第711話 客観的に見た自分

 「おい、ゲイル。相談だ」


「カス、又かよ。今度はなに?」


「いや、お前とあほ、それにシルフィードで俺達の仲間を増やしてるだろ?」


ゲイルはめぐみとの子供、シルフィードとの子供が神と呼ばれる者達になり次々と増えていた。


「そんなに増えてんの? こっちでは分かんないんだけど」


「魂の昇華で仲間を増やすつもりだったんだが、お前がこんなに生み出すとは思ってなかったぞ。俺の努力がむなくしくなるだろうが」


「子供って実感ないんだけど?」


「当たり前だ。生物としての子供はラムザとの間にいるだろうが。他の生物の子供が欲しけりゃ、人ゲイルでそのへんの生物と交われ」


「いや、誰とでも良い訳じゃないからね・・・」


以前、カスからはラムザとの子供は星のリソース不足でもう生まれないと聞かされた。キキとララも少し成長してしまってアバアバしてもあまり喜んでくれなくなったのが寂しい。でも全く成長しないのも寂しいから仕方がない。


「で、相談とは?」


「おぉ、そうだ。仲間が増えてはいるが、星を作ろうをプレイする奴が思ったように増えないんだ。放置したり止めたりする奴も多くてな。いい解決策はないか?」


「取りあえず全員に星を作ろうの体験版でも渡したら?」


「体験版?」


「そう、楽しみ方はそれぞれだろうけど、お供えシステム発動までいくやつ少ないんだろ?」


「そうだな」


「だから成功したらこんな楽しみがありますよーとか体験させたら皆頑張るんじゃない?」


「なるほどな・・・」


「体験版は汚魂システムを無くしたりとか難易度をがっつり下げてやればいい。お供え体験で飯とか酒とか必要なら提供してやるよ」


「いいのか?」


「お前、お供え作れんだろ?」


「そうだな。では頼んでいいか?」


「一挙に発注きたら無理だから大体の予定を教えておいてくれ。こっちでストックしておくから」


「悪いな。こっちで何か出来る事はあるか?」


「じゃあ、仲間の所に転移出来るようにしてくんない? みんな上手くいかない原因が分からないみたいで俺に見ろっていうんだよ」


「それぐらいなら大丈夫だ。その代わり人ゲイルで来るなよ。魂が帰った事になるからな」


「わかった。気を付ける。また改善点が見つかったら報告するよ」


「おぉ、悪いな」



俺とカスは仕事仲間のようになっていた。なんかシステムエンジニアにクライアントの要望を伝える営業マンになった気分だ。人の時とやってること変わらんな。


安請け合いしたけど、体験版のお供えが大量に必要になりそうだな。販促グッズうちで作りますよと取引先に言ってしまったみたいなもんだ。



「めぐみ、ちょっと仕入れに行って来るわ。あと今の通貨も必要だから稼ぎにもいかにゃならん」


「じゃ、一緒に行く♪」


俺はめぐみの星で人ゲイルで冒険者登録をしていた。


毎回純金で買い物するとそのうち金の価値が暴落するからだ。


Sランクソロとして時々フラッと現れて高難易度の討伐依頼のみ受けて稼ぎ、大量の食料と酒を買っていく謎の冒険者だ。ちなみにハイエルフだと思われている。


酒はぶちょー商会、食材はロドリゲス商会で仕入れる。人が入れ替わって行くが、商会がずっと健在しているのは素直に凄いと思う。



「ねぇ、ゲイル。なんで3人に別れて焼き鳥仕込んでるの?」


「お供えシステム体験版で大量に必要になるんだよ。シルフィもどんどんご飯炊いて」


体験版には焼き鳥セットとエール、そしておにぎりだ。作っては保存魔法を掛けてせっせとストックしていく。


「こら、めぐみ。焼いたそばから食うな。これは仕事用なんだから」


「でも美味しいよ♪」


キュンっ


俺はめぐみのこの顔を好きだと認識してからますます弱くなってしまった。


あーんと口を開けるので食べさせてやる。


「どうしてめぐみさんにはそうやって甘やかすのよっ」


「シルフィはめぐみの作った飯を食いたいか?」


「えっ? あー、遠慮しとく・・・」


「だろ?」


今、シルフィと話してるのは人ゲイル。シルフィードもそうだけど、全員わがままになったというか自分の欲求に素直になった。


俺も魔神ゲイルと人ゲイルの時は理性が働くが、神ゲイルと魔王ゲイルは欲求に素直だ。めぐみに焼き鳥を食べさせているのは神ゲイル。めぐみの喜ぶ顔をみたいという欲求に従っている。人ゲイルから見ていると、子犬が喜ぶからとどんどんおやつを与えてしまうダメ飼い主のようだ。


なんか、自分のこういうところを見るのいやだな・・・


分裂してもそのまま意識はリンクしているので神ゲイルとして幸せなのは理解しているけど。


「ゲイルって、魔王ゲイルの時凄いよね。獣みたい」


シルフィードよ、幼さが残る顔でそんな事言うのやめてくれる? 人ゲイルでそんなの聞きたくないんだよ。



「おっ、こんなに大量に焼き鳥焼いてんのか? 手伝ってやるよ」


「おー、ベント、助かるよ。サラは?」


「ずっと、星を育ててるよ。魔法なし・知力高めでな」


今度は星を教育するつもりなのか・・・


「魔法があった方が楽しいだろ? 魔法無しだと星が汚れるぞ」


「そう聞いてたけど、一部の者しか使えないものより、皆が努力して成功する世界を作りたいみたいだ」


ジョンも必死で星を育てているらしい。マルグリッドにちゃんと望み通りに発展させないと俺の所に入り浸ると脅されているらしい。物凄く堅くて真面目な星になりそうだな。


「ミーシャはどんな星を作ろうとしてるんだ?」


「お肉と甘い物の星です。えへへ」


牛豚羊鶏メインの星か・・・ 極振りだな。人がいなかったら誰がお供えしてくれんだ?



