双子双愛
不動さん
第1章 和解編
第1話 誠央学園の天才少女
「……どうやら何事もなく無事に終わりそうね。」
「そのようですね。」
一部の緊張していた学生達は徐々に解れて行き,楽しそうに笑い,また一部の学生達の明るい表情や元気な声は学園中に響き渡っていた。そんな学生達の表情を校舎の窓から見て彼女達は笑みを浮かべた。
「常盤さん,本当にごめんなさい。後のことをあなたに全て押し付けるようなことをしてしまって……。」
そう言って元誠央学園の生徒会長であった朝美会長は目の前の赤い色の長い髪をツインテールに結んだ可憐な少女,
「会長,頭を上げてください。それに,今回のオリエンテーションは会長達も一緒に手伝ってくれたからここまで盛り上げることができたんじゃないですか。」
「そう言ってもらえると助かるわ。だけど,私達はただお手伝いをしただけ。本当に頑張ったのは,あなたと白星会長だもの。」
「会長……。」
俯いた彼女を見て私は何も声を掛けることが出来なかった。そんな会長を見て胸が締め付けられる気持ちにもなった。
別に会長が悪いわけでない。あれは私達にはどうすることもできなかったのだ。
いや,違う……。私ならどうにかすることができたかもしれない。
常盤家の令嬢であり,【誠央学園の天才少女】と言われていた私なら……。
だが,私はあの事件を止めることが出来なかった。その事実だけはどう足掻いても変えることはできない事実であった。
「それじゃ,私はそろそろ行くわね。半年の間だけど,あなたと一緒に誠央学園の生徒会をやれてよかったわ。彼女にもよろしく伝えておいて。」
「はい。会長も今までお疲れさまでした。そして,ありがとうございました!」
そう言って二人は握手を交わし,手を離すと会長と呼ばれていた彼女は私に手を振り,学生達の輪の中に消えて行った。
そして,朝美会長を見送った私は再び窓からグラウンドを見渡した。
外では星陵学園の運動部が編入してきた誠央学園の学生達に部活動の紹介や一緒に部活動に参加したりして交流を深めていた。そんな彼等を見て私は先ほどと同様に少し微笑んだ。
「まだまだ,私達は星稜学園に馴染めていないけど,少しはお互いの仲を縮めることができたのかしら。」
そう呟き,もう一度楽しく笑っていた学生達を見るとその場を後にした。
********************
――コンコン
「どうぞ~。」
とある一室のドアをノックすると,中から気さくな男性の声が聞こえた。
「失礼します。」
一言だけそう言うと私は扉を開けた。中を開けると,数人の学生達が資料を片手にパソコンを触ったり,何やら相談したりと忙しそうに動き回っていた。
そんな中,一番奥の席,生徒会長と書かれたプレートが置かれた机に座り,長身の男子学生と話し込んでいた人物に声を掛けた。
「白星会長,何か問題は起きていませんか?」
「特に何も起きてないよ?美陽君,皆は楽しそうにしていたかい?」
眼鏡を掛けた少し小太りな彼,白星聖人は私を見て微笑んだ。
そして,私や妹とも小さい時から度々会っていた古い知り合いでもあり,大財閥の御曹司とは思えない気さくな人物であった。
また,彼は学年首席だけでなくその見た目で騙されるかもしれないが,運動神経も良く,生徒会会長を務めながら白星財閥の仕事にも関わっているハイスペックな人物でもあったりするのだ。
「こっちも特に問題があるとは聞いていないぞ,常盤。」
先程,聖人会長の隣で話していた長身の男性が同様に私を見てそう言った。
そんな彼に私は声を掛けられると若干距離を置いてしまった。それを見た聖人会長は蒼一郎先輩を見て苦笑した。
「蒼一郎,そんな怖い顔をせずにほら。笑って笑って。」
「俺は元からこんな顔だ!悪かったな,こんな顔で!」
「あの,青葉先輩。申し訳ありません!」
「……ふぅ,気にするな,常盤。葵から事情は聞いているが,仕方がないことだろう?だが,俺はこれが普通の顔だ。すまんが,慣れてくれ。」
自分の怖い顔を自覚しているのか,申し訳なさそうに言うと隣の聖人会長は微かに笑っていた。それを見た彼は会長に怒り,周りにいた生徒会メンバーの学生達は彼等を見て笑い出した。
それは隣にいた私も同様であり,本当にここの生徒会は皆が笑える楽しい場所だと心の底から思えた。
「しかし,常盤副会長も難儀な体質を持っているよな。まさか,【男性恐怖症】だとは……。あ,別に悪い意味で言ってないからな。」
「でも,青葉君の顔を見ただけでもそれでしょう?共学の学園じゃなくて常盤女学園に居た方がよかったんじゃ……」
「昔に比べれば大分良くなっていますし,お父様からはいつまでも男性に怯えているわけにはいけないと言われていますので。あと,先輩達のような方なら大丈夫ですが,青葉先輩のようなタイプは……。」
先輩達二人が言ったことを気にしてないと言い,改めて青葉先輩には申し訳ないと謝罪をした。だが,彼も仕方がないという表情でまた気にするなと言った。
実は私には1つ,難儀な体質があるのだ。それは【男性恐怖症】である。
私が小学校低学年の時にとあるパーティーに参加していた大企業の御曹司から暴行を受けたのだ。以来,私は男性に対して恐怖心を抱くようになったが,徐々にそれは緩和して行き,真面に話を出来るまでは回復したのだ。
