第420話 ゲイルの心

「では改めてワシを鑑定してみるが良い」


「なんでだよ?」


「変な事は言わんから早く見てみよ」


なんでそんなに鑑定させたがるんだ?と不思議に思うがまあ見るだけなら・・・


ミグル鑑定っと。


前見た時と変わらな・・・・


「あーーーーーっ!」


夜中だと言うのに大声を上げてしまったゲイル。


ぱっと灯りがついてバスローブを羽織ったアーノルドとアイナが駆け込んで来た。


「どうしたっ!」


「あれ?父さんと母さんがなんでここ・・・」


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!アーノルドきさまっ!見るなっ 見るなっ!」


真っ裸のミグルがアーノルド達に向かってお湯をバチャバチャかける


「うわっ、馬鹿やめろっ」


「ワシを覗きに来るとはこの変態め ぶつぶつ」


また赤く染まりだしたので土魔法の玉をゴンっとぶつけてやる。


ブッ きゅぅ~


もろに頭に土の玉が当たりその場で気絶するミグル。あられもない姿なのでアイナが慌ててバスタオルを持ってきて包んだ。


ミグルも俺が居たのに気付いたんならタオルくらい巻いて入って来いよな。


取りあえず俺も風呂から上がって皆を温風で乾かしてやる。


アイナはそのままミグルを部屋に連れて行き、俺とアーノルドは食堂に行った。


「父さん、仲が良いのはいいけど、うちならともかくここで一緒に風呂に入るのはどうかと思うよ」


アーノルドとアイナは気配を消して二人で女風呂に入ってやがったのだ。


「すまんすまん。あんな時間なら誰も来ないと思ってたんだ」


俺もそう思ってたんだけどね。


「で、何を叫んでたんだ?」


「俺とミグルの会話聞いてた?」


男湯と女湯は目隠しの壁が有るだけで完全に別というわけではない。会話は筒抜けだ。


「盗み聞きするつもりはなかったんだがな」


「まぁ、そういうわけでミグルもここに住まわせるよ」


「すまんな。俺たちもずいぶんとあいつに酷い事をしてたんだなと反省したよ」


「まぁ、母さんとの会話を聞いてたら仕方がなかったと思うよ。パーティー組んでた時はもっと若かったから感情も強く出るだろうし」


「そうだな。まぁあいつの相手はエイブリックがしてくれてたから助かってはいたが」


ミグルを運び終えたアイナも食堂へやって来た。


「面倒だから着替えさせてそのままにしておいたわ。タンコブが出来てたけど問題なさそうだったしね」


温泉を燃やされたら大変だと思わず強めの玉をぶち込んでしまったが、ミグルって丈夫だよな。そこはさすが元英雄メンバーだっただけの事はある。


「で、何を叫んでたのかしら?」


「あー、その。ミグルが俺に鑑定しろって言うから見たんだ」


「何が見えたの?」


・・・

・・・・

・・・・・


「ミグルの名前がさぁ、ミグル・ディノスレイヤになってたんだ」


えっ?


「どういうことだ?」


「わかんない。鑑定で見える名前の変更条件がわかんないんだよね」


「もしかしてゲイルの名前も変わってるの?」


「うん、いつの間にか、ゲイル・グローリア・ディノスレイヤになってた」


「グリムナの家名が付いてんのか?」


「そうみたい。エルフ達の前で俺が王族に入ると長老が宣言したからかなと思ってたんだけど・・・」


「ウエストランドでは準王家、ドワーフの国は家名が無いから付いてない可能性があるということか?」


「そうかもしれないね」


「シルフィードはどうなってるのかしら?」


「前に見たきりだから知らない」


「そうか。それならシルフィードを鑑定させてもらえ。それでなんかわかるんじゃないか?」


「シルフィードにディノスレイヤの家名が付いてたら、シルフィードが家族になったってことだよね?それならミグルもだ」


「そうだな」


「シルフィードに家名が付いてなかったらどうなると思う?」


「お前が嫁にミグルを選んだってことじゃねぇか?」


なんて恐ろしい事を言うのだアーノルド・・・


「ドワーフの国も家名があれば判別しやすかったんだけどね。仮にシルフィードにディノスレイヤが付いてなかったとするとどうなると思う?」


「さっき言った通り、お前がミグルを嫁さんに選んだってことだろ?」


「それはミグルが父さん達の義娘むすめって事になるんだよ? 俺はまたエルフの国に行くことも出て来る。エルフの長老の鑑定は凄くてね、鑑定されていることがわからない。だからこっそり鑑定することも出来るんだよ。そこでミグルだけが嫁さんになってたことがバレたらどうなると思う?」


「ミグルを連れて行かなければバレんだろ?」


「鑑定魔法は人によって見え方が違う可能性が高いんだ。長老には他にも見えてる可能性もある。バレると思っておいた方がいい」


「そうか、そりゃ不味いな。お前が中心になって組まれた同盟に影響が出るかもしれん」


「まぁ、それならそれで仕方がないんじゃない?ゲイルはミグルの事を気にいったんでしょ?」


アイナの言葉に心当たりがある。


俺の精神年齢を抜きにして、シルフィードとミグルの二人を女性として考えてみる。


シルフィードは綺麗な髪と瞳、白く透き通るような肌に細い手足。少し陰がありながらだんだんと多くなっていった笑顔。控えめな性格ながらも芯は強く心優しい。炊いてくれるご飯も美味しくてどこかホッとする。今は幼い容姿だが成長していくとパーフェクト美女になるだろう。ボロン村の女性達はみな綺麗だ。母親のナターシャもきっと美人だったに違いない。そこに美形なグリムナの血が入ってるから尚更だろう。そう、まさに完璧だ。完璧過ぎて現実とは思えない女の子なのだ。


それに俺の好みはアイナやミーシャみたいな可愛らしい顔立ちだ。ミケみたいな猫顔とかも可愛いと思ってしまうし、ギャーギャー言い合うやり取りも楽しい。


ミグルはあんなんだが、どこか中学生の時にものすごく好きだった女の子と見た目のイメージがダブる。少しタレ気味の大きな目をした子だったのだ。


あぁ、そうか。ミグルにイラっとしながらも受け入れてしまったのは中学生の時に刻まれた恋心を刺激されたからなのかもしれん。あんな感じだから気を使う必要もなく、素で接する事が出来るというのもある。


それに比べてシルフィードはなんかこう、守らなければいけないと思ってしまう存在だ。なるべく危険な目にも合わせたくない。どちらかと言えば大切にしまっておきたいのだ。


精神年齢や魂が身体の影響を受けるのは薄々感じている。アーノルドやアイナは元の自分より歳下だ。初めは父親や母親だとか思えなかったけど、だんだんそれを受け入れている自分がいる。それが正しいとするとこの身体が思春期を迎えたらまた女性に対してドキドキするのだろうか?今はまったくそんな事がないのだが・・・


「ゲイルっ、どうしたのゲイルっ!」


アイナにゆっさゆっさとされて現実に戻って来た。また考え事をしていてフリーズしてたようだ。


「あ、ごめん。ミグルが嫁さんって事を受け入れたら、ミグルにお義母かあさんって呼ばれるよ?」


「なんですってぇぇ?200歳以上歳上のババアにお義母さんなんて呼ばれたくないわよっ!ゲイル、ミグルはダメよ。ミーシャかシルフィードになさいっ!」


良かった。これでしばらくミグルと結婚がどうのこうのと言われることが無いだろう。なんかあったらアイナが猛烈に反対するだろうからな。


プリプリと怒るアイナをアーノルドがなだめながら部屋に戻ったのでお開きとなった。


しかし、シルフィードの名前がどうなってるか気になるな。昼間だとみんなもいるし、こそこそなんかやってると変に疑われるのも嫌だしな。ちょっと今からシルフィードの部屋をノックしてみて起きてきたら鑑定させてもらおう。起きて来なければまた後日だ。



コンコンっ


シーン


やっぱり寝てるか。こりゃ後日だな。


カチャ


「ゲイル様? どうしたんですか?こんな時間に?」


「あ、ごめん起こしちゃったかな?」


「いえ、なんか眠れなかったのとアイナ様の声が聞こえてきましたので」


そう言ってクスっと笑うシルフィード。やっぱり可愛いよな。


どうぞと言われたので部屋の中に入らせてもらう。



「ごめん、どうしても急いでシルフィードの事を鑑定みたくなってね。他の人がいると変に勘繰られるし」


「えっ?」


「あ、ほんの少しだけでいいんだ」


「え、あの・・・」


「ダメかな?」


「わ、わかりました。では・・・」


了承を得たので鑑定しようとすると、シルフィードは真っ赤になりながら、おずおずと服をたくしあげようとする。


「ち、違うっ!鑑定っ!鑑定させて欲しいのっ!」


やめろバカッそんなもじもじした赤い顔で服をたくしあげようとするなっ。


こっちまで真っ赤になってしまったじゃないか。夜中に少女の部屋にやって来て服脱いで見せろと命令するなんてどんな変態なんだよっ。


「ご、こめんなさいっ」


さらに真っ赤になるシルフィード。


「ゴホンっ えーでは鑑定するね」


【名前】シルフィード・グローリア

【種族】ハーフエルフ

【年齢】23歳

【魔力】6380/6380


あー、名前はやっぱりそのままか。魔力は伸びてるな。6500越えてたらもうハイエルフになるの確定だったんだけど、それはまた持ち越しだな。


シルフィードはもじもじしてるけど、鑑定される時はいつもそうなので気にしない。


「うん、魔力も伸びてたよ。あと少しでハイエルフになるかどうかわかるよ」


「あ、はいっ。それを確認されに来たんですか?」


こんな時間に魔力を確認しに来たとか無理があるな。覚悟を決めてちゃんと話しておくか。


「シルフィード、実は俺の名前にいつの間にかグローリアって家名が付いていたんだ」


「え?それって・・・」


「これはシルフィードと結婚したからじゃない。長老が皆の前でグローリア王国の王族とすると宣言したからだと思う。鑑定で名前が変わる条件がわからないからそれしか考えられないんだよ」


「そうなんですね」


「あと、ミグルの名前にディノスレイヤが付いた」


「えっ?」


「父さん達が言うには俺がミグルの事を受け入れたからじゃないかと言った」


「そ、そうなんですね・・・」


「でもな、俺はまだ子供だ。シルフィードの事を可愛いらしいとも思うし、守りたいとも思うし、好きだ。でもこれは恋心とかではないんだ」


「はい、知ってます。ゲイル様はミーシャちゃんやミケさんみたいな人が好きなんですよね・・・」


げに恐ろしいきは女の勘ナリ。


「ミーシャも好きだ。それも恋心ではない。どちらかと言うと親心みたいなもんなんだ。ミーシャも俺の事は父親みたいな感じで見ていると思う。ミケも可愛くて好きだ。でもこれも恋心ではない。単純にやり取りが楽しいだけだ」


「ミグルさんは違うんですね」


中学生の時の恋心を刺激されたとか説明出来んからな・・・


「ミグルの事はよくわからないんだ。ただ、過去の事を聞いてグッと来てしまったのは認める。もしかしたら同情もあるかもしれん」


「わかりました・・・」


消え入りそうなシルフィードの声。

うぅ、心が痛い。


「ゲイル様」


「はい・・・」


「ミグルさんと正式に結婚するまででもいいから、私が一緒にいると迷惑?」


涙をはらんだ上目遣いで健気な事を言うシルフィード・・・


キュン


俺の心が締め付けられドキドキする。


ピコンっ


【名前】シルフィード・グローリア・ディノスレイヤ



あ、鑑定しっぱなしだった。完璧美少女をゲーム画面で見ているような感じで違和感が無かったから気付かなかった。


今、俺がキュンとした時にシルフィードにディノスレイヤの家名が付いたのだ。なんだこれ?


「あの・・・・シルフィード」


「ダメですか?」


「いや、今シルフィードにもディノスレイヤの家名が付いた。今はシルフィード・グローリア・ディノスレイヤになってる」


俺がそういうとパアッと明るくなった。


「じゃあ私も・・・」


「そういうことかもしれん」


「はいっ!ありがとうございます」


その後少し話をして部屋に戻った。



なんか色々と悩んだのが一気にアホらしくなった。


あぁ、そうだった。この世界はめぐみが作ったゲームのような世界。これはきっとイベントだったのだろう。


俺は両方選ぶというルートを選んだのだ。おそらく選択肢は4つ


1:どちらも選ばない

2:シルフィードを選ぶ

3:ミグルを選ぶ

4:両方選ぶ


本当に3で宜しいですか? と最終確認ボタンを押す前に確認されて4を押した。そんな感じだな。


しかし、女性を選ぶルート選択が早くないか?普通もっとストーリーが進んで20歳くらいで来るものだろう?まさかめぐみのやつなんかやってんじゃないだろうな?


ぶつぶつ言いながらイベントが進んだことで何か変わった事がないか自分のステータスを確認する。


魔力は7000のままだし、特に変わったことは・・・


「あーーーーっ!」


称号に変態ロリ王、ハーフエルフマニア、ケモミミ好き、マザコンが追加されてるっ。


変態ロリ王ってなんだよっ。二人共俺より歳上じゃねーか。まさかこの称号得る為の選択ルートだったんじゃないだろうな?


「おいっ!めぐみっ!出てこいっ!説教してやるっ」


夜更け過ぎに俺は一人でふがーーっと怒っていたのだった。



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