第732話 本当のこと
「ドワン、向こうに戻るぞ」
アーノルドがいきなりドワンに戻るぞと言う。
「まだお前らのバイク出来ておらんじゃろが?」
「向こうで作れ。別に隠す必要ねぇだろ?」
「それもそうじゃの、そのうちバレるからの」
「ドワン、帰ったらゲイルにこんな物を作れって言われてるし。他のドワーフ達と一緒に作ればいいじゃない」
と、チルチルも戻るつもりのようだ。
「ふむ、そりゃ構わんが皆不思議に思わんかの?」
「もう他の星から来たってバラしたらいいんじゃない? 私達もゲイルから前世の記憶あると聞かされた時に驚いたけど、へぇーぐらいの感覚だったし」
「ふむ、じゃあワシらも前世の記憶があることにするか。しかも他の星でのな」
「賛成ー!」
ゲイルの知らないところで重要な事が決まっていた。
「わー、なんやこれ。おもろい味してるわっ。なんて食べ方なんや?」
「酔っぱらいエビ。紹興酒があるとよかったんだけどね、日本酒と調味料で代用したんだ。こうして生で食べてもいいけど、焼いてもいいからね」
他はエビチリ、エビマヨ、エビのアヒージョとか作った。イカも無事に釣れたので刺身とアヒージョに投入。アヒージョはエビ・イカ・タコが入ってる。これとガーリックトースト。それをめぐみが旨々と食べている。
俺が作った物はたいてい自分で食べる。他の人が作った物は食べさせてとせがむめぐみ。
ぼっちゃん、タコの炙り醤油焼き作ってくれよ。あれ旨かったんだよな。
「おー、いいぞ」
「サバも焼いてぇや」
「サバ欲高めるんじゃなかったのか?」
「もう十分や!」
ミケも旨々とサバを食べ出す。
「ぼっちゃん、明日戻るか?」
「そうだね。まだやってるならエデンで船釣りに行こうか?」
そうだなと返事したダン達と翌日エデンに帰ると遅いと怒られた。なんて理不尽なやつらだ。
魔界経由で皆を送り届けた。シルフィードからするとほんの数分離れてただけだが、こちらはしばらく会ってなかったので気持ちのギャップが激しい。なるほど、これは友達と感覚共有したくなるの分かるな。俺もギュッと抱き締めたくなったが止めておいた。
「じゃ、俺はしばらく来ないから。次の休みはいつ頃にする?」
「半年くらい後でええじゃろ。やることが山積みじゃ」
「キキとララはどうする? 今までみたいに通うか? それとも半年間ここで住んでみるか?」
「えっ? いいの?」
「ダン達には許可取ってある。あと気持ち悪くなったらこれを飲め。足りなかったらおうちに置いてあるから取りに来なさい。パパとママは居ないこともあるからな」
と高濃度の魔法水を渡しておいた。
シルフィードにバイバイして魔王城に戻り、半年ほどすることが無くなったのでバイクのカスタムをすることに。
「ラムザのは出来たの?」
「ふっふっふ。これを見よ」
おー、世紀末スタイル。レース用じゃなさそうだな。
「ゼウちゃんは作ったの?」
「いいえ、見てただけよ」
「ゼウちゃんにも作ってあげようか?」
「えー、怖くない? スカートで股がるのもなんだし」
「じゃ、足ひろげなくても乗れるの作ってあげようか?」
と、せっせとスクータータイプのバイクを作ってやる。コケにくいように前輪が2輪の3輪車タイプだ。
「これはある程度整備された道じゃないと乗れないから、ここか街でしか乗れないよ」
「じゃあ街の近くまで送ってくれる? ドワンとチルチルに見せたいわ」
「いいけど、実体化しないとバイクだけ走ってるように見えて他の人が怖がるよ」
「それもそうね。なら私も実体化しちゃお」
あっ・・・
ゼウちゃんは実体化してしまった。皆より遅く実体化したけど、まあ数年なんて誤差の範囲だな。
「こっちに帰ってくる? それとも向こうに住む?」
「そうね、ゲイルくんはしばらく向こうに行かないんでしょ?」
「そうだね」
「じゃ、あちらで一緒に遊んでようかしら?」
「じゃ、おやっさんたちに住むところ相談して。どこなと用意してくれると思うから」
「わかったわ」
街の近くにゲートを開けてあげるとゼウちゃんはトコトコとスクーターで走っていった。
ざわざわ ざわざわ
色々な人種がいり交じりはじめた始まりの地だが、見たこともない乗り物に乗った美女が現れたらさすがに人目を引く。ゼウちゃんはそれを全く気にせずドワンの家兼工房へ。
「外の奴らは何を騒いでおるんじゃ?」
ドワンが外のざわつきを感じて工房を出ると、
「えへっ、来ちゃった♪」
とテヘペロをするゼウちゃんであった。
(おいおい、あの美女ってドワンの知り合いだったのかよ?)
(嘘だろっ?)
