第747話 魔人ゲイルは忙しい

「何やったんだお前らっ」 


「うっうっう、カス。ぶちょーが死んじゃうぅぅー」


「ちっ、ここまで傷が入ってたら修復は難しいかもしれん。おい、アホ。これで作り直せっ」


「作り直したらぶちょーじゃなくなっちゃうかもしれないじゃないっ」


「あーっもうっ、それならこいつに嵌め込んで保護しろ。なんとかなるかもしれんっ」


手作り魂を持ってきたカスはめぐみにそれを渡した。


めぐみはぶちょーの事だけを思いながら新しい手作り魂に元の魂を当てはめていく。


「何であいつと戦う事になったんだ?」


「ゲイルはアイナと魅かれ合うように作られたからそれを絶ち切るためだと言っていた」


「あー、それな。ゲイルが前に言ってたやつか。このアホがそういう風に作ったからな。本能的にそうなるようになってるんだ」


「えっ?」


「お前がそういう風に作ったんだろが」


「ぶちょーの魂は私が作ったの?」


「何で覚えてねーんだよ。アホにも程があるぞっ。ほらさっさとやれ。壊れるぞっ」


めぐみはようやくゲイルの魂を自分が作ったものだと分かった。なら今度は自分だけを見て欲しいと願いをこめて壊れ掛けている魂を手作り魂キットに嵌め込んでいく。他の誰よりも自分を見て欲しいと何度も念じながら。


その間、カスはせっせとゲイルの魂をコピーしていく。いつ何があっても大丈夫なように。


「も、もう大丈夫なのかな?」


シルフィードはそうカスに聞く。


「あぁ、心配すんな。もしアホが失敗してもこっちでも作ってるからな」



「う、ううん・・・ 俺は助かったのか?」


「ぶちょーっ!」


「なんだ、めぐみが助けてくれたのか? 悪かったな何にもできないとか言って」


「ぶちょーっ!」


大泣きして喜ぶめぐみ。


「ゲイル、もう大丈夫なの? 腕は・・・」


そう言われたゲイルは腕が無いことに気付いて腕を治癒して生やした。でも何かがおかしい。ゲイルはシルフィードとラムザを見ないのだ。


「ゲ、ゲイル? どうしちゃったのかな?」


「ゲイルよ、我の事を忘れたのではあるまいな?」


「いや、もう何ともないよ。なぁ、めぐみ」


そしてめぐみだけを見る。


「えっ? ど、どういうこと?」


自分達の事は覚えているはずなのにめぐみしか構わないゲイルにシルフィードとラムザは呆然とする。今までならちゃんと皆をかまってくれてたのに。


「カ、カスさん何か変なんだけと・・・」


「おい、アホ。お前なんかしたのか?」


「ん? ぶちょーは私だけを見てって思って作り直したの♪」


「ええええっ! なんてことすんのよっ」


「ん? めぐみは俺になんかしたのか?」


「魂が壊れ掛けててぇー、でぇ、直すときに私だけのぶちょーになってって、お願いしただけぇ」


「もぅ、しょうがないなぁ」


ゲイルはシルフィードとラムザの前でめぐみにデレデレになっていた。


「ちょっとーっ、何とかしないさいよーーーっ」


シルフィードはカスの首を絞めて怒る。


「やめろっ。同じ事がしたいならゲイルを分裂させればいいだろっ。で、こいつを埋め込め。私だけを見てって念じながらな。それでお前専用のゲイルになるはずだっ」


「ほんとっ?」


シルフィードはめぐみとベタつくゲイルからずるんと分身を引き出し、カスから魂を貰って、自分だけをみるように願いをこめて嵌め込んだ。


「シルフィっ」


「ゲイルっ」


「では我にも寄越せ」


とラムザも分身をずるんと引き出し、同じように魂を嵌め込んだ。


「ラムザぁぁ」


「ふふふっ、もうこのゲイルは誰にも渡さん」


それぞれが専用ゲイルを手に入れてご満悦だ。もうこれで他の人を見ることはない。


ゲイルはゲイルで、3人の妻がいることにどこか後ろめたさがあったがこれで解消されたような気がする。どれも自分なのだ。カスはどの魂も違いが出ないようにリンク機能を付けていた。



魔界からエデンに戻ると皆が驚く。3人の妻がそれぞれゲイルを連れて帰って来たからだ。


「ぼっちゃん、また分裂してんのか?」


「いや、どれも本体でさぁ・・・」


何が起こったかダン達に説明をする。


「え? 自分専用のゲイルが貰えるん?なぁ、ダン。ウチらももうとこか?」


「やめろっ。責任もって最後まで飼えんだろが。また何かやらかすに決まってんだからよ」


人を飼うとか言うな。


「ラムザっ、私も魔界に連れてって。まだそのカスってのいるんでしょっ」


チルチルは分身をずるんと引っ張り出し、ラムザを無理矢理引っ張って魔界に行き、自分専用ゲイルにして来た。しかも娘じゃなく女として見てくれるゲイルを。


「ふふふふっ。やったぁ。これで私もゲイルを独り占めっ」



キキララとモモはずるいっと言ったが、昇華したらお前達も好きにするが良いと言われ、絶対に昇華すると心に誓ったのであった。


めぐみゲイルは20歳ぐらい、シルフィードゲイルは16歳ぐらい、ラムザゲイルは35歳ぐらい、チルチルゲイルは25歳ぐらいの年齢に設定し、見分けが付くようにした。



「なんや、こんなにゲイルがおったらきしょく悪いな」


自分でもそう思う。しかし、それぞれのゲイルから幸せな気持ちが伝わってる。


なんだこれ?


