第760話 ローストドン爺

「ええっ? 明日中央広場で公開処刑があるのっ?」


「あぁ、今その話で街中が騒がしいのじゃ」


「どんな人が処刑されるの?」


「ドン爺じゃ」


「ええーーーーーーーーっ」


ドン爺の処刑を明日に控えてようやくハヅキ達の耳にもドン爺が火炙りの公開処刑のお知らせが届いた。


「メガンっ! どうすんのよっ。ドン爺を助けなきゃっ」


「今、商会や取引先を集めておる。皆で反対運動を起こすのじゃっ」


庶民街でドン爺の世話になった者達が続々と集結をしはじめるのだった。



ー貴族街ー


「あの方を処刑になどさせる訳にはいんないんだ」


庶民街の領主を継ぐ予定の息子が使用人達にその旨を伝え、そして神殿長もまた信者達を集結させていた。



マナーカ王国は真の神ドン爺派、現王であるマナーカ神派と二分されていく。そして、エルフ達は自分達を使い捨てにしたマナーカ王に恨みを抱き、ドン爺派へと合流した。



「陛下、処刑に反対する者どもが反乱軍となり集結しております」


「なんじゃとっ? ええーい、さっさと制圧せぬかっ。それとあのじじぃの処刑を前倒しにしろっ」


「はっ!」



「ドン爺を助けるのじゃーーっ」


「うぉぉぉぉぉっ!」


「貴様らっ! 国へ楯突くとは何事だっ!皆の者、反乱軍を制圧しろっ」


「はっ」



中央広場に張り付けにされているドン爺は回復して目を覚ました。


「これっ。そこのもの。今は何が起こっておる?」


ビクッ


血塗れになり、もう死んでいるかもと思っていたドン爺が兵士に話し掛けてきた事に驚く。


「い、生きて・・・」


「ワシは神じゃ。こんな事では死なん。さっさと状況を教えぬかっ」


「た、大罪人の癖に何をえらそうに・・・」


「カーーーーーッ! さっさと教えぬかぁぁぁっ」


「はっ、はいっ。大罪人である貴方様は明日公開処刑になります。それを阻止しようと反乱が起き、それを軍が制圧しに行っております」


しまったの。気を失っている間に内紛になってしもうたか。善良な者どもが命を失ってしまうやもしれん。


「そこの者、ワシの縄を解け」


「い、いや、それは・・・」


「さっさとせぬかっ!」


「はっ、はいぃぃぃ」


見張りの兵士はドン爺に恫喝されて縄をほどこうとした。が、その時に。


「何をしているんだ貴様らはっ」


兵士達の上官だろうものがやって来て二人の兵士を咎めた。



「なぜドン爺を処刑せねばならんじゃっ」


「あいつは神の名を騙り、陛下、マナーカ神を愚弄したのだ。その挙げ句このような反乱軍まで決起させよって。処刑は当然の極悪人であるっ。お前達っ! さっさと制圧せよっ」


