第3話:逃亡ドレイ

「落ち人だよ、能力値は並だが、全魔術属性だよ」


 競売の司会者が俺を少しでも高く売ろうとしている。

 だが、集まった連中はだまされない、表情1つ動かさない。


 教会にドレイを買いに来るような連中だ、情などという人間らしさは母親のお腹の中に忘れてきたのだろう


 まだ14歳の俺だ、地球や日本の常識を正しく理解しているとは思わない。

 キリスト教や仏教も、もっと酷い事をしていたのかもしれない。

 だが、少なくとも俺の基準では、この世界の神や神官は悪人だと思う。


 別の世界から落ちてきた人間を奴隷として売るなんて、悪人だとしか思えない。

 この世界の神は、俺の考えているような神ではない。


 自分の信徒にドレイ売買をさせるようなモノは、どれほど力を持っていようと神とは言わない、魔神や鬼神、悪魔と言うべきだろう。


「さっさと乗れ!」


 この世界に落ちて来てから何も食べていない。

 神官たちはできるだけお金を使わずにドレイを売りたいのだ。


 俺以外のドレイも何も食べさせてもらっていない。

 開始時間ギリギリに教会に集められて競売にかけられた。


 俺は司会者が最初につけた値段で落札された。

 誰に落札されたのか、どこで働かされるのかも分からない。

 荷台が牢屋になっている牛車に乗せられ運ばれている。


 確実に牛だと言える訳ではなく、牛によく似た鳴き声の動物が引く荷車だ。

 前に牛を操る御者がいて、護衛か見張りか分からない人が周りを歩いている。

 護衛だとしたら、ドレイを運ぶのが危険か、ただ歩くだけでも危険かだ。


 街だと思われる人の多い場所で襲われるとしたら、ドレイにされた人の家族や友人が助けようとするのだろう。


 でも、ドレイは家族に売られたか、家族がいないかだと思う。

 そう考えると、街中で助けが現れるとは思えない。

 神運で逃げられるとしたら、人の多い場所を出てからだ、休んでおこう。


 牛車の牢屋部分は、屋根が低くて立っていられない。

 他のドレイと同じように、膝を抱えて座っているしかない。

 ギュウギュウ詰めだが、文句を言わずに座るしかない。


 これまで観たテレビ番組から考えても、人権のないドレイが文句を言っても殴られるだけだろう、チャンスが来るまで大人しく待つしかない。


「ウォオオオオン!」


 動物の雄叫びが聞こえた!

 何かが襲ってくる、これが神運に違いない!

 この機会に逃げないと、チャンスをくれた神に見放されてしまう!


 もう間違えない、もう2度とためらわない!

 通り魔との戦いで、わずかにちゅうちょしたから自分まで死んでしまった。


 死んだ日本で、子供たちを助けたから英雄扱いされているのか、通り魔を殺したから殺人犯扱いされているのか分からない。

 

 俺自身が何と思われても構わない。

 だけど、俺が死んだことで保母さんや子供たちが胸を痛めているかもしれない。

 通り魔を殺して俺が生き残っていたら、保母さんも子供たちも胸を痛めない。


 もうためらわない、子供を助ける為ならためらわない。

 悪人は問答無用で叩き潰す、特に女子供を傷つける奴には手加減しない。

 情けをかける事無く、一瞬のためらいもなく殺す!


「モォオオオオオ!」


 左右の森からとんでもなく大きな狼が飛び出して来た。

 テレビで観た、有名なアニメに出ていた狼のように大きかった。

 子供の頃に両親と行った、動物園にいた虎よりも大きい。


「殺せ、フロストウルフを殺せ!」


 牛車が飛び出すように早くなった。

 牛がフロストウルフとやらを恐れたのか?


「ぎゃあああああ!」


 フロストウルフとやらに襲われたのか、前の方から悲鳴が聞こえた。

 前に飛び出した牛車が、左右に蛇行するようになった。

 さっきの悲鳴は御者だったのか?


「殺せ、殺せば特別金が出るぞ!」


 牛車の前後を守っていた護衛の誰かが叫んでいる。

 ドレイを買って死ぬまで働かせるような主人だ、襲って来たフロストウルフを殺しても特別金を出すとは思えないが、逃げたら確実に罰を与えるだろう。


 ガッシャーン!


 牛車が横転して牢屋のドアが開け放たれた。

 神運で逃げられる場合はこんな場面だろうと思っていた。


 左右に揺れる牛車で耐えようと思ったら、鉄格子に捕まるしかなかった。

 お陰で牛車が横転しても無事に済んだ、これで逃げられる!


 とはいえ、自分だけ逃げる気にはなれない。

 他のドレイを見捨てて逃げる気にはなれない、積極的に助ける。


「逃げろ、今のうちに逃げろ!」


 表にでている能力やスキルは大した事ないが、隠れスキルは高い。

 特に神様がくれた100倍補正が本当なら誰にも負けないはずだ!

 他のドレイを逃がす時間くらいで、逃げ損ねたりしないだろう。


「「「「「うわあああああ!」」」」」


 一緒に牛車に乗せられていたドレイが一斉に逃げ出した。

 俺に分からない理由があるのか、偶然なのか、全員右側に逃げた。

 ドレイはむさくるしい男ばかりだったから、左に逃げれば悪臭から逃れられる。


 フロストウルフに殺されて肉塊にされた護衛の剣を拾う。

 一瞬迷ったが、血まみれの身体を探って革袋を見つけた。

 巾着袋になっていて、大中小の銅貨が入っていた。


「ウォオオオオン!」

「モォオオオオオ!」


 牛の切迫した泣き声が聞こえてきたので、急いで前に行って剣を振るう。

 牛だと思っていたが、皮が鎧のようで、どちらかと言えばサイだ。


「死にさらせ!」


 襲われているウシサイを助けるために剣を振るう。

 偶然だが、運よくフロストウルフの左側にいた。

 地球の常識と同じとは限らないが、心臓が有ると思われる場所に剣を突き刺す。


【神々の祝福を与えます】

【神々の祝福を与えます】

【神々の祝福を与えます】

【神々の祝福を与えます】

【神々の祝福を与えます】


 頭の中に5度も言葉が響いた、アニメでやっていたレベルアップだろうか?

 この世界の仕組みを確かめるのは、もっと安全になってからだ!


「好きな所に逃げろ!」


 サイを荷車につないでいた革紐を斬って自由にしてやる。

 御者だった肉塊が持っている剣と財布を盗る。


 ドレイの服から着替えたいが、御者の服ももう1人倒れている護衛の服も、フロストウルフにズタズタにされている。

 もう1人の護衛が持っている剣と財布ももらって、左側の森に逃げ込む。


「田中翔平の能力」


「パラメーター1:基本設定」


種族:汎人族

性別:男

年齢:14歳

体格:並

容姿:並

祝福:5回


「パラメーター2:能力」


筋力 :15:筋力に関する適性で物理な攻撃や防御、力仕事などに影響

体力 :15:持続力に関する適性でスタミナや耐久力などに大きな影響

知力 :15:知性に関する適性で魔法の習得速度や成功率に大きな影響

精神力:15:精神に関する適性で魔力、精霊力、魔法力などに影響。

器用 :15:器用さに関する適性で命中率、素早さ、特殊能力取得などに影響

魅力 :15:好悪に影響して精霊魔術の習得や成功率、交渉の成功率に影響

信仰心:15:信心に関する適性で神聖魔術の習得や成功率などに影響


「パラメーター3:魔術属性」


陰属性:6:

陽属性:6:

木属性:6:

火属性:6:

土属性:6:

金属性:6:

水属性:6:


「パラメーター4:スキル」


調理 : 25:生物素材加工の能力と適性、調理の能力と適性

審美眼: 10:価値を見定める目と適性。

鑑識眼: 10:能力を見定める目と適性。


「パラメーター5:感覚力」


視覚: 15:目に映るものを判別する能力と適性。

音覚:105:音を判別する能力と適性。

触覚: 15:触れたものを判別する能力と適性。

味覚:105:味を判別する能力と適性。

嗅覚:105:匂いを判別する能力と適性。

六感: 78:魔力などエネルギーを判別する能力と適性


「パラメーター6:神与スキル」


鍛冶: 10:金属素材加工の能力と適性

裁縫: 10:繊維素材加工の能力と適性

革細: 10:動物素材加工の能力と適性、皮革加工の能力と適性

木工: 10:植物素材加工の能力と適性、木材加工の能力と適性

彫刻: 10:鉱物素材加工の能力と適性、石材加工の能力と適性。

錬金: 10:金属素材加工の能力と適性、金属素材錬成の能力と適性

調理:105:生物素材加工の能力と適性、調理の能力と適性。

魔法:105:魔法の能力と適正


異神眼:105:全てを見定める目の能力とその適性。


「パラメーター7:特記事項」

神運:神々からの寵愛を受けているとしか思えない幸運

地球での善行によって異世界神のお気に入りとなっている。

異世界での能力値が100倍になる補正が働いている。

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