第736話 信じれば叶う

月日が流れ、低難易度のタワーはジョン抜きで攻略出来るようになったが、中難易度はまだまだな。冒険者の遠征組も苦労を重ねて自分達でなんとかできるようになって来たので、アーノルド達は7つのタワーのひとつに挑戦する事になった。



大きくなったミゲルにはドワンが木工加工のことで知っている事を教え、ノミ、カンナとか専用の道具をプレゼントしてやっていた。


ミサにも小さなウチからマルグリッドが昔やってた事をやらせている。


俺はここに来るときには認識阻害と気配絶ちをして訪れていた。


シルビアもシルフィードが結婚とはこんなんだったよとか色々と話して上手く導いたようだ。今の相手がずっと魂を共にする相手かどうかは不明だけど、繋がりが深ければ何度も繋がるだろう。


そして、キキララは少し親離れするような気配がし始めた。寿命が長い分もっと後だと思ってたんだけどね。すっごく寂しいけどここで引き留めてはいけないのだろう。


「キキ、ララ。自分達で生活してみるか?」


「え?」


「もう自分達で生きて生活してみたいんじゃないのか?」


魔界だと結婚相手も見付からないし、ホーリックやフンボルトの魂も見つからなかった。昇華したのか寿命を迎えてしまったのかは不明だ。


「でも私達は・・・」


「エルフやドワーフなら長く一緒にいれるぞ。ここでもめぐみの星でもどこでもいいんじゃないか?」


「じゃ、めぐみの星にする。セントラルに行く」


「えっ?」


二人の魂が汚れて自らを壊したセントラルに・・・


「私達の後悔はあそこにあるの。何が出来るかわからないけどリベンジしたいっ」


そうか、お前達の未練はそれなんだな。


「分かった。何をやるんだ?」


「暗殺」


「えっ?」


「汚魂を暗殺する。私達みたいな子が出ないように孤児院をやって皆を巣立たせる。そのときに見つけた汚魂を暗殺する」


「そうか。なら好きにしなさい」


二人には持ってる金貨。100枚くらいしかないけど渡しておいた。一番治安の悪そうな所に孤児院を開くらしい。自動で汚魂は駆除されてるとはいえ、人が増えるとどうしても出てくるからな。


生活はドワーフのフリをしてやるらしい。



俺とラムザはキキとララをセントラルに送り届けた。


「寂しいか?」


俺は二人を見送ったあと、ポロポロと泣いていた。


「寂しいね。凄く寂しいよ」


「なら慰めてやろう。もしかしたらまた生まれるかもしれんぞ」


それはないことはわかってるけど、今日はラムザに甘えさせて貰おう。


心にぽっかりとあいた穴はラムザとめぐみが癒してくれていた。



ータワー攻略中のアーノルド達ー


「ちっ、本当にろくでもない仕掛けが多いな」


ゴーレムの強さよりゲイルが仕掛けた罠の方が厄介だった。


踏むと土玉が連射され、それを剣で弾いてステップを踏むアーノルド


「うわぁぁぁぁっ」


「キャッハッハッハ。また落っこちたわっ きゃぁぁぁあっ」


落ちた仲間を心配して近付くと時間差で落ちる落とし穴にアイナも落ちた。


「あの子本当に意地が悪いわねっ」


「アイナ、早く構えろ。ここはモンスターハウスだ」


落ちると必ず魔物が溜まっている所に行く。落とし穴というより転移魔法陣なのだ。


「クソッ、ムカつく野郎だっ」


アーノルドとアイナは文句を言いながらも仲良く魔物を倒していた。



「シルフィ、シルビアも結婚したしお邪魔だろ?」


「そうだね」


「ちょっと出会った時ぐらいになれる?」


「やっぱり子供がいいの?」


「そうそう、抱っこさせてよ」


「んもう」


と、言いながらも子供になってくれるシルフィード。


「いいところに連れてってやるから目を瞑ってて」


「こう?」


目を瞑ったシルフィードにチュッとしてからトントンした。



「グリムナさん。シルフィードを宜しくね」


「本当に思い出すと思うか?」


「ずっと心残りだったと思うよ。グリムナさんもやり直してきなよ」


「ありがとうなゲイル。しばらく親子の時間を過ごしたら来てくれないか? ナターシャにシルフィードの花嫁姿を見せてやりたい」


「わかった」


グリムナはエデンで生活しているナターシャの元へと向かった。しばらく普通の親子として暮らして欲しいと思う。




グリムナの腕の中で目を覚ましたシルフィード。


「あれ? お父さん? ゲイルは?」


「しばらくしたら来る」


「ここエデンだよね?」


「そうだ。あれは誰だかわかるか?」


「えっ・・・・・? あっ」


シルフィードはポロポロと泣き出す。


「お母さぁぁぁぁぁん」


いきなり見知らぬ子に泣きながら抱き付かれたナターシャの生まれ変わり。


「お嬢ちゃん、どうしたの? 迷子にでもなったの?」


「私の事は思い出せないの・・・?」


「え? 思い出せな・・・ 逃げなさいっシルフィードっあなだだけでも。きゃぁぁぁあ」


当時の思い出が突如としてフラッシュバックするナターシャ。


「大丈夫だっ! 俺がお前達を守るっ」


グリムナはダッシュしてナターシャを抱き締めた。


「あ、あなた・・・」


「もう大丈夫だ。もう大丈夫だ。すまなかったナターシャ。俺はもうお前達から離れたりしないっ」


グリムナは後悔と未練が無かったわけではない。ゲイルとシルフィードを見ていて必ずまた会えると信じて昇華したのであった。今その願いが叶えられたのだ。


しばらく親子3人で泣きあった後にグリムナはナターシャの両親へ挨拶に向かったのであった。



そして、ゲイルはアーノルドとの対戦に向けてさらなる準備をしていく。皆を置いて死ぬわけにはいかないのだ。でも対戦をしないという選択肢はない。アーノルドの意思と俺の本能との戦いなのだ。ずるずるとこのまま行くと魂がなくなったとはいえ、俺とアイナは本能が引き合ってしまう。この関係を絶ちきる為には決着を付けなければならない。