「ゼ、ゼウちゃん。来ちゃったってここに住むつもりか?」
「ダメかしら?」
ちょっと寂しそうな顔をするゼウちゃん。
「い、いや構わんが・・・ シルフィードかチルチルの所にでも」
「ここは空いてない?」
ということでゼウちゃんはドワンの所に押し掛け女房みたいなことをした。
「ドワン、お前そんな美人の嫁さんがいたのかよっ?」
「い、いや、嫁では・・・」
ドワンは死ぬほど住民から詰め寄られていた。
その後、何度かの休みを挟み、成人したデーレンとポットをゲートを使って連れてきた。召喚しようかと思ったが必要以上の力が付いても持て余すからな。
デーレンには計算の教育と流通を担ってもらい、ポットにはお菓子の伝道だ。
後はダン達に任せよう。
遥か先の文明が突如としてどんどんと出てくる始まりの地、さすがに住民達もドワン達はいったい何者だ?となってくる。
「おやっさん、いつ俺達の事を言うんだ?」
「そうじゃの、いざ話そうとするとなかやか言えんもんじゃの」
「ぼっちゃんはよくこんな事をずっと一人で抱えて生きてたよな」
「ゲイルはこっちに来ないの?」
「あぁ、もう休みに誘いに来る以外来ないと言ってたな」
「どうして? キキとララみたいに混ざればいいじゃない」
「魔王が人類の敵として君臨せにゃならんだろが。ゲイルがラムザ一人にそんな役目をさせるわけねぇだろ? あの二人で人類に争いをさせないための役目を買って出てくれてんだよ。それに・・・」
「それに?」
「もう、人と関わらないようにしてんじゃねぇかな。ずっと皆を見送って見送って見送ってを続けてたはずだからな。もう見送るの辛いんだろ。俺達のことも最後は関わらないようにしてたよ。ずっと見守っててくれたがな」
「一人でそんな事を・・・」
「まぁ、俺が悪いんだ・・・」
「えっ?」
「シルフィがいなくなったあとどれぐらいの年数が経ってたのかしれねぇんだがな」
とダンは当時の状況を説明した。
「で、それをずっと支えてたのがラムザとめぐみだ」
「ダンがそれを知らんといらんこと言いよってな、そのあとゲイルはうちらからも姿を消したんや」
「今でも悪いことしちまったと思うわ」
「ゲイルはずっとそんな辛い思いをしてきたの?」
「ぼっちゃんは自分が辛いことは言わんからな。まぁでもこうやって皆が揃って今は幸せなんじゃねーか? シルフィにも好きな事をさせてやりたいみたいだしな。キキララを俺達に預けたのも二人に経験したことがない幸せな子供時代を過ごさせてやりたいんだとよ」
「でもまた寂しい思いをしてるんじゃ・・・」
「まぁ、めぐみとラムザが付いてんだ。50年くらいのことだからな。この街の発展をやりゃ終わりだ。シルフィもぼっちゃんの望み通りやりたいことをやれ」
「うん・・・」
私がいなくなった後、ゲイルをずっと支えてたのはめぐみさんとラムザさんなんだ・・・
「ダン、ワシらは他の星から生まれ変わって記憶が残ってることでいいな」
「あぁ、それで構わんがシルフィードはどうする?」
「私もちゃんと話す」
「キキとララはそのままでいいぞ。魔族だということで不思議に思われてないからな」
「うん。わかった」
そして翌日、皆は同じ境遇で知り合いだということを住民達に話した。みな驚きはしたがすぐに受け入れてくれて、もっと色々と教えてくれと好意的だった。
「シルフィもそうだったの?」
「うん、黙っててごめんね」
「大丈夫よ。良かった。同じ歳ぐらいなのにシルフィと比べて何もできなかった自分に自信が無くなってたの。でも私もこれから頑張ればシルフィみたいになれるんだねっ」
「うんっ、アイナさんが治癒魔法教えてくれるって。頑張ってみる?」
「うんっ」
「キキとララはどうやって魔法を覚えたの?」
「全部パパが教えてくれたんだよー」
「え? 治癒魔法とか植物魔法とかも?」
「そう、私達のパパはスッゴいの。何でもできるんだー。私達のこともスッゴい可愛がってくれるし。料理も上手なんだ」
「魔王なのに優しいの?」
「うんっ。世界で一番優しいの。パパの子供になれて本当に幸せっ」
「そんな優しい人がどうして皆に酷い事をするのよっ」
「パパは酷いことなんてしてないもんっ。パパは皆の為にっ」
「キキ、ララっ」
口を滑らせかけたキキララにシルフィードが慌てて止める。
「あっ・・・」
「シルフィ、何か知ってるの・・・?」
シルフィードは大好きなシルビアにゲイルの事を嫌いになって欲しくなくて本当の事を話すことにした。
「魔王、ゲイルとラムザは・・・ 凄く優しいの」
「え?」
「ここは色々な人種がいるでしょ? 考え方や寿命も違うし、もめ事がおきやすいの。だから人同士で争わないように自分達が悪者になって皆が力を合わせて戦う共通の敵になってくれてるの」
「そんな・・・」
「私はゲイルにずっとずっと優しさを貰って生きてきたの。ずっとずっと守って貰って・・・ 今も・・・ 守ってくれてるの」
「シルフィとゲイルはどんな関係なの?」
「私はゲイルのお嫁さんだったの。でも今は違うかもしれない・・・ ゲイルとケイタは同じ人。私も本当は皆の敵役をする予定だったんだけど、シルビアと遊びたくてこっちに来ちゃった。ゲイルを置いて・・・」
「わっ、私達もシルフィとシルビアと遊びたいからこっちに来ちゃったの。パパを置いて・・・」
「魔王は寂しくないのかな・・・」
シルビアのその言葉を聞いてシルフィとキキララは胸が傷んだのであった。
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