第375話 いざ出発

「ぼっちゃん、こいつらもディノスレイヤ領に連れて行くのか?」


「エルフの里探しの間預かってもらおうと思ってね。訓練してあるけど、定期的に魔力流す必要あるってジャックが言ってたろ?」


「そういやテイムはテイム印が消えないように魔力を流してやらんとダメだとか言ってたな」


「そう、コボルトはそんなに強い魔獣じゃないからどれくらいの頻度で魔力流さないとダメかわからないんだよね。俺のはテイム印も出ないし。テイムが解けて只の魔獣に戻って屋敷のメイドや西の街の住人を襲うような事になったら大変だからね。そうならないようにテイムがなくても大丈夫なように訓練をしたつもりだけど、どうなるか想像つかないんだよ」


「ディノスレイヤ領なら対応出来るってことか」


「そういうこと。只の魔獣に戻るようなら討伐してもらわないといけないから・・・」


こいつらをそんな目にあわせたくは無いけどね・・・ クフンクフンと甘えるコボルト達を撫でながら討伐対象にならないことを強く願う。


「どうやって連れてくんだ?」


「シルバーの後を付いて来させるよ。だいぶ体力も付いたし、途中でバテるようなら休憩しながらでもいいし」


「そうだな。じゃあ明日の朝に出発だ」



翌朝、コボルト達を連れてディノスレイヤ領に戻った。途中で1泊してのんびりと戻ったがコボルト達は元気いっぱいだった。



「ぼっちゃん、コボルトとはいえ一度に6匹もテイムしたのか?」


ディノスレイヤの屋敷で馬の管理をしている元冒険者でテイマーのジャックにコボルト達を紹介する。


「コボルトの巣を殲滅した時にこいつらが居てね、試しにテイムしてみたんだよ。もうすぐしたら冒険に出るからその間ジャックに世話を頼みたいんだ」


「そりゃ良いけどよ、冒険に連れていくのにテイムしたんじゃないのか?」


「いや、牛とか羊を誘導するのにテイムしたんだよ」


ジャックに牧羊犬の説明をする。


「へぇ、コボルト達が出来るようになったら楽だな」


「そうだろ?だから頼んだよ」


「へいへい。しかし、テイムが解けて只の魔獣になったらどうすんだ?」


「危険そうなら討伐してくれ」


「いいのか?」


「仕方がないだろ。そうならないように訓練したつもりだけどどうなるか分からないからね。念の為これを渡しておくから、時々飲み水に1滴落として飲ませてくれる?」


ジャックに魔法水の入った壺を渡す


「これに俺の魔力を込めてあるから魔力を流す代わりになるかもしれないんだ」


言うことを聞かなくなりそうなら飲ませて貰おう。


ジャックに一通り説明した後、ギルドにディノスレイヤ領での許可を貰いに行く。



コボルト達を連れていくといつにもましてざわつく冒険者ギルド。


「魔獣の登録したいんだけど」


受付でそう言うと手続きをしてくれた。その後にギルマスの部屋に通される。



「坊主、お前王都で冒険者登録したんだってな。それとそのコボルトどもがテイムした魔獣か」


王都ギルドから連絡が行ってたようだ。


「そうだよ。ちょっとこいつらにも働いてもらおうと思ってね」


ここでも牧羊犬の説明をする。


「そいつぁ見物だな。魔獣がそういう使い方出来るなら引退したテイマーの新しい職が出来るってもんだ。ぜひ成功させてくれ」


ギルドは引退する冒険者に職の斡旋もしているらしく、引退後の職種が増える事を喜んでくれた。



その後、小屋で蒸留酒作りを数日かけて行いコボルト達をジャックに預けて王都に戻った。


王都に戻ってから壁に新しい門を作り、元盗賊達に門番をしてもらうことになり、豚小屋の周りには椎の木を植えて秋には椎の実を豚の餌にするようにもしておいた。裏通りも解体工事が始まっており、帰って来る頃には大きく様変わりしているだろう。



