第437話 父上の昔話

「さて、もう一度初めから聞いていこうか。アルは目標が定まっていない。ジョンは守る為の強さを手に入れる。そうだな?」


エイブリックの問いかけに頷く二人。


「アルは王を目指すと言ったな。どんな王を目指すのだ?」


「父上のような強い王を目指したいと思います」


「お前の言う強さとはなんだ?」


「敵を圧倒出来る強さです」


「敵とは?」


「ま、魔物や賊・・・」


「魔物は冒険者、賊は衛兵や騎士団に任せればいい。お前は王自ら魔物や賊と戦うと思ってるのか?」


「そ、それは・・・」


「お前は俺みたいになりたいと言ったが、お前から見た俺は魔物や賊を倒すだけの存在か?」


「い、いえ・・・」


「まぁ、ずっと一緒に暮らしているわけではないから表面しか見えないのは理解する。そしてお前達が強さに憧れる年齢だと言うことも理解している。俺もお前らぐらいの時はそうだったからな」


「ち、父上もですか・・・?」


「男なんてみんなそんなもんだ。特に少し腕に覚えがあるやつはな。 ・・・そうだな、少し昔話をしてやろう。」


エイブリックは幼少時代からの話を始めた。


「とまぁ、ここまではお前らが歩んで来た人生とさほど変わらん。違うのは王位継承権の順位だけで後継者を決めると国が荒れる恐れがあったということだ」


「継承権の順位だけではないのですか?」


「あぁ、王になれる力が有るものが継ぐべきなのではないかと言う意見が出始めててな、初め俺は反対だった。勝手に自分が次の王になると思い込んでたし、周りも俺をそう扱っていた。今のお前みたいなもんだ」


「今の自分と・・・?」


「お前も王になりたいと言えばなれると思ってるだろ?」


「・・・・はい」


「もしゲイルが準王家ではなく、正当な王族の籍を手に入れたらどうなると思う?」


「お、王位継承権が生まれます・・・」


「そうだ。実際に父上はゲイルを正式な王族、俺の養子にするつもりだったんだ。それを俺が止めた」


「お爺さまが・・・」


「父上は継承権より力の有るものが王になった方が良いと思っている。王族の責務は国をより良い国にしていく事。私より公を取らねばならん。父上の判断は正しいのだ」


・・・

・・・・

・・・・・


「俺は昔、力の有るものということを勘違いしていた。強ければ良いのだろうと。そこで国宝の魔剣を持ち出し、兵を連れ、より強い武器を求めて遺跡に潜った。魔剣を使えるようになっていた俺は初めのうちは楽勝だったが・・・」


≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「ほら見てみろっ!こんな遺跡なんて楽勝ではないかっ!」


「殿下、これ以上は危険でございます」


「うるさいっ!俺は王になるためにもっと強力な武器を手に入れねばならんのだ。もっと深くまで探しに行くぞ」


「しかし・・・」


「ごちゃごちゃ抜かす前に飯の準備をしろ。食ったら行くぞっ」



≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


うぎゃあぁぁぁぁ


「殿下、お逃げ下さいっ・・・」


「なんなんのだ・・・、この魔物の多さは・・・」


遺跡の中にあるひときわ頑丈な扉を開けると様々な魔道具らしきものが保管されている場所だった。エイブリックと兵は歓喜し、魔道具を手に取った時に魔物が溢れ出てきた。


エイブリックを守るために次々に魔物の餌食になる兵達。エイブリックも魔剣で応戦するが、兵は減り、魔物は増える。


「なんなんのだ、この魔物の多さは・・・」


エイブリックは死を覚悟した。



「おう、ずいぶん殺られたな。生き残りはお前だけか?」


いきなり目の前に現れ、魔物達を鮮やかに剣で斬り倒す男と殴り殺していく可憐な少女、そしてデカいハンマーを振り回す小さい親父が次々と魔物を倒して行く。


魔物を殲滅した後にそう声をかけてきたのはアーノルドだった。


「おい、こいつらお前の仲間だろ?遺品を取れ。今から死体を焼くからな。遺族に持って帰ってやれ。」


可憐な少女はエイブリックに治癒魔法を掛け、小さい男は兵の亡骸を集めていく。それを呆然と見ている俺の代わりに遺品を集めろと言った男が亡骸から遺品を集めた後に小さい親父が焼いていった。


「ほら、出るぞ」


「ちっ、まったく。せっかくここまで潜ったというのに大手間じゃ」


「ドワン、ちょうど仕切り直しにいいタイミングだわ。戻りましょ」


「仕方がねぇ、おい小僧。さっさと付いてこい」



≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「とまぁ、俺はアーノルド達に助けられたって訳だ。引き連れていた兵は全滅。生き残りは俺だけ。自分の力の無さを恨んだ・・・」


「父上達がエイブリックさんを助けた・・・・」


「アーノルド達はすでに冒険者として各地を旅して回っててな、遺跡探検の時に偶然出会った訳だ。俺は兵を勝手に動かし、しかも全滅。俺は王になるのを諦めた。継承権があっても俺が王になるのを認める奴はいないだろうと。それでアーノルド達に同行することにしたんだ。早い話が逃げたってわけだ」