しかし,先ほどのような例外もあり,全てが克服したというわけでないのだ。
「まあ,何か困ったことがあったら僕や蒼一郎じゃなくて生徒会にいる女子の皆に相談してくれたらいいよ。彼女達を通して聞くこともできるからね。」
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「気にするな,常盤。それよりも……。」
そう言おうとすると,生徒会室の扉が開き,蒼一郎先輩と同じ制服を来た男子生徒が入って来た。そして,蒼一郎先輩を見ると彼に顔を近付けた。
「委員長,少しよろしいでしょうか?」
「どうした?……わかった,直ぐ向かう。悪いな,聖。少し運動部の方でトラブルだ。行ってくる。」
彼はそう聖人会長に言うと入って来た男子生徒と一緒に生徒会室を出て行った。その彼等が立ち去った後を見ると私は相変わらずだなと思いつつ,何度見ても彼等の行動に疑念を抱かずにはいられなかった。
「やはり,まだ慣れそうにないかな?」
「いえ,そういうわけでは……。そうですね。他校の風紀委員会と比べると活動的と言うか,その……。」
「「普通には見えない。」」
「……はい。」
先輩二人がそう答えると私は苦笑いしながらそう答えるしかなかった。何せ,彼等のしている活動が警察の活動と全く変わらないからだ。
この学園,星稜学園は普通の学園と校風が違い過ぎるのだ。最新の教育環境を整えているのは当たり前だが,学生の自由性を大いに尊重しているが特徴だ。
だが,自由性を尊重している所が異常であり,普段理事会や職員会議で決めるような内容を生徒会に一部一任していたりもする。
特に部活に関しても学生の自主性を重要視しており,一般的に持ち込みが禁止とされているパソコン類やゲーム機等の持ち込みを容認し,それに準じた部活動,同好会まで作られているとまで聞く。
「この学園の生徒達は活気に溢れているからね。今年も謎な部活動が出来たりもしているぐらいだから。まあ,美陽君も直ぐに慣れるよ。」
「直ぐに慣れるでしょうか……?」
にこやかに笑う彼を見て,私はこの学園でこれからやっていけるのだろうかと少し不安な表情をした。そう思えるほど,この学園は異質な場所でもあったのだ。
********************
「みはるん!こっちこっち!」
「二人ともごめんなさい。少し遅れたかしら?」
聖人会長にもう一度校舎の見回りに行くと言い,生徒会室を出ると友人達から一緒に校内を回らないかとメッセージを受け取ったのだ。
一応,生徒会の仕事中であるが,見て回ることに変わりはないので誠央学園の入学時から友人関係である彼女達と合流することにしたのだ。
「大丈夫よ,美陽。そっちは生徒会の見回りかしら?」
ショートカットの髪型にクールな雰囲気を感じさせていた女の子が尋ねてきた。
「みはる~ん,料理部で何か作っているって美月ちゃんが言っていたから行ってみようよ~。私,腹空いちゃった~。」
「結衣,さっきアウトドア同好会でBBQをご馳走になっていたでしょう?一体,その身体にどれだけ入るのよ……。」
「だってぇ,料理部でケーキ焼いているって聞いたもん!それにデザートは別腹って言うでしょう?みはるんもケーキ大好きだよね?」
「確かに好きですね。ただ,あまり食べ過ぎると体重が気になってしまって……。」
「「…………。」」
「どうかしましたか?」
何故か彼女達は私を見て何か言いたげな表情をしていた。私はどうしてだろう?と不思議そうに彼女達を見つめていると……。
「美陽。今ここには私と結衣しかいないから普段通りでいいわよ?というか,やめなさい。はっきり言って気持ち悪い。」
「…………。」
そう言われて,私は大きな溜息を吐き,葵を睨んだ。それは先ほど穏やかに笑みを浮かべていた私や凛々しい表情をしていた私とはまるで別人であった。
「仕方ないでしょう。私だって言われなくても分かっているわよ。」
「みはるん,いつもその喋り方じゃダメなの?」
「結衣,この子はずっと猫を被ってきたのだから急にいつも通りって言われても難しいと思うわよ?それにしても,【誠央学園の天才少女】と言われている常盤家のお嬢様の中身がこんなのって誰が思うかしら。まあ,誠央学園の生徒達はあの事件で美陽の中身を知ってしまったから何も言わないと思うけど。」
「うっ……。」
彼女に言われなくても分かっている。何せ,自分は大勢の誠央学園の学生達の前で素の性格を出してしまったのだ。
その時の周りにいた彼等は鳩が豆鉄砲を食らったような表情で自分を見つめて猫を被っていた私と素の私が同一人物であるのか不思議に思ったのだ。
だが,そんな素の自分を受け入れてくれる存在は僅かながらいるのだ。それは目の前にいる親友や星稜学園にいる妹,自分と同じ境遇を持った彼であった。
「ともかく行きましょう。いつまでもここに突っ立っていたら他の学生達の迷惑になるから。確か,料理部が活動している家庭科室は3階だったわね?」
「そうだよ。ケーキって何作っているのかな~。楽しみ~。」
結衣の楽しそうな表情を見て葵は呆れかえり,私もそんな彼女達を見て微かに笑うと家庭科室へ向かって行った。
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