「ゲイルよ、我は何も手助けは出来ぬのか?」


「ラムザになんかあったら俺の感情が爆発して星ごとなくなりそうだからね。できればめぐみと魔界で待ってて欲しいんだけど」


「いや、それはダメだ。もしゲイルに何かあったと想像するだけで我も暴発するやもしれん」


「ぶちょー、私の世界で一緒に暮らそうよ。何もないけど一緒にいれたらそれでいい・・・」


「めぐみも心配すんな。俺は必ず勝つから。それに戦うのはまだ先だ。その間にシルフィードの所とかキキとララの様子も見に行かないとな」


特にシルフィードには金貨数枚しか渡せなかったから稼いでやらないと。



俺はめぐみとラムザを連れて冒険者活動を再開する。各地の高額依頼を受けまくっていた。ラムザは巻き角になって帽子を被り魔族というのを伏せておいた。


そしてSランク冒険者ゲイルは女好きという噂がどんどん流れ始める。


稼いではそっとシルフィードにお金を渡す。グリムナはこっちでなんとかするとのことだったので、金貨50枚程を渡して終わりになってしまった。


その後はキキとララの孤児院に寄付をしていった。子供の職場に顔を出す親は嫌かもしれないが私設の孤児院は稼ぎようがないので素直に受け取ってくれた。



そして、月日が流れ、人ゲイルはシルフィードとまた結婚することに。



「シルフィードさんのお父さん、お母さん。僕とシルフィードを結婚させて下さい」


「ゲイルさんは何をされている方なのかしら?」


「Sランク冒険者をしております。シルフィードさんには不自由な生活をさせない自信があります」


「あら、あなたがあの有名なSランク冒険者ゲイルでしたの?」


「はい」


「いつも違う女性を連れているというのは本当かしら?」


「え、あ、はい。パーティーメンバーは女性です」


「ソロではありませんの?」


「ソ、ソロです・・・」


「ではパーティーメンバーというのはどういうことかしら?」


「大切な人です・・・」


「どういう大切な人かしら?」


弱った。嘘も吐きたくないし本当の事も言えない・・・


グリムナをチラッと見ると自分でなんとかしろとの目。酷ぇ・・・


「それに、孤児院を営んでるというドワーフの女の子に入れ込んでいるというのも本当かしら?」


ナターシャはどっからこんな情報を・・・


グリムナがニヤッと笑いやがった。テメーか。マッチポンプしやがったのは?


クソッ、グリムナは俺が他に嫁さんを持った事を懲らしめるつもりなのか。いや、わかるよ。娘の父の気持ちはわかるよ。でもしょうがないじゃないか・・・。


ええーい、もう正直に話してやる。


「シルフィードのお母さん。ごめんなさい。僕は何回も生まれ変わってます。そして生まれ変わる度にシルフィードと結婚しています。いつも連れてる女性は二人とも妻です。孤児院を運営しているのはその一人と出来た娘です。そのいつもいる二人はシルフィードがいなくなってしまった間に僕を支えてくれた大切な二人なんです。でもシルフィードもまた僕の妻なんです。もう離れずにずっと一緒にいたいと思ってます」


こんな虫のいい話があるのだろうかと思いながら正直に話した。


「ふふふっ、虫のいい話ね」


「はい」


「正直に話してくれてありがとうゲイルくん。そしてずっとシルフィードを守っててくれてありがとう」


「えっ?」


「私はずっとシルフィードの事を見てたの。一人残して心配で心配で・・・」


ホロッとなくナターシャ。


「えっ? お母さん見てたって?」


「私は殺された後、ずっとシルフィードを見てたの。ゲイルくんが小さな頃からシルフィードを守ってくれてるのをね」


「そうだったの・・・」


「見てるだけしか出来ない自分が悔しくて悔しくて・・・ でもそんな時にゲイルくんがシルフィードを助け出してくれて、村を助けてくれてエルフ達も助けてくれて・・・ 本当に嬉しかった。あなたもゲイルくんにたくさんお世話になったでしょ?」


「ふふっ、そうだな」


「ゲイルくん、意地悪な事を言ってごめんなさいね。それと味噌と醤油を広めてくれてありがとう」


そうか、天に帰らずにシルフィードが心配でずっと見てたのか。


「これからもずっとシルフィードを宜しくね」


「もちろんです」


「じゃ、娘の旅立ちね。私達はもう少し二人でこの世界を楽しむからシルフィードはゲイルくんと一緒に行きなさい。そうしないとあの二人に取られちゃうわよ」


「うん。お母さんありがとう。お父さんと二人で楽しんでっ」


その後、4人だけの結婚式をあげて食事をしてお別れした。



「あー、シルフィードが幸せそうで良かったわ」


「そうだな」


「ありがとうあなた。私も幸せよ。私を暗闇から連れ出してくれてありがとう」


チュッ


グリムナは生前に叶わなかった幸せを今叶える事が出来たのであった。






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