「あら、私も専用ゲイルが欲しいわ」


「やめろっーーっ」


マルグリッドも専用ゲイルを欲しがったが、ジョンが必死に止めていた。



「あーーーっ! なんなのじゃこれはっ。どこにもおらんと思うておったら、ゲイルが何でこんなにおるのじゃーっ」


ミグル達は何回もここに来ていたらしいがいつ来てもいなかったのでもしやと思い、エデンまで探しにきたのだ。


「なに? 専用ゲイルがもれなく貰えるじゃと? ワシも貰うのじゃーっ」


と無理矢理ラムザに魔界へと案内させ、専用ゲイルを貰ってきた。


そして、エイブリックとアルとゲイルが自分を取り合うのを嬉しそうにしてまた帰って行った。


何をやらすんだお前は?


その後皆の実体化が解け、マリアもカスの所に押し掛け、専用ゲイルを貰ってくる。


月日が流れ、デーレンも専用ゲイルをゲット、無事に昇華したモモも専用ゲイルをゲットしていく。


いつしか皆からこう呼ばれる。


<増えるゲイル>


もう俺を水に浸けておくだけで増えそうだ。


そしてまたキキとララもいずれは専用ゲイルをと望むのであった。


「なぁ、カス。もう勝手に専用ゲイルを渡すのやめろよ。頭がパンクしそうだ。リンクはお前のところでやっとけばいいだろ?」


「負荷が大きいのか?」


「当たり前だ。あちこちで好き勝手に使われてんだぞっ」


「まぁ、その方が情報がたくさん集まるし、エネルギーも加速度的に溜まって行くからな。頑張ってくれ」


各専用ゲイルはそれぞれだけを愛し、イチャイチャしていた。


そして各自の専用ゲイルはアイナを見ても母親としてしか認識しなかった。


「私も専用ゲイル貰ってこようかしら?」


「やめろっ!」


アーノルドはゲイルより自分を選んだアイナがまたゲイルを求めようとして怒っていた。


「嘘よ、貰ったとしても息子としてだわ。年齢も選べるみたいだから3歳ぐらいのゲイルにする?」


「いや、3歳児に負けたら立ち直れん」


年齢が変わるとその年代に性格は引っ張られるが能力は変わらない。アーノルドは3歳児に無邪気にやられる自分を想像してしまったのだ。


めぐみゲイルにアーノルドは問う。


「お前、どうして自分が死ぬかもしれない事を言わなかったんだ?」


「言ったら父さんは手を抜くでしょ? 俺が望んだのは全盛期の全力の父さんだからね。もう勝てるの分かったけど」


「上等だ。これだけゲイルがいるなら一人ぐらい死んでも構わんな。もう一度やるぞ」


「じゃ、次のタワー攻略したらね」


「よし、待ってろよーっ」


そしてアーノルド達はまた実体化して次のタワーの攻略に向かった。次のタワーはデバフと攻撃魔法が出る魔法陣組んであるから痛いよ。認識阻害を掛けた壁とかあるし・・・


そしてアーノルドとアイナはまた何十年もタワーに閉じ込められるのであった。



「しかし、坊主はまたこんな事をやらかしておるのか?」


「俺がやったんじゃないよ」


「めぐみ、よかったわね」


「うんっ♪」


専用ゲイルは皆の星の手伝いをし、それぞれを甘やかせて可愛がっていく。汚魂駆除や料理やら新しい魔道具を作り、キキララを手伝い、カスのシステム開発の手伝いを同時に行っていく。


そう、魔神ゲイルは忙しいのだ。


「ねぇ、ぶちょー!」

「ゲイルっ、次はねぇ」

「ゲイルよ、ほらこの虎模様の衣装をだな」

「ゲイルっ」



「だーっ! もうリンクを切ってくれーーーっ」


「ぶちょー、何を叫んでんの?」


「もうみんな好き勝手してるのが全部伝わってくんるんだよ」


「ふふふっ、でも楽しいね♪」


「まぁな」


それぞれのゲイルから幸せが届くからまぁいっか。



俺は毎日忙しい。でも忙しいのも悪くないのかもしれない。


めぐみの頭をしゃこしゃこ洗いながらそう思うゲイルなのであった。




~おしまい~


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