ネトストから助けたら学校一の美少女インフルエンサーが変態世話焼きヤンデレになって俺を放してくれない

駆流いつき

第1話 プロローグ

「健人くんまたゲームしてる! 昼食は私とするって言ったじゃん!」


体育終わり。教室の前扉付近。陽キャ女子の中心、学校のアイドル、そして裏の顔――2.5次元Vtuberとして活躍する星宮水瀬の甘いけど明瞭な声が俺の耳を刺激した。


「悪いが星宮といると俺まで目立つから、昼食は一緒に食べたくない」


本音だ。学校生活を平穏無事に送りたい方法は、目立たないことだ。

俺は、何者かになりたいわけでもない。ただささやかに生きたいだけの省エネ高校生。

学校一の美少女と仲が良くなったとバレたら、色々と面倒なことが起こる。


だと言うのに、拒否の言葉を無視した星宮は、「えー! いいじゃーん!」と言うと、周りの親友に軽い挨拶をして、俺の方に歩みを進めた。


くっきりとした真っ赤な瞳は、確実に俺を捉えている。


「今日は絶対に食べない! 断じて!」

「だって毎日購買のパンだと栄養偏るから、私のお弁当を食べて!」

「お前は俺のママか」

「だって健人くんが魅力的なのがいけないんだよ!?」


いつの間にか俺の真横にまで来ていた星宮は、俺専用の弁当箱を差し出していた。


「だ、だから今日は食べない」

「……やっぱり弁当を作ってくれる女の子がいるの? いつも断るじゃん。私のこと守ってくれたのに」


向日葵が一夜にして枯れたように、急激にトーンダウン。

見えない影が付いているのではないかと疑うくらいに、表情は曇っていた。


教室を見渡すと、俺を凶悪犯かのように見つめる視線が複数。


「ああああああ、星宮とりあえず落ち着こう?」


全身汗だらけ。

ここで俺が断ったら、瞬く間に噂は広がる。

そうなった場合、俺の学校での立場は最悪だ。

女子からは蔑みの目で、男子からは恨みの目で。


体がブルッとする。


「う、うん」


悲しそうに俯いた星宮は、青い包で覆われた弁当箱を俺の机の上に置いた。

それを見た瞬間に今度は罪悪感が押し寄せてくる。


朝早く起きて作ってくれたんだろうな……


そう思った瞬間、俺の信念は簡単に揺らいだ。


「とりあえずさ、弁当嬉しいよ。全部食べていいか?」


頭では分かっている。

星宮と友達になるということは、学校の中心になることと同義であり、そこにはもう平穏無事な高校生活はないと。


それでも、俺は青い包を外して卵焼きを箸で摘まんでいた。馬鹿だ。


「野菜もちゃんと食べてね?」


お前は俺のママか。

隣の席をくっ付けた星宮は、嬉しそうに頬杖を突きながら俺を見ていた。


「見られると恥ずかしいんだが」

「ふふーん。ごめん」


なんで自慢げなのか。


「私も食べよ」


ピンク色の包を取った星宮は、唐揚げを指差した。


「これ! 私の手作りなんだよ? 柔らかく丁寧に揉んだ鶏肉に隠し味として塩麴を使ってるの! うぅぅぅん! 美味しい」


もぐもぐと口を動かしている星宮は、次に俺のスマホの画面を見て驚愕した表情で耳うちをした。


「今日も一緒にゲームだよ? これは約束じゃなくて契約だからね」

「Vアカだよな」

「うん」

「ファンに俺殺されちゃう」

「大丈夫! 私のファンはみんないい人だから!」


能天気な事を、笑顔で言うもんだからそれが真実のように聞こえてしまう。

キラキラとした星を瞳に宿し、柔らかな口元からはカリスマ性の塊が押し寄せてくる。


星宮は2.5次元Vtuber。圧倒的なルックスと天性の人懐っこさで、人気急上昇中のインフルエンサー。


対する俺は、同時接続者20人の底辺ゲーム配信者。

ただひたすら攻略をするだけのカリスマ性もクソもない凡夫で、俗世から離れたい人間no1……だったはずが、今では俺の視聴者数は100を超えるようになった。


その重圧は凄まじく、毎日気を使って配信をするようになった。アンチの数が圧倒的に増えDMで罵詈雑言を呟かれることもある。

掲示板を見れば必ず俺の名前が挙がり、同じ底辺配信者には媚を売られ、元からいたネットの友達からは距離を置かれるようになった。


正直、鬱陶しい。


そんなことを全く知らない星宮は、俺の苦笑いを肯定だと受け取ったのか、満足そうに頷き、俺の机に何やらピンク色の水筒を置いた。


「麦茶」

「いいよ流石に。それくらい自販機で買ってくる。星宮は何か飲みたいのあるか?」

「まさか健人くん奢ってくれるの?」

「まあ、それくらいはしないと」

「そか。ありがと」


ニヘっと笑う星宮を見ると、しかし自然と負の感情は消え去る。


教室を出て自販機がある方向に向かうと、後方から足音が聞こえてきて、俺は首を羽交い絞めにされた。


「お前! 星宮さんと最近仲良くない? 何があったか教えろよ」

「その前にまず放せ」

「ああ、わりぃわりぃ」


テヘペロ顔をした相原斗真は、高校からの友達だ。

帰宅部。たまたま席が近かったから仲良くなったタイプだが、いつしか休日に遊ぶような仲にまで発展した。


そんな斗真は、催促するように首を少し上げる。


「たまたまだよ」

「たまたま? それってどの意味の」

「……」

「ああ、わりい。冗談だって。それで?」


斗真は無邪気な笑みを俺に見せた。

正直、俺と星宮の裏の関係は内緒だ。特に星宮は2.5次元とはいえ、顔を全て明かしているわけではない。


俺の一存では教える事はできなかった。


だから、少し話を捻じ曲げて教える必要がある。


きっかけは確か……

いや、全ては、この天才Vtuberの視聴者参加型イベントに参加したことから始まった。





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