今日は冒険に出る挨拶をエイブリック邸にしに来ていた。


「そうか、もう出るんだな」


「ディノスレイヤ領に戻ってから出発するよ。明日の朝には出るから」


「ゲイルよ、いつに戻って来るのじゃ?」


「今年中には戻ってきたいけど、見つからなかったらもう少しかかるかなぁ。まぁ、1年を目処にしてるよ」


「そうか、その間寂しいのう」


「まぁ、あっという間だと思うよ。ほら歳取ると日が過ぎるの早いって言うし」


まったく人を年寄扱いしおってと言うドン爺は本当に寂しそうだった。


「ゲイルよ、旅に出るのにワシらからの餞別じゃ」


ドン爺はそう言ってやや大きめのウエストポーチを差し出して来た。


「これは何?」


「空間拡張魔法が施された魔道具じゃ」


続いてエイブリックが使い方を説明してくれる。


「最大で大型の荷馬車1台分ぐらいは入る国宝級の物だ」


「えっ?そんな物貰っていいの?」


「構わん。こいつは魔石の消費が激しくてな。魔力が切れたら中の荷物が消滅する恐れがある。しかしお前ならとくに問題なく使えるだろ」


100の魔石で1週間くらいしか持たないらしい。魔石が2個セット出来るようになっており、両方とも魔力が無くなれば中の荷物が消滅するため、万が一の事を考えると大事な物は入れられず、奪われる可能性を考えると護衛が何人も必要になるため通常の輸送にも使いにくい代物らしい。


「本当にいいの?」


「構わん。お前に貰った治癒の腕輪の方が貴重だからな。遠慮せずに使え」


これは嬉しい。念のため時間停止能力があるか聞いてみたがそんなものあるかと言われる。


「ありがとう。ドン爺、エイブリックさん。冒険に出るのにこんなに嬉しい餞別はないよ」


「そうかそうか。そんなに喜んでくれるなら宝物庫から持って来た甲斐があったわい」


え?


「こ、これ宝物庫のお宝なの?」


「そうじゃぞ」


「いいの?勝手にそんなの持ち出して」


「勝手にとは人聞きの悪い。ちゃんと手続きは済んでおるから安心するが良い」


エイブリックをチラッと見るとニヤリと笑っていたのでなんかやったのだろう。俺、知らないからね。


「本当に問題ないならありがたく頂いて行くけど・・・」


大丈夫じゃと言われた後に元パーティーメンバーのエルフ、グリムナ宛の手紙も預かった。


「では、かならず無事に帰ってくるのじゃぞ」


「ありがとう。ドン爺、エイブリックさん」



翌日、またディノスレイヤ領に戻り、アーノルド達に王家から魔道具のバッグを貰った事を報告して、食料や各種野菜の種、砂糖やスパイス、調味料と調理道具、着替、寝具、スプリングマット、お土産の蒸留酒等をせっせと魔道具のバッグに詰め込んでいった。


肉類等の生物なまものは大型クーラーに保存魔法をかけて入れておく。これで時間停止効果が無くても大丈夫だ。



準備が整い、シルバー達とコボルト達にもしばしのお別れをする。


「かならず戻って来るからいい子にしてるんだぞ」


エルフの里探しは森の中に入ることになるのでシルバー達は連れていけない。なんども付いて来たがるシルバーを必死に説得した。泣くなよシルバー・・・


コボルト達はあまり意味がわかってないのかしっぽを振って見送りをしてくれる。



「ゲイル、ちゃんと帰って来なさい」


アイナにもギューっと抱きしめられる。


「父さん、ミーシャは王都の屋敷に戻るからドン爺とエイブリックさんにお礼がてら連れてってね」


「おぅ、わかった。ダン、ゲイルとシルフィードを頼むぞ」


「あぁ、分かってる」


「ぼっちゃま、どうかご無事で」


ミーシャはグスグスしながらギューと俺を抱きしめた。


「大丈夫、ちゃんと帰って来るよ」


俺もミーシャをギューとして背中をポンポンした。


「ほれ、坊主そろそろ行くぞ」


ボロン村経由でエルフの里探しに行くのでドワンが馬車で村まで送ってくれる事になっている。他のドワーフ達やミケも見送りに来てくれた。


「じゃあ、行って来るねー!」


いってらっしゃーい


俺達は大勢の人達に見送られながら出発したのだった。


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