だが、軍統括に命令される軍人達は戸惑う

。相手は武器も持たぬ庶民達。そして神官や貴族までも加わっている。しかも同じ国の人間。


~国を守るのは重要な事じゃ。しかし、命令とはいえ、罪なき者に刃を向けるでない。お前達の仕事は人を殺めるのではなく、人を守るのが仕事じゃ~


軍人の中には神殿での出来事を知っている者も居た。そしてドン爺に言われた言葉が心に刺さっている。


「統括様っ、恐れながら申し上げます。この者達は同じ国の人間であります。制圧よりも話し合いをっ」


一人の兵士が勇気を出して上申すると、それに賛同する兵士が続々と出て来た。


「貴様らぁぁっ! 上官の命令に楯突くつもりかっ。これは神からの命令であるぞっ」


「神はそのような事を命令致しませんっ」


「黙れっ!」


ザスッ


「うぎゃぁぁぁっ」


軍統括は上申した部下をその場で斬った。


ざわっ


賛同していた兵士達がにわかに殺気だつ。


斬られた兵士はエルフ達に回収され治癒魔法で治療されていく。


「上申しただけで部下を斬るなんてとんだ上官じゃ。軍人どもよっ。そんな奴の命令を聞くのかっ」


メガンが軍人達に大声で叫ぶ。


ざわつきが収まらない軍人達。人々は初めは刃を向けられて恐れが出ていたが、興奮状態になり恐怖が薄れていく。


「突撃ーーーっ! ドン爺を救いだせーーっ」


一人がそう叫ぶと、国民達はいっせいにうおっーーーーっと唸りを上げて中央広場へと向かう。そして神殿での出来事を知っている軍人達もその列に加わった。


「何をっ! 何をしておるか貴様らっ! 規律違反で全員クビにするぞっ」


しかし、そんな脅しは効かない軍人達は中央広場へと向かう。あの人なら、いやあの神ならなんとかしてくれるのではかかろうかと。そう信じて走った。


その動きは大きなうねりとなり、様子見を決め込んでいた者達も巻き込んでいく。


「うぉぉぉぉぉぉっ」


ドドドドドドドっ



「な、なんじゃ?」


ドン爺の処刑に立ち合おうとしていたマナーカ王に大きなうねりの振動がきこえてくる。


「陛下っ、お逃げ下さい。反乱の群衆がこちらにっ」


護衛騎士がマナーカ王を守りその場から離れようとした時に第一陣が中央広場に到着し、続々とそれに人々が集まってきた。


護衛騎士はマナーカ王を囲んで守り、他の騎士達は群衆に刃を向ける。そして後方からは軍勢に混ざらなかった軍人達が群衆を取り囲んだ。


「愚かなる反乱者どもよっ! 何を血迷うたかっ。それを先導したこの者は神の名を騙る大罪人じゃぞっ」


「うるせーっ! ドン爺は俺たちの恩人だ。本当に神様みたいな人なんだっ!」


「うぉぉぉぉぉぉっ!」


「ええぇいっ、早くこのじじぃを火炙りにしろっ」


「させるかぁぁっ」


群衆と軍人及び騎士達が一触即発状態になる。


「カーーーーーーッ! 止めんかっ」


ドン爺の一喝が皆を沈める。


「ど、ドン爺・・・」


「おぉ、ハヅキか。このようなみっともない姿を見せたくはなかったの。次に会う時は王になっておると約束したのに」


「ドン爺っ! 王様なんてどうでもいいよっ。また一緒に仕事しようっ。ほら、こんなのも作れるようになったんだよっ」


「おぉ、さすがはハヅキじゃ。それなら十分貴族達にも高値で売れるじゃろうて」


「何をごちゃごちゃいっておるかっ! さっさと火を点けろっ」


「やめてーーーっ」


「やらすなーっ! 偽物の神を倒せっーーっ!」


「うぉぉぉぉぉぉっ」


「カーーーーーーッ! 皆の者っ、人同士で争うでないっ」


「ド、ドン爺」


「ワシは皆を争わせる為にこのような事をしたのではないっ。ワシは火炙りにされてもじゃ死なんから心配するでないっ」


「だって、だってっ!」


「ええーい貸せっ!」


マナーカ王は家臣が持っていた火の矢を奪い取りドン爺に向けて放った。ドン爺にその矢が刺さり、油を撒かれた張り付け台が一気に燃え上がる。


「ぐがぁぁぁぁっ」


ドン爺は悲鳴をあげる。死なないといっても熱いし痛みもあるのだ。


「ドンじーーーーーーいっ」


ハヅキの叫び声と同時に群衆が一気にヒートアップして軍人や騎士達に襲いかった。



「あ、行かなきゃ」


「どうした魔王?」


「争いが、争いが起こってる」


ドン爺の星の魔王はマナーカ王国の争いをキャッチし、本能的に魔族達を引き連れて飛び出して行った。


「ラムザ、俺達も行こうか。ドン爺が絡んでるだろうから、認識阻害掛けて見に行くぞ」


「うむ」


ゲイルとラムザも何が起こってるか魔王の後を追った。



「魔族だっ!」


ドン爺が言っていたように人同士が争いを始めると大量の魔族がやってきた。


「えぇーい、このクソじじぃめっ! 魔族を召喚するとはいまいましいっ」


マナーカ王はドン爺が魔族を召喚したと思っていた。


ゾクッ


人々に悪寒が走り、恐怖で身体が固まる。今まで感じた事がない寒気が襲って来たのだ。


「争いを起こしたのは貴様らかっ」


「まっ、魔王だーーーーーっ。終わりだっ! この国は終わりだーーっ」


王に仕える魔導士がそう叫ぶ。


「ひっひいいいいいぃっ。な、何をしておるかっ! 早く倒さぬかぁぁぁっ」


軍人達は怯えながらも魔族に矢を放ち、魔法使いはファイアボールやアイスランスといった魔法で攻撃を始めると魔族達はその者達に反撃を仕掛ける。



「わっ、ドン爺火炙りにされてんじゃん。死なないけどあれめちゃくちゃ痛いんだよ。ちょっと助けて来るわ」


魔族と人が戦いを始めたその時、ゲイルは火炙りにされているドン爺の元へと飛んだのであった。






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