第758話 ワシが神じゃ

ドン爺は庶民街の領主を下した後、貴族街を見て回る。


なんじゃこの建物は?


王城とは違うが大きくて荘厳な建物がある。しかし誰でも入れるようだ。どことなくゲイルが作った結婚式場みたいな雰囲気だ。


同じ服を着た従業員のような者に声を描けてみる。


「これ、そこの者。この建物はなんじゃ?」


「こちらは神殿にございます。マナーカ神を祭っております。どうぞご自由にお祈りを」


は?


「マナーカ神とはなんじゃ?」


「はい、この世界を作られた神様でございます。現王にして神様であられるマナーカ王は日々人々を守る為に魔族と戦っておられるのです。あぁ、マナーカ神よ、この迷えるご老人に導きの光をお与え下さい。ささ、早く一緒に祈りを」


「かーーーーーーっ!」


「ヒッ」


「この星にマナーカ神なんぞおらんっ! 誰がそんなたわけた事を言い出しおったんじゃっ」


「な、何をおっしゃるのですか。神に対して無礼な振る舞いは神罰が下りますよ」


「ワシに神罰なぞ下るものかっ! ここの責任者を呼べっ。ワシが正しき道理を教えてやるっ」


女性神官に威圧を放つドン爺。女性が怯えた姿を見てハッとする。


「いや、すまぬ。お主が悪いのではなかったな。神に対する敬いを責めた訳ではないのじゃ。ここで一番偉い者を呼んではくれぬか。話をしたいのじゃ」


「ひっ、ひぃぃぃぃ」


女性神官は慌てて走って神官長を呼びに行った。


暫くして少し偉そうなオッサンが出てきた。


「不埒な老人とはあなたですかな?」


「不埒かどうかは知らぬが少し話をしたい。マナーカ神がいつから神になったのか、この世界の歴史がどう教えられているか教えてはくれぬか」


「宜しいでしょう。マナーカ神がどれ程偉大なのかを教えて差し上げます」


そしてドン爺はでたらめな歴史とこの世界が始まった時にマナーカ王の先祖が神のお告げで人々を導き、神へと生まれ変わった歴史を長々と聞かされた。


「ふむ、神のお告げがあった所までは事実じゃ。が、その後は嘘の歴史じゃの。王族が自分の良いように歴史を改竄しておる」


「なっ、何を仰るのですかっ。その様な事を仰られると不敬罪に問われますぞっ」


「神は人を不敬罪などに問わん。ただ魂が汚れた者を駆除するのみじゃ」


「は? 魂が汚れる・・・?」


「そうじゃ。他人を不幸にするような利己的な振る舞いをしておると少しずつ魂が汚れていく。自己の利益や快楽の為に人を殺したりすると一気に汚れ、それは魂が天に還っても取れない汚れとなる。それを汚魂という。神は初めにお告げをしたが、その後は星の生物達を見守るのと、魂の洗浄、汚魂の駆除、それと魂を生まれ変わらせるだけじゃ」


「魂が生まれ変わる?」


「そうじゃ。魂は人である時に様々な経験を積み、己の魂を育てていく、そしてこの星の発展に貢献するのじゃ。その暁にやり残した事が無く未練が無くなった時に魂は昇華し、神へとなれるのじゃ。この星からはまだ魂が昇華したものはおらん。現王が神というのは嘘じゃ」


「な、何をそんないい加減な事を・・・」


「まぁ、信じられんじゃろがこれは真実じゃ。国民を欺き、自らが神であるとふざけた事を申す王はこらしめねばならんの。後は魔族はどのような存在であると教えられておるのじゃ?」


「神に仇なす邪悪な存在。人類の驚異です」


「ふむ、人類の驚異か。ならば問おう。魔族が人々を襲って来たことはあるか?」


「過去に何度か・・・」


「それは平時か? それとも戦争中か?」


「せ、戦争中にございます・・・」


「戦争中に魔族が現れた結果、戦争はどうなった?」


「て、停戦し・・・ 各国が魔族を討ち滅ぼす方向へ・・・」


「そうであろう。魔族は人間同士の争いを無くすために自分達が人類の敵となってくれておるのじゃ」


「え?」


「戦争が無い世界は良いものだとは思わぬか?」


「そ、それは勿論でございます」


「で、あろう? 魔族は・・・ 魔王は何も悪いことはしておらぬ」


「しっ、しかし各国の勇者が何人も殺され・・・」


「話も聞かずに魔王を討とうとするからじゃ。魔族達も自分達を殺しに来たら反撃ぐらいするじゃろ。魔王は勇者を魔族の国へ送り込んだ後に報復にでも来たか?」


「い、いえ・・・」


「そうじゃろう。それにの、勇者と呼ばれる者を殺ったのはワシじゃ。魔王ではない」


「えっ?」


「始めに来た勇者は話を聞いて国に帰りおった。その後、勇者の力を用いて魔物討伐を行い、その組織を作ったのじゃ。ミギー王国じゃったかの。他の勇者共は話を聞かずにワシに斬り付けてきおっての、一気に魂が汚魂になりおったからワシが魂ごと消し去ったのじゃ」


