やってはいけない、はないちもんめ
無月弟(無月蒼)
前編
小学校のお昼休み。
わたし、アヤは友だちのなっちゃんとユミちゃんの3人で、校庭で遊んでたの。
「さあ、今日はなにをしようか?」
「またかくれんぼ? それとも、もっと人集めてケイドロでもやる?」
なにして遊ぶか、相談するわたしたち。
今わたしたちの間では、鬼ごっこやかくれんぼといった、昔ながらの遊びがブームになってるの。
ちょっと前に、わたしたちのパパやママ、おじいちゃんやおばちゃんが子供のころにやっていた遊びについて考えるっていう授業があって。
それからクラスで流行り出したの。
わたしも幼稚園以来に、『だるまさんがころんだ』で遊んだけど、思ったよりおもしろかったんだから。
あ、そういえば……。
「ねえねえ。ちょっと思い出したんだけど、なっちゃんやユミちゃんのやってた『はないちもんめ』のルールって、変わってるよね」
『はないちもんめ』っていうのは、この前の授業のときに出てきた、遊びの一つなんだけど……。
「ああ、あれね。あたしは、アヤがやってたルールの方がビックリしたなあ」
「わたしも。はないちもんめでじゃんけんなんて、したことないもの」
顔を見合わせるわたしたち。
実は3人の中でわたしだけ、今年の春に遠くの学校から転校してきたの。
それで、この前話してわかったんだけど、わたしが前の学校でやってたはないちもんめのルールと、なっちゃんユミちゃんの知ってるはないちもんめのルールって、違うんだよね。
わたしの知ってるはないちもんめは、こんな感じ。
まずはないちもんめに参加する子たちが、2チームに分かれて、チームごとに向かい合って一列にならぶ。
次にそれぞれのチームで相談して、相手チームから1人を選んで「○○ちゃんがほしい」って宣言する。
指名された2人が前に出てじゃんけんをして、負けた方が勝った方のチームに移動する。
再び誰がほしいか相談して、片方のチームが誰もいなくなるまで続ける。
これがわたしの知っていたルール。
調べてみたら、これが全国的に知られているスタンダードなルールみたいなんだけど、どうやらこの辺では違うみたいなの。
なっちゃんやユミちゃんによると。
「あたしたちが幼稚園のころは、じゃんけんじゃなくて引っ張り合いで決めてたよ」
とのこと。
わたしの知ってたルールだと、じゃんけんで負けた方が勝った方のチームに移動するけど。
なっちゃんやユミちゃんのルールでは、指名された2人が、両チームの間で手を繋ぐ。
そして残りのチームのメンバーが2人を綱引きみたいに引っ張り合って、自分たちの陣地まで持っていくんだって。
そんなの初耳だったから、最初聞いたときはビックリしたよ。
そもそもそれって、チームの人数に差が出てくると、数が少ない方が不利すぎない?
それに人を引っ張り合うのは、ケガしないか心配だよ。
そのことを言うとなっちゃんもユミちゃんも、「そういえばそうかも」って言ってた。
同じ遊びなのに、ルールが違うなんて不思議。
せっかくだから、そのはないちもんめで遊んでみたいって思ったんだけど……。
「はないちもんめ、やりたいのにね」
「うん。なのに倉木先生、どうしてやっちゃダメなんて言うのかなあ?」
不満そうに言うなっちゃん。
倉木先生っていうのは、わたしたちの担任の女の先生。
優しくていい先生なんだけど、この前の昔ながらの遊びについての授業をしたとき、注意してきたの。
学校で、はないちもんめをやったらいけませんって。
「どうしてやったらダメなんだろうね?」
「ケガしたらいけないからって言ってたけど……」
「でもアヤの言ってたじゃんけんルールなら、ケガなんてしないじゃん。ねえ、ちょっとやってみない?」
「え、でも先生に怒られないかなあ?」
「大丈夫、バレなきゃいいんだもん。それにアヤの言ってたじゃんけんルールでやれば、ケガしないでしょ」
ニンマリ笑うなっちゃんだけど……まあいいか。
校庭のはしの方で、わたしとなっちゃんが並んで立って、向かい合う形でユミちゃんが立つ。
よく考えたら3人ではないちもんめをやるのは無理がある気がするけど、まあいいか。
わたしは同じチームのなっちゃんと、誰がほしいか相談を……といっても、向こうはユミちゃんしかいないんだけどね。
それでもとりあえず、ルール通りに宣言する。
「ユミちゃんがほしい~」
「アヤちゃんがほしい~」
ユミちゃんはわたしを指名してきて、わたしとユミちゃんが前に出て