エイブリックの過去を初めて知ったアルファランメル。何でも出来る憧れの父の本当の姿・・・


「アーノルド達は依頼料の多い少ないは関係無く、討伐依頼を中心に受けていた。依頼が無くとも通りがかった村や町が魔物に困ってると討伐して回り、それ以外は遺跡発掘や鉱石探しが中心だった。俺の身分を知ってもへりくだる事もなく、態度は変わらなかった。それが初めは理解出来なくてな。なぜ身分を知っても敬語を使わんのだと腹立たしく思ったものだ」




「俺は王族だぞっ、それを知ってなぜ敬わんっ」


「お前が勝手に付いて来たんじゃねーか。冒険者には身分も糞もないからな。嫌なら帰れ」


くそっ、なんだこいつらはっ? 見てろ、お前らより強くなってやる!


エイブリックはそのままアーノルド達と冒険を続け、アーノルドを見返す為に必死に努力した。




ゴンッ


「痛ってぇぇ」


「きゃっははははっ。アーノルド、何オークなんかに殴られてんのよ」


「エイブリック、討ち漏らすなよ馬鹿野郎っ!」


「それはお前の担当だろうがっ」


「なんだとっ!」


キンキンキンキンっ


「まーた、始めおった。アイナ、残りやれ」


「ドワンがやればいいじゃない。たまにはファイアボール使いなさいよ」


「ったく、ぶつぶつ・・・」


ボンッ ボンッ ボンッ


「うわっち!ドワンてめぇなにしやがるっ!」


「さっさと避けんか馬鹿者」


「アーノルド、頭焦げてるわよ。きゃーはっはっはっ!」



≡≡≡≡≡≡≡≡


「とまぁ、こんな感じでな。毎日がお祭りみたいな生活だった。魔物から救われた住民達は喜ぶし、それで飯を食う。しかし、飢饉に襲われた町やすでに盗賊に襲われた村は救う事が出来ない。戦う能力だけでは国を救えないと段々悟っていったんだ」


「父上はそれからどうしたんですか?」


「俺は後継者争いから逃げたが、もう一度王になりたいと思った。個人の力だけでは限界がある。国として動かねばならんとな。その後、ミグルやグリムナがパーティーに加わってディノを倒した事により、後継者争いに復帰出来た訳だ。国を救った英雄としてな」


「そうだったんですね・・・」


「だから、俺は身内に隠れた敵が多い。一度逃げてるからな。もう一度失態があるなら継承争いから落とせる。なんとか失態させようと思っている奴がいるだろう」


「父上が失態など・・・」


「もうするつもりはないが、何が起こるかわからんからな。もし、俺以外の誰かが王になって国民が豊かに幸せになってくれるのならそれでも構わん。が、そう思えない奴らが王の座を狙っているから負けられんのだ」


「どうやって戦うのですか?」


「戦いとは剣や魔法だけではない。判断力、周りを巻き込む力、影響力とか色々ある。何を使ってもいい、より良い国にする為にはな。より良い国ってのも人によって受け取り方は様々だ。正解は一つじゃない」


「父上はゲイルの方が王に向いてるとお思いですか・・・?」


「そうだな。やつなら多くの国民が幸せに暮らせる道を作るだろう。すでにそういう動きをしているからな。やつが関わった所はみな生き生きとしているだろ?」


「はい・・・」


「だが、ゲイルが王になれば国が大きく変わる。というか変わりすぎる恐れがある。長らく続いて来た物がより良い方へと変わるのは良いことだが、たった数年で変わると必ずその反動が来る。すなわち争いがな」


「どういうことですか?」


「今の方が幸せだと思うものがいる。それは今権力や財力を持っているものたちだ。ゲイルの思想は平民寄りだ。必ず今の権力者たちと争いになる。それは国の一時的な弱体化を招く。そうなると他国はチャンスと捉えて攻め込んで来る事に繋がる。急激過ぎる変化は危険を伴うんだ」


・・・

・・・・

・・・・・


「それがゲイルに継承権を持たせなかった理由だ。まぁ、やつなら争いを起こさせずになんとかするかも知れんがな。今の所、変えるのでは無く、いつの間にか変わっていたとなるのが望ましい。西の街や、新しく与えた領がそのモデルになるだろう」


「・・・父上、自分はどうすればいいか解りません」


「なら探しに行け」


「え?」


「お前の冒険の目的は自分が何を為すのか、為さねばならんのかを見つける為のものだ。何事も良く見ろ。そして感じろ。その結果をどう生かすかはお前次第だ」


「冒険に行っていいのですか?」


「但し、条件がある。まず自分が王位継承権1位というのを忘れろ。王になれる力が無ければ無意味なものだと。次にミグルを頼れ、そして守れ。この2点を守れるなら冒険に行っても構わん。嫌なら王都で当初予定されていた実務見習いをやらせる」


「わかりましたっ。自分は冒険に出ます」


「覚悟が決まっているのならいい。ちゃんとゲイル達に追い付けよ」


こうして、アルとジョンは再び冒険に出る道を選んだのだった。


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