「あなたが魂を消し去る・・・?」


「さよう、ワシがこの星の神、ドン爺ことドンウェリックじゃからの。信じられぬのなら貴様の魂を触って過去に何をしてきたのか見てやろう」


ドン爺はどうせ言葉だけだと信じようとしないのはわかっていたのでいきなり神官長の魂を掴んだ。


「うぐぅ」


低い唸り声を上げる神官長。


「ふむふむ、貴様は下級貴族の末っ子か。後を継げぬので神殿入りしたのじゃな。貴様の上司は神殿長で王族か。なるほどの良く分かったわい」


「なっ、何をしたのですかっ」


「貴様の魂を触ってお主の記憶を読んだまでじゃ。まあ魂は汚れておらんし、全うな生活をしておるの」


「ま、まさか・・・」


「貴様の上司になる神殿長はどこにおるのじゃ?」


「し、神殿長はその・・・」


「早く呼べ。女性信者に儀式という名目で悪さをしておる神殿長じゃ」


「そっ、そんなことまで・・・」


「よいか神官長。見て見ぬふりも罪なのじゃぞ。身分差でものを言えぬ状況も理解はするが、己の保身の為に悪を見逃すのも又罪じゃ」


「も、申し訳ございません」


「では呼んで参れ」


「し、神殿長はここにはおられません。儀式の時のみおいでになられます」


「次はいつじゃ?」


「1ヵ月後にございます」


「ではこの神殿におるものを集めよ。今日よりマナーカ神信仰は廃止じゃ。そしてこの国の洗い直しを行う。まずはここの関係者。次は信者に直接ワシが話そう。そして腐った貴族どもは全て静粛いたす」


「はっ、はい」


「ではワシの部屋を用意せよ。神殿長の部屋で構わぬ」


と、ドン爺はマナーカ神の神殿を自分の配下にいれたのであった。


これで内紛になるの。皆を神殿に避難させてワシが説得と汚魂処理をせねばならんぬが争いが飛び火せんように気を付けねばならんな。



ー勇者一行ー


「どいつもこいつも勇者というだけで何でも差し出しやがるな」


「へっへっへ、次はあの村に上玉がいるんだぜっ」


「また女ー? ちょっとはお宝のあるところへ行きたいわっ」


「お宝なんて魔王の所にいきゃ腐るほどあるだろうよっ」


「ほんとあんた達サイテーよね」


「別に脅してたりしてねーぜ、旅の癒しが欲しいと言ってるだけだからな。向こうもいい思いしてんだから別にいいじゃねーか」


勇者一行は殺しこそしていはいないが、男連中は気に入った女性を慰みものにし、村を魔族から守ってやると金品を寄付という名目で奪っていっていた。



「ゲイルよ、あの勇者どもを好き勝手させておいて良いのか?」  


様子を見ているラムザがゲイルにどうするか聞く。


「そうだね、金は後で返してやればいいけど、女の子がかわいそうだね。自分で勇者とゴニョゴニョと望んでない娘の時は邪魔するか」


「いっそちょんぎってやるか?」


「そうだね。あっ、リングをはめてやるか」


「リング?」


「そうそう。土魔法で根元に輪っかをはめてやるわ。そうすりゃ良くない事をしようとしたら締め付けられるようになるからな。下手すりゃ腐って落ちる」


「ほう、それはなかなかにえげつない」


「まぁ、悪いことをしなければ大丈夫だしね。自業自得リングとでも言うのかな」


「それで悪さをせずにまっすぐ魔族領に来るようになるぞ。ドン爺の実体化が解けぬ間はどうやって追っ払うのだ?」


「あぁ、転送魔法陣をあちこちに仕掛けてあるから魔族領に来たら魔物タワーに転送されるから問題ないよ」


ゲイルはドワンの星に作ったタワーをここにも作っておいたのだ。宝物は出ず、延々とモンスターハウスに飛ばされるタワー。死なないように水場は作ってある。食料は魔物を食えば大丈夫だろう。ドン爺には内緒なので、実体化が解けたら解放予定だ。



「ゲイルーっ、ラムザーっ。ボーリングしようっ」


「おお、いいぞー。今日のおやつ賭けるか?」


「おやつは何?」


「プリンアラモードだ」


「よぉーし、絶対に勝つっ!」



魔王を守る為に直接介入して頑張ってるドン爺とは対照にこの星の魔王は今日も楽しくゲイル達と遊んでいるのであった。
















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