第319話 あ、バカっ
朝から仕入れだ。ロドリゲス商会がラー油を取りに来るから早くしないと。
「おっちゃん、唐辛子とネギとにんにくと・・・」
「そんなに買うのか?もう新メニュー出すとか?」
「いや、知り合いの商会がラー油を卸してくれっていうもんでね。急いで作らないとダメなんだよ」
「あの餃子のタレに使ってたやつか。あれ市販するのか?」
「まだわかんない。もしかしたら制限かけられるかもしれないからね」
「制限?」
「ちょっと約束事が多くてさ。その代わり高く買ってくれるからいいんだけど」
「へぇ、ぼっちゃんは商売上手だな」
「そう言うこと。新メニューは思ってたより早く出せるかもしれないから決まったらまた知らせに来るよ」
これで材料足りると思うけど、油も買っておくか。
「おっちゃん、エール5樽と赤ワイン2樽、菜種油小樽とごま油小樽で頂戴」
「エールは昨日運んだばかりだろ?」
「昨日5樽なくなったんだよ。今日もそれくらい出るかもしれないから念のためね」
「はーーっ!そんなに売れてんのか?」
「みんな良く飲むよね」
「まぁ食堂で飲むにしちゃ安いしな」
え?
「1杯銅貨5枚って相場じゃないの?」
「ぼっちゃんとこ中瓶くらい入れてるだろ?他の所はもっと量が少ないからな。2/3くらいだぞ」
おおぅ・・・ミステイク!
王都の1杯は300~350mlくらいだったのか。自分で飲んでないから気づかなかったよ今さら変更出来ないから仕方がない。
油の小樽は持って帰り、大樽は配達を頼んだ。
「おっちゃん、ここってさ牛の内臓とか筋とかどうしてる?」
「あんなもん全部捨ててるぞ」
「鶏の心臓とか肝とかしっぽの付け根とか軟骨とかは?」
「骨と一緒に捨ててるな」
もったいない・・・
「鶏の捨ててる所も売って。あと時々牛の腸とスジ肉。羊の腸とかもある?」
「なんでぇ、変なもんばっかり欲しがりやがるな。もしかして食うのか?」
「上手く処理して手間隙かけて調理したら旨いんだよ。今度試しに作って持ってくるよ」
そんなもん食いたかねぇと言われた。
「おっちゃんところでさぁ、煙出ても大丈夫な場所ってある?」
「あぁ、家の庭なら問題ねぇぞ」
「なら新商品売るつもりはある?」
「俺にもなんかやらせるつもりか?」
「いま十分に儲かってるならいいけど、めちゃくちゃ売上が上がると思うんだぁ」
「どんなのだ?」
「本当はね、そのレシピ売ってるんだけど、それ作って小熊亭にそれを安く卸してくれるならこっそり教えてもいいかな」
「上手い話にはなんかあるからな・・・」
「じゃまた気が向いたら言ってみて」
「おう、そうするわ」
「ぼっちゃん、ミートの所と同じ事をさせるつもりか?」
「小熊亭でやると人手がね。宿屋やるならベーコンとソーセージはあった方がいいだろ?あとハムとか」
「そりゃそうだけどよ、やり過ぎじゃねーか?」
「そうかもしれないね。でもさ、今度王都に来たときに小熊亭無くなってたら嫌じゃん。ベントも気が許せる場所があった方がいいし」
「それが目的か?」
「まぁ、そうだね。あと2年間友達もいなくてサラとしかしゃべらない生活ってどう思う?」
・・・・
「将来どうなるかわかんないけど、俺はよくないと思うんだよ。あいつの才能って魔法じゃなしに集中力だと思うんだよね」
「確かに最近、仕込みとか焼き鳥焼いてる時とかこっちが声かけても聞こえてねぇからな」
「それもずっとだろ?あれ凄いと思うんだよね。デザインセンスと物を作るセンスがあれば職人向きなんだよ」
「そうかもしんねぇな」
「今は焼き鳥とかそういうのに集中してるけど、間違った方向に行くと危険なんだよ。集中力が高いってことは周りが見えなくなることでもあるからね」
「なんでも良く見てんな」
「よくベントと話すようになって分かって来たんだけどね、それまではハッキリ言って嫌いだったよ。なんか見てたらイラ付くやつだったから」
「そうだな、昨日も俺と風呂に入るって言った時は驚いたぜ」
「一緒にいる時間が増えてダンの凄さとか分かって来たんだよ」
「はんっ、おだてても何も出ねぇぞ」
宿に戻って昨日書いた手紙にもう一枚足す。俺のレシピ一式とパンのレシピを送って欲しいこと。それとその売値を教えてと。