「なぁ、ゲイル。うちらの星はいつ見に来てくれるんや?」


「別々にやってんのか?」


「そやで、うちはサバ、ダンはタコの星や」


お前らも極振りか。だから誰がお供えしてくれるんだよ?



「あっ、ぼっちゃん。やっと見付けましたよ」


「おー、ブリックとチュールじゃないか。よく来た。君達を俺の専属料理人として雇おうじゃないか」


「え? 働くんですか?」


「嫌か?」


「いや、いいんですけど、そのうち自分の星も作ろうかと思ってるんですよ。それまででいいですか?」


「構わんよ」


独立したい人を雇う感覚だな。報酬は食材だ。これは俺しか仕入れる事が出来ないからな。


こうして料理人が増えたことでお供えストックがどんどん貯まっていったのである。



晩飯はまたバーベキュー。


めぐみ、キキとララ、チルチル、マリアが口を開けるので神ゲイルが食べさせていく。親鳥1羽で5匹の雛を育てるのは大変だ。


シルフィードから人ゲイルを取り上げて親鳥にする。


「えーっ、持ってくのぉ」


「飯の時だけだ」


「ラムザの魔王ゲイルを持ってけばいいいじゃない」


「ダメです」


「シルフィード、ゲイルは隠しとるつもりやけどな、ウチらみたいなケモミミとしっぽ好きやねん。魔王ゲイルをチルチルに近付けたらおいたするかもしれんで」


ミケ、俺をプロファイリングするのやめてくれ。おいたする事はないだろうが耳やしっぽを撫で続けるかもしれん。あの柔らかい毛の手触りは至福なのだ。チルチルとマリアがまた子供に戻ってくれたらずっとヨシヨシ出来るのに。



しかし、客観的に自分を見つめるのはとても嫌だ。上手いと思ってたゴルフスイングをビデオにとって見た時や歌を吹き込んで聞いてみたような恥ずかしさがある。


それが今や自分の本能にしたがって行動する自分を見せられているのだ。魔王ゲイルはラムザとずっとイチャイチャしている。あれが俺か? と思うけど、ドワンにシルフィードといつまでイチャイチャしとるんじゃと怒られた事があるから、あれが俺であることは間違いないのだろう。


神ゲイルはどんどん誰かを依存させてダメにしていってる。あれも俺か・・・


俺ってろくでもないやつなんだと自分で自覚する。あー見たくない見たくない。



基本、夜は皆を帰らせるようにしている。こうしないと寝なくても大丈夫だからこれが延々と続けられるのだ。食材を仕入れても仕入れても足らなくなる。


そこで、俺はひらめいた。食材は持ち込みにしようと。これで皆が自分の星の育成に頑張るだろう。が、お供えまですぐに育てろと言うのも無理な話だから、カスと相談してみよう。



「カス、ちょっと相談だ」


「お前から相談とは珍しいな。なんだ?」


「各星で自分達で時間を進めるのは可能か?」


「可能は可能だが、他の星との時間がずれると・・・」


「システム上まずいのか?」


「いや、よく考えると別に問題ないな」


「だろ? 途中でやめてしまうのがこれで防げるんじゃないか?」


「しかし、面白味がなくなるだろ?」


「ポイント制とか規制かけたらいいんじゃないか? 無制限でやらせると面白味がなくなるから、魂を昇華したら何ポイントとか。で貯まったポイントで時間進められたり、自分の星の食材を自分で採って来たり出来るとか」


「おー、なるほど。それはいいかもしれん」


「で、お供えが来ても不味いものばっかりだったら楽しくないからさ、自分で教えに行けたりする、お告げシステムとかあればいいんじゃないかな」


「ふむふむ、それは声だけでなく実体化した方がいいか?」


「実体化はリスクあるかもね。それも制限かけたら? 1回実体化したら50年はそのままとか。ただ生物に攻撃されるかも知れないからオートプロテクト付けて、痛みだけあるとかがいいぞ。生物としての体験もできるしな。管理者も生物の事をよく理解できるんじゃないか?」


「ふむふむ、お前はよくぱっぱっとそのような事を思い付くな」


「自分ならそういうシステムの方がおもしろいからね。見るより体験したいじゃん」


「じゃ、試すわ。あほの星はどうする? あいつの所だけ更新にめちゃくちゃ時間かかるんだよ」


「めぐみの所はあのままでいいよ。あいつも帰らないし、今のままで十分だ」


あほ=めぐみとなんの違和感も抱かないゲイル。


「じゃあほの所以外やっておくわ。じゃ、またな」


カスはドワンの姿でなく、俺と同じ歳ぐらいの男性の姿になっていた。仕事仲間の様でこうして話をするのは結構楽しい。今度ゆっくり飲みながら愚痴でも聞いてやろう。



「ねぇ、パパ。仕事の話終わった?」


「終わったよ」


「じゃ、抱っこして」


「いいぞーっ」


キキとララを片足ずつに乗せてヨシヨシする。娘をこうして構えるのは至福の時だ。


「ねぇパパ」


「なんだ?」


「どうして私達の角をよく触ってるの?」


「これはパパの萌だからだ」


「萌?」


そう、キキとララの角はあの鬼っ娘と同じ可愛い角なのだ。一度取れた時は物凄くびっくりしたが、こうして生え変わって伸びて行くらしい。抜けた角は大切に保存魔法を掛けしまってある。子供達の抜けた角は人ゲイルの宝物なのだ。


その様子を魔王ゲイルは人ゲイルの事をアホ親だなと客観的に見つめていたのだった。


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