第28話熊、やるじゃん
執務室でアーノルドとアイナが真剣な顔をして話し合っている。
「今日、治療院でゲイルに治癒魔法を使わせてみたの」
「もうやらせてみたのか?」
「ちょっと気になる事があってね、確認も含めて女の子の擦り傷に治癒魔法をかけてみてって言ったのよ」
「まさか、治癒魔法が出来たのか?」
「そのまさかよ。女の子の傷を治したわ」
「凄いじゃないか!昨日初めて治癒魔法を見せたんだろ?」
「えぇ、見事に治癒魔法を使ったわ・・・・・ それも無詠唱でね」
「ど、どういうことだ?」
「言葉通りよ。女の子の傷口にヒールっと言うだけで治したの」
「そ、それはみんなの前でか・・・?」
「そうよ。みんなの前で」
「それはまずいな・・・」
「ええ、みんなには誰にもしゃべるなとは言っておいたけど、いつ誰かに漏れてもおかしくないの」
「アイナにしてはうかつだったな」
「ごめんなさい。ミーシャの怪我をゲイルが治したみたいだったから、治癒魔法を使えるんじゃないかと思ってたけど、まさか無詠唱で出来るとは思わなかったのよ・・・」
「あぁ、確かに今聞いても信じられん・・・。アイナを責めるのは間違いだな。スマン」
コンコンっ
「ダンです。ただいま参りました」
「入ってくれ」
「失礼しやす」
「スマンなこんな時間に」
「いえ、重要なことですから問題ありやせん」
「そういって貰えると助かる。早速だが、ゲイルの今後について相談なんだが・・・」
「旦那様、その前に報告したいことがありやす」
「なんだ?そんなに重要なことか?」
「へい、ぼっちゃんのことで」
「分かった。先に聞こう」
「ありがとうごぜいやす。驚かずに聞いてくだせい。実は・・・」
「実は・・・?」
ダンは少し間を取り、一呼吸おいた。
「ぼっちゃんはすでに普通に話せやす。まるで大人の様に。こちらの言った事も全て分かっておいでやす」
「何っ? どういうことだ?」
「言葉通りでやす。あっしやミーシャとはすでに普通に会話しておりやす」
「い、い、いつからなの?」
「いつから話せたかはハッキリとはわかりやせんが、あっしとミーシャと3人で出掛けた時に知りやした」
「そ、そうなのか・・・」
「なんで今まで教えてくれなかったのっ? 先にミーシャやダンが知ってるなんて・・・」
「すいやせん、ぼっちゃんが旦那様と奥様に自分がすでに話せる事を知られたら気味悪がられるんじゃないかと心を痛めておいでやしたので」
「そうか・・・、やっぱりゲイルは既に話せたのか・・・」
「それと、まだ他にも・・・」
「他にもあるのかっ?」
「へい、ぼっちゃんがすでに話せる事と魔法が使える事に関係しやす」
「なんだ?早く言えっ!」
「ぼっちゃんは生後半年の頃、神様よりお告げを受けたそうなんです」
「神様からのお告げ?」
「あっしも聞いた時に腰を抜かしそうになりやしたが、既に大人のように話せる事や魔法を使えることを思うと本当のことではないかと・・・」
「それで、どんなお告げだったんだ?」
「すっごい魔法の才能があるから世の中に役立てなさいと・・・言われたそうでやす」
「すっごい魔法の才能・・・」
それを聞いて考え込むアイナ。
「旦那様、奥様、隠してたことを叱らないでやって下せい、それとミーシャも。お二人を驚かせたくなかっただけで3歳になったら話すおつもりだったようで・・・」
「ミーシャはいつ頃から知ってたのかしら?」
「詳しくは知りやせんが、あっしより早くに知ってはおりやした」
「そう・・・」
「えぇ、初めて3人で出掛けた時にミーシャとぼっちゃんが本当の家族に見えたくらい仲が良かったですし」
「本当の家族・・・ ゲイルが生まれてから一番長く一緒にいるのがミーシャですものね。少しヤキモチ焼いてしまうわ」
「ミーシャもおかしな事を言っておりやしたけど」
「おかしなこと?」
「へい、親子に見えるって言ったら、俺にもぼっちゃんの事が父親に見えるのか?と」
「ゲイルが父親?どういうことだ?」
「いや、単にミーシャが勘違いしただけで深い意味はないと思いやすが」
「とんでもない勘違いだな」
「今度、ミーシャにも話を聞いてみないといけないわね」
「単にミーシャは自分が母親という感覚がまったくなかったからだと思いやすのでそんなに気にすることでもありやせん。それともう一つ報告がありやす」
「まだあるのか?」
「へい、魔法の詠唱についてでやす。ミーシャも小さい火魔法ですが無詠唱で使えやす」
「なんだとっ?」
「今日、ぼっちゃんの部屋でミーシャが使って見せてくれやした」
「ミーシャが無詠唱で火魔法を・・・?」
「ぼっちゃんが無詠唱で治癒魔法を使ったのを聞いて驚いておりやしたところ、ぼっちゃんから魔法に呪文が必要無いと言われ、信じられませんでやした」
「それで?」
「そしたらぼっちゃんがミーシャに火魔法を使ってみろと言われ、ミーシャが念じたら小さい火が指先に灯りやした」
「ミーシャはいつから火魔法が使えるのだ?」
「子供の頃、竈に火を点けるのに念じてたら使えるようになったそうでやす。呪文の事は知りやせんでした」
「そう、ミーシャも小さい火とは言え無詠唱で魔法を使えるから、ゲイルが無詠唱でも疑問に思わなかったのね」
「あっしは魔法が使えやせんので、これ以上詳しい事はわかりやせんが、魔法に呪文が必要ない事を実証するのにミーシャに魔法を使わせたようでやす」
「魔法に呪文が不要・・・、だとしたら今までしてきた詠唱は・・・」
「そうか・・・驚くことが次々と出てくるな。しかし、なぜ急に打ち明けることにしたんだ?」
「へい、ぼっちゃんは旦那様と奥様に気味悪がられることをひどく心配しておりやしたのは初めにお話した通りでやす。しかし、お二人ならぼっちゃんの事をちゃんと受け止めてくれると話した所、打ち明けることに決めたんでやす」
「そうか、ダンが勧めてくれたのか。お前もゲイルに信用されてるんだな」
「いえ、ぼっちゃんは旦那様と奥様から嫌われたくなかっただけでやす。親子だからこそ言えない事もありやす」
「そうか、そうだな。俺たちにも親に言いたくても言えない事はたくさんあったな」
「はい、あっしもそうでやす」
「分かった。きっちりと受け入れて、ゲイルの希望に応えよう」
「へい、ぼっちゃんも喜ばれると思います」
「ダンは今後ゲイルをどうすべきだと思うか?」
「へい、2歳で無詠唱魔法が使える・・・いや恐らく治癒魔法だけでなく他の魔法も使える可能性が高いでやす。ですがこれが他に知られたら大変危険でやす」
「そうよね」
「なので、人前で魔法を使わせないのを条件に今まで通りの生活をして何事も無かったようにするのがいいかと思いやす」
「何事も無かったように?」
「はい、今までと違った行動をすると何かあったのかと気にする人が出てきやす。特にベントぼっちゃんとか」
「確かにベントは気にするだろうな」
「治癒魔法のこともまだバレるとは決まったわけ・・・、いやそれよりも旦那様から先にエイブリック様にお話しされておいたほうが安全かもしれやせん」
「エイブリックに?」
「えぇ、暴走する可能性があるとしたら王都軍でございやしょう」
「私もそう思うわ」
「それであればエイブリック様に軍が暴走しないか見張ってもらうのが一番安全でないかと」
「そうか、エイブリックに先に伝えるか・・・」
「アーノルド様とアイナ様のお子様をエイブリック様が無碍にするとは思いやせんし・・・」
「ん? ダン、お前どこまで知っている?」
「いや、あっしは皆さんが同じ英雄パーティーだったことを知ってるだけでやすよ」
「ふ、そうか。ではそういう事にしておくがゲイルに余計な事を言うなよ」
「へい、なんの事かわかりやせんが、わかりやした」
「ふんっ食えんやつだな」
「では引き続き、今まで通りぼっちゃんの剣の稽古と護衛と言うことで宜しいでやすか?」
「あぁ、頼む」
「お願いねダン」
こうして、ゲイルは軟禁生活を免れたのであった。
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