さ、ラー油を作ろう。途中まで作って仕上げは外で。
シュワワワワッ
壺に油だけ均等になるように入れて、最後に沈んだ唐辛子達を分けて入れる。運搬中にこぼれないようにスクリュー式の蓋にしておいてやろう。
「ぼっちゃん、昼飯に唐揚げ作ってくれ」
ダンのリクエストが入ったので唐揚げを作っていく。大量だけど食うだろ。
揚げ上がった頃にロドリゲス商会が来たのでラー油と手紙を渡して、エールの空き瓶を引き取って貰う。
「唐揚げ食べてく?」
「はいっ!」
「ダン、マヨネーズとラー油を混ぜて唐揚げに付けてみ」
何も疑わずに試すダン。
「ぼっちゃん、エール飲むぞ」
ほどほどにしてくれよ。
ジロンもロドリゲス商会の従業員もラー油マヨ唐揚げを試す。
「エール飲みたかったら飲んでいいよ」
ジロンは飲んだが従業員は血の涙を流して我慢した。仕事中に飲むと大番頭に怒られるのだろう。
「この前来てくれたのにエール売り切れだったんだって?悪かったね。明日食堂休みにしたから大番頭さんと晩御飯食べに来なよ。他に客いないからゆっくり食べられるよ」
「い、いいんですかっ?」
「いいよ。商売じゃないからお金もいらないし。何か食べたいものある?」
「ゲイル様が作られるものならなんでもいいですっ!あ、この前の餃子も食べたいです」
「わかった。じゃ準備しておくよ。あ、ヒッコリーチップって在庫ある?」
「確かあったと思います。明日来る時にお持ちしますね。これ、ラー油の代金預かって来てます」
あ、バカっ・・・
<金貨っ!?>
「あ、確かに・・・」
差し出された受領書にサインをしてお土産の唐揚げを渡した。
「ゲイル、ラー油の代金ってなんだ?」
「ロドリゲス商会が卸してくれっていうから売ったんだよ」
「いくらで?」
「1壺銀貨10枚・・・」
「それが10壺で金貨1枚か・・・。あれ作ったのさっきだよな?」
「そうだよ・・・」
「一昨日と昨日あれだけ頑張ってもゲイルの少しの時間にまるで敵わないんだな」
「おいおいおい、あれが金貨1枚になるのか?」
「俺もビックリしたんだよね。言っとくけど俺が売値を決めたわけじゃないからね」
「確かに旨いタレだが・・・、このマヨネーズってのもそうなのか?」
「そうだね、レシピをいくらで売ってるかは知らないけど権利は持ってるよ」
「って事は焼き鳥のタレも?」
「あれまだ登録してなかったから手紙で登録のお願いしておいた。権利はベントにしてあるからな。売れたらぶちょー商会で管理してくれるように書いておいたよ」
「俺の権利?ほとんどお前が考えただろ?」
「何言ってんの、一緒にレシピ作ったじゃないか」
「いいのか?」
「お前が良いと思ったレシピだからな。権利はベントのだ。ただ売り先が無いと売れないからな。あと王都じゃまだ味噌を一般販売をしてないからレシピ買っても作れないけど」
「味噌もぼっちゃんの権利なのか?」
「あれはうちの領にあるボロン村って所の特産品でね、村の現金収入になるように使い方を色々考えてるんだよ。あと2~3年で量産体制も整うだろうし、その時に王都で需要が増えてたら一般流通するんじゃないかな」
「ぼっちゃんって何者なんだ?」
「いいとこのボンボンだよ」
・・・・
・・・・
「さっきの商人の使いがゲイル様って呼んでたよな?」
「ロドリゲス商会って所なんだけどね、ディノスレイヤ領で懇意にしてるんだよ。王都に支店だすきっかけを作ったから俺の事を良く知ってるんだよ」
「そのロドリゲス商会ってのはどこにあるんだ?」
「貴族街・・・」
「貴族街っ?なんで貴族街の商会がこんなところにまで来てくれるんだ?」
「仲良しだから・・・かな? だからラー油も貴族向けに売るから高くてもいいんだよ」
「何がなんだかさっぱりわからねぇ・・・」
頭が混乱するジロン。
「まぁ、俺は俺だよ。お客さんでもぼっちゃんでもゲイルでもなんでもいいよ。それよりそろそろ準備しよう。また今日も忙しいよ」
「お、おおぅ」
人員配置も昨日の通りだ。さて頑張りますかね。
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