人で魔境の奥に進んだが、今日は10人の荷役がついてくる。
エマとリナが指示した薬草を集めながらついてくる。
元々薬草の知識があるのだろう、軽く言われただけで採取できている。
シュン、ドサ
「歩きながら鳥を狩る、集めてくれ」
「はっ、はい!」
今日も指弾の練習を兼ねて鳥を狩る。
それほど大きな鳥はいないが、中小の鳥はけっこういる。
スズメくらい小鳥だと、売る場合は3羽で1アルの値しかつかない。
だが、自分たちで食べるのなら1アル以上の価値がある。
特に貧民街の人間には貴重な食材になっている。
安値で売るよりは荷役に渡した方がよろこんでもらえるので価値がある。
「うお、まただ、こんな簡単に狩れるのか?」
この程度の事で驚くとは思わなかった。
もっと時間をかけて異神眼で調べておけばよかった。
神々の祝福を得ていたらこれくらい簡単にできるだろう?
妻子がいる者を優先的に雇っていると聞いたが、長く生きているのに神々の祝福を得ていないのだろうか?
ああ、よく考えれば、神々から良いスキルを与えられている者は貧民にならない。
生きていくのに役に立たないスキルしかもらえなかった者、あるいはスキルを与えられなかった者が、貧民になっているのかもしれない。
「獲物を追い込んで来るわ」
「逃さないでよ」
エマとリナがそう言って離れて行った。
僕が指弾で鳥をたくさん狩っているので焦ったのかもしれない。
2時間ほど魔境の奥に向かって歩いて、結構な量の薬草と鳥が集まった。
荷役たちの背負子1杯とまではいわないが、8割くらいは入っていた。
楽し気に歩いていた荷役たちが一気に緊張した。
直ぐに獲物が追われて来ると思ったのだろう。
「良い獲物を見つけて追い込んで来るのには時間がかかります。
直ぐに獲物を見つけられたら別だが、1時間や2時間はかかると思ってください。
それまではこれまで通り薬草と鳥を集めてください」
「はい、わかりました、お前ら緊張しすぎるなよ、帰るまで身心がもたないぞ」
荷役の代表が僕に返事をした後で他の者たちに言う。
魔境の獲物を運ぶ仕事に慣れていると思ったが、違うのだろうか?
ああ、そうか、以前から貧民街の人間を荷役に雇っている人がいるんだ。
荷運びに慣れた者ほど、以前から貧民街の人間を雇っている、実績のある雇い主の所に行く、初めて雇う僕の所に良い荷役は集まらない。
ブッヒー!
エマとリナが獲物を探しにパーティーを離れて1時間。
コンスタンティナ師匠の所にいる時に何度も狩ったグレーボアが、敵と戦う時に出す声が聞こえて来た。
「僕を加護してくださっているオキナガタラシヒメノミコト様、パーティーメンバーにケガをさせる事無くグレーボアを狩る力を授けてください【身体強化】」
エマとリナががんばったのか、これまでよりも数の多い群だった。
グレーボアは母親を頂点とした雌が群れをつくり、雄は単独で暮らしている。
だから雄は1歳以下の子供しかいない。
パッと見ただけの推定だが、300kg級1頭、200㎏級4頭、50kg級8頭の群れだった。
足元の悪い魔境だから、力のある男が担い棒を使ったとしても、300kg級を運ぶのに6人は必要だろう。
僕なら、左右と前後に振り分けたら、折れない担い棒があれば、800kgの重さでも軽々と運べる、200kgのグレーボアを4頭運べる。
50kgのグレーボアをそのまま背中に担ぐと背負子がじゃまになる。
2頭のグレーボアを担い棒にくくって2人で肩にかつぐのなら、背負子の鳥と薬草を捨てないで運べる。
エマとリナなら、50kgのグレーボア4頭を担い棒にくくって運べるだろう。
厳しいなら300kgを担ぐ荷役6人と1人ずつ交替しながら運んでもいい。
などと考えながら、牙を振るって突っ込んで来るグレーボアを狩る。
レッドディアの時と同じように、流れるような動きで左右の頸動脈を斬る。
失血死するまで好きに走らせる。
「数が多くて重いから、硬い木を斬って担い棒にする。
俺が担い棒を斬る間に丈夫な樹皮をはいでロープ代わりに使えるようにしてくれ」
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