祖クラと毒杯

鬼伯 (kihaku)

第1話「はじめに」

朗読劇

「祖クラと毒杯」

――タマシーは死なない――



                             作・鬼伯


(注)本稿は、プラトン著『パイドン』(岩波文庫、岩田靖夫訳、1998年)を

   下敷きにしている。


▲1「はじめに」


登場人物

祖クラ(さくら)……………… 又はX

春ドン(はるどん)…………… 又はA(コロス)

偉スクス(えらすくす)……… 又はB(コロス)

加マル(かまる)……………… 又はC(コロス)

蝉アン(せみあん)…………… 又はD(コロス)

栗トン(くりとん)…………… 又はW(コロス)

不ラトーン(ふらとーん)…… 又はZ(コロス)

役人1

役人2

     *コロス… ギリシャ古典劇にちなむコロス(choros/群唱団)。


事の発端

 祖クラは議論をふっかけて青年をまよわせるという罪で告発される。罰金刑ですむ程度のことだったが祖クラはそれには応じなかった。議論することが罪に問われるようなことがあってはならないとし、裁判で明らかにすると主張する。裁判はこじれにこじれる。結果、判決は死刑となった。祖クラを重罪におとしいれたい者たちの陰謀であった。祖クラは処刑の日をむかえる。牢獄に弟子たちがつどう。そこで祖クラは裁判に関する話はしない。人間のタマシー(魂)が不滅か必滅かについて弟子たちと対話する。



もくじ

1「はじめに」

2「登場人物と事の発端」

3「船に花」

4「快と楽」

5「身とタマシー」

6「生きると死ぬ」

7「白鳥が唄うとき」

8「きらいときらい」

9「次善の策」

10「3と2」

11「沐浴」

12「処刑中止」

13「不ラトーン」

14「タマシーの祭典」


*登場人物について/登場人物は基本的に性も年令も持ち合わせていないこととする。よって、祖クラに女性役者をあてることもよい。


*音楽について/入浴道具の洗面器や汲み桶を楽器として用い自在に鳴らす。洗面器を小太鼓のごとく汲み桶は鼓のごとく。プラスチック製・木製、好みを選択可。洗面器・汲み桶いずれか単品も可。複数を用いるのも可。あるいは、チェロ一本かギター一本を以って音楽とするのも可。その場合、決して背景音に甘んじてはならず、ジャムセッションのごとく語り手(朗読者の一員)として主体的に呼応する。音楽は台詞である。台詞は音楽である。


*人物の立ち位置ついて/ここでは省略。

*人物の動きについて/ここでは省略。


*台本について/台本は「モノ」だが共演者である。共演者をまるめてポケットに入れたりぞんざいに扱ったりはしないものだ。共演者が美しく見えるように接すれば語り手も美しくなる。

 台本は、稽古している内に暗記してしまうこともあるが、できるだけ丸暗記しないように。暗記はマンネリズムと仲良しだ。いつも台本から新しさを引き出すようにつとめたい。新しさとは何かについてはここでは言及しないが、謂ってみれば、湯の盤銘「まことに日に新たに、日々に新たに、又日に新たなり」を頭に入れておくとよい。たとえ全文章を暗記したとしても、台本を邪魔にしてはならない。


*ことばについて/ことばにタマシーがやどる、ことばには言霊がやどる。このようにいわれることがあるが私は懐疑的だ。人間は悪魔と取り引きをしてことばを手に入れたのである。悪魔はことばという便利なものがあると人間に営業をかけた。ことばがあれば察するなどというのは不要だから、いまある察するという心を下取りして更に安くしようといった。「どこが痛い、腹か頭か」「足が痛い」「このように瞬時にやりとりできるのがことばだ」と。人間は「これは便利だ、文明がやってきた」と欣喜雀躍して取り引きに乗った。悪魔はほくそ笑んだ。察し思う気持ちは言語よりはるかに貴重なものだったのだ。

 言語を持たない赤ちゃんとのやりとりを考えると、察することの大事が分かる。赤ちゃんが泣いている。おなかがすいているのか。どこか痛いのか。熱はあるのではないか。衣類に虫が入っていないだろうか。裸にして調べる。抱いてほしいのか歌をうたってほしいのか。まだ言語を獲得していない赤ちゃんには、こんなふうに察してやるしかない。ことばは通じないのである。

 ことばを持ったために失ったもの、その悔恨と反省の上に立って、ことばを用いたい。ことばは言霊、このあまりにも幻術的な一句を神棚に祀ってはならない。


*台本中の用語について/ここでは省略。

*カノンの方式について/ここでは省略。

*登場人物の衣装について/ここでは省略。

*場所について/ここでは省略。

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