第419話 選択
「しかし、スキルか。誰にでもあるのか?」
「スキルについてはよく知らない。俺には付いてないからね」
「お前でも知らないことあるんだな」
ミグルは自分のスキルについて話した。
「あんたとしゃべってるとなんか腹立つのはそのせいなのね」
「それと垂れ乳女が怒りっぽいせいじ・・・」
ゴンっ
「そんな口を利くなって言っただろ」
「す、すまん」
「ミグルはツルペタがコンプレックスなんだよ。あ、コンプレックスというのは劣等感とかのことね。だから母さんの豊かな胸が羨ましくてこんな風にしか言えないんだよ」
「まぁ、ゲイル。豊かな胸だなんてみんなの前で恥ずかしいわっ」
といつつアイナはニコニコ顔だ。ミグルの家で垂れ乳と言われて俺が作った強化したトンファー握り潰したらしいからな。どんな握力してんだよ。コングより上なんじゃねーか?
いでででででで
「また余計な事を考えてたでしょっ」
ほっぺたが無くなるかと思った。ほっぺが落ちるのは旨い物を食べた時だけにして欲しい。
「皆様、お食事はいかがなさいますか?皆様お部屋でお待ちになられております」
「あ、ごめん。先に食べよう」
屋敷の皆は俺たちが食堂で話し込んでいるので気を使って部屋で待機してたのだ。執事のカンリムに言われるまで気が付かなかった。
他の使用人達がそれぞれの部屋に呼びに行き、アーノルドがミグルを紹介した。
これで英雄メンバーすべてにお会い出来たんですねと衛兵団長のホーリックは感激していた。
晩御飯はグラタンだ。
「うほーーーっ、なんじゃこの飯はっ!こんな旨いもの初めて食べたぞ」
「うむ、ゲイルが作る飯も教えられた者が作る飯も旨いな」
グリムナも同意するがダンは酒に合う物が食いたいらしく、ピリ辛唐揚げをリクエストしていた。
「ところでミグルは日頃どこで飯食ってたんだ?あんな臭い家で飯なんか食えんだろ?」
ミグルの家は相当臭かったらしく、ミグルからも腐った卵みたいな臭いがしていたらしい。
「うむ、あそこの街には親切な奴らがおってな。ただで飯を配りよるんじゃ。それを食っておったぞ」
それ、孤児達への配給じゃねーのか?まぁ、汚ならしいチビなら孤児に間違われても仕方がないか。
「ここでは毎日こんな旨い飯が食えるのか?」
「そうだよ」
「よし、ワシもここに住んでやろう」
「無理」
即答するゲイル。
「な、なぜじゃっ」
「自分の家があるだろうが」
「あれは別宅として使うからいいのじゃ。それに嫁が一緒に住むのは当然じゃろ?」
「まだ言ってんのか?誰もお前を嫁にした覚えはない。ってか、俺まだ子供だぞ。お前は200歳越えてんだろが。年相応の相手を見付けろ」
「そこは問題ない。間も無くハイエルフになるワシからしたら200歳なんて年頃じゃ」
「魔力の伸びが止まったからハイエルフになるのは無理だって言っただろ?忘れたのか?せいぜい後100年くらいで寿命だろ?」
「はっ!そうじゃった。ワシの魔力はもう・・・・。寿命もあと100年ほどで・・・、おっ、それならばちょうど良いではないか。ゲイルと同じ頃に逝けるぞい」
「ミグル、ゲイルはすでにシルフィードと婚約をしている。諦めろっ」
グリムナはまだ周りを固めるつもりか。今はありがたい援護だが。
「何っ?グリムナの娘と?むむむむ。グリムナ、お前のフルネームはなんじゃった?」
「グリムナ・グローリアだ」
「ゲイルにグロー・・・」
ビシッ
あうっ
「痛いっ!なにするのじゃ」
「余計な事を言うなと言っただろ」
土魔法の玉を飛ばしてデコにぶつけてやった。
「あぁ、すまん。しかし、アーノルドは貴族になったんじゃったな?」
「そうだぞ」
「と言うことはゲイルも貴族で間違いないな?」
「ゲイルはすでに自分の身分も手にいれているからな。俺よりも身分が上だ」
「それならば嫁が二人居ても問題なかろう。シルフィードとやらもワシより少し劣るが美形じゃしの。両手に華というより両手にハーフエルフじゃ。世の秘宝を二つも手に入れるとは果報者じゃの」
「何が秘宝だ。お前くそ扱いされてたじゃねーかっ」
「誰がくそじゃっ!それにゲイルはワシのこと、か、可愛いと言ったではないか」
ここでポッと照れて下を向くミグル。なに俺がレクチャーしたことをここで実演してんだよっ。
「坊主、お前ミグルの事を可愛いと言ったのか?」
「ちょ、ちょっとだよ、少しだけって言っただけだっ」
「本当に言うたのか? とんだ変態じゃの」
誰が変態だっ。
「ゲイル、シルフィードにはそのような事を言った事があるのか?」
「いや、無いけど・・・」
「なぜ言ってやらん?ミグルに言えてシルフィードには言えない理由は無いだろう?」
グリムナはシルフィードの事になるとぐいぐい来るな。
「・・・はい、シルフィードさんはとても可愛いです」
なぜこっぱずかしい事を人前で言わされにゃならんのだ。
「うむ、ミグルよ、お前は少し可愛い。シルフィードはとても可愛いだ。この違いはわかるな?」
「ゲイル、どっちが可愛いのだ?」
おい、シルフィードも二人してうるうるした目で俺を見るんじゃないよっ
ミーシャは知らん顔してダンが頼んだ唐揚げを食ってやがるし、そのダンも我関せずだ。ジョンとアルは興味津々だし、ドワンは坊主が変態じゃったとはとかぶつぶつ言っている。
アーノルドとアイナは呆れ顔だ。
あ、他の奴らはぞろぞろと部屋に戻っていきやがった。
その時にホーリックがつかつかと近付いてきた。さすが衛兵団長だ。この場の治安を守ってくれるのか
「ホーリック・・・」
「ほな、おきばりやす」
なんで京都弁なんだよっ
それだけ言い残してホーリックも部屋に戻ってしまった。俺ピーーーンチっ
誰も助けてくれないし、シルフィードもミグルも泣きそうな目をしている。
グリムナから早く選べと冷気が漂い出している。
「か、考えさせてくれっ」
俺は逃げた。一番やっちゃいけない選択をしてしまったのだ・・・
「フンッ、下らん答えだ」
そんなの解ってるわっ。
その後逃げるように部屋に戻りよく考えてみる。なんでこんな子供に結婚、結婚って言うんだよ。誰とも結婚なんてするつもりは無いっての。
しかし、グリムナが前に言っていた、過去の記憶があってもお前はゲイルだと言われたのはその通りかもしれん。元の世界に戻る事も無いだろうし、もしこの世界で死んだ後に魂が元の世界に戻ったとしても記憶はリセットされてるだろう。仮に地球の神様が記憶を消し忘れたとしても、元の時間とは違うだろうから元通りの生活になるわけじゃない。時間軸がズレたとしても元の俺がいるわけだし、事故で死んだわけでもないから元通りになる事は100%無い。
はぁ、なんでこんな子供の身体で女のことで悩まにゃならんのだ・・・
二股かけてバレたわけでもあるまいし。
昔ドワンに言われた生き急ぐなって言われた言葉が身に沁みる。ずっと魔法を使える事を黙って子供のフリをしてたらこんな事にならなかったのかな?
まぁ、今さらタラレバの話をしても仕方がないか・・・・
答えの無い考え事をずっとしてたら急に冷え込んで来た。
もう考えるのやめて風呂入って寝よ。冒険に出る前にやることが山ほどあるからな。
しかし、ミグルの背景を考えると何かムゲにしてやるのも可哀想な気がする。あの調子だと人に優しくされたこと無かったのだろうから。ギャーギャー言いながらも植物魔法を教えてもらったり飴玉貰ったりしたとか嬉しかったのかもしれん。パーティーメンバーだったアーノルド達でさえ酷い扱いだったからな。
いかんいかん。考えるのはもうやめよう。
部屋を出ると皆寝静まったのかとても静かだ。
音を立てないように気配を消しながら自慢の温泉に向かった。
おー寒い寒い。
身体を流してから風呂に浸かる。
あーーーー、暖まる。灯りを点けないで浸かる温泉。さっきまでコチコチになった心までほぐれていくようだ。
誰も俺を助けてくれなかったが温泉は俺を優しく包んでくれる。風呂よ、お前だけが俺の味方だ。
つい温泉の気持ち良さにうとうとした瞬間に誰か入ってきた。
暗くてわからないがうっすらと気配を感じる。
「わっ!誰かおるのかっ!まさかワシを待ち伏しておったのかっ」
なんだミグルか。
「女湯は向こうだ。執事か誰か説明しただろ?早く向こうに行け。俺はもう出るから」
真っ暗で良かった。何も見えてないから問題無い。
「その気配と声はゲイルだな?」
「そうだ。だから早くあっちに行け」
ちゃぽん。
げっ、入って来やがった。
「女湯に行けと言っただろ?なんで入って来るんだよっ」
「何も見えてはおらんから問題は無い。それにワシらはもう夫婦じゃ。問題なかろう」
「は? 何言ってんだお前。誰と誰が夫婦なんだよっ」
「フフン、知りたいか?」
「は?」
「ワシを鑑定してみよ」
言われた通りに鑑定してみる
「キャッ」
「なんだよ?」
「く、暗闇でもエッチな目で見られると恥ずかしいものじゃの。そうマジマジと見るもんでない。こういうのはもっとこう心の準備というものがじゃな・・・」
「そんな目で見てないっ。俺が異性を鑑定したらそう感じるだけだ。母さんですら同じ事を言ってたからな。勘違いすんなっ」
「そうなのか?ワシのは男女関係なく嫌な感じがすると言われたぞ」
確かにそうだったな。
またなんか言われたら嫌なので鑑定するのをやめる。
「ほら、早く見ぬか」
「もういい。ミグルが誰と夫婦になろうと俺には関係無い」
「なぜ、そんな事を言うのじゃ・・・」
「俺はまだ結婚を考えるような歳じゃないし、そもそも結婚するつもりはない」
「シルフィードとは婚約しておるのじゃろ?」
「グリムナさんがそう言ってるだけだ」
「シルフィードとやらはその気ではないのか?」
「それはそうかもしれんが、ハーフエルフにとっちゃ20歳そこそこなんてまだ子供だろ?そのうちお似合いの人が出て来るさ」
「それはそうかもしれんがの・・・。結婚の事を抜きにしてワシがお前のそばに居ると迷惑か?」
「なんで俺にそんなにこだわるんだよ。エイブリックさんの事が好きだったんじゃないのかよ?」
「あぁ、好きだったのかもしれん。というかエイブリックが一番ワシにかまってくれたのじゃ。憎まれ口じゃったがな」
「父さん達は?」
「アーノルドはいつもアイナとしゃべっておった。ドワンはワシとはほとんど口を利かん。話していると手が出そうじゃとか抜かしてな。グリムナは最後にパーティーに入って来たがほとんど誰ともしゃべらんかった。ここで久しぶりに会ってこんなにしゃべるやつなのかと驚いたぐらいじゃ」
なんか状況が目に浮かぶな。
「お前は初めて会ったワシに優しくしてくれた。口調はキツかったが言葉にトゲは無かったんじゃ。ワシは嬉しかった。こんな事初めてじゃったからの。初めはトゲが無かった者でもワシとしゃべっているとどんどん言葉にトゲが増えていく・・・」
「あの調子じゃそうだろうな」
「も、もう・・・一人でいるのが・・嫌なんじゃ・・・」
もう一人で居るのは嫌とグスグスと泣き出すミグル。
あー、もう。そんな事言われたら断れないじゃんかっ。
「分かったよ。この屋敷に住めばいいだろっ。その代わり俺がやってる仕事を手伝えよ」
「いいのか?」
「仕事を手伝うのが条件だ」
「うむ、存分にワシを頼るがよい」
もー、仕方がねぇなぁ。
ー隣の女湯ー
(一人は嫌か。ミグルは本当は寂しかったのね)
(あぁ、俺たちもミグルに辛く当たってたんだな。仲間だったというのに)
(でもさすがゲイルね。私達があんなにムカついていたミグルをあっさりと素直にさせるなんて)
(そうだな。ミグルは悪い奴ではないからな。ゲイルはそういうのをすぐに見抜くのかもしれんな)
(ゲイルはどっちを選ぶと思う?)
(どっちも選べんか、どっちも選ぶかじゃねーか)
(そうなったらエルフの血を引く孫がたくさん出来るかもよ)
(それは楽しみだな。魔法がバンバン発達して俺達の知らない世界になりそうだ)
(そうね。知らない世界か。楽しみね)
(あぁ、楽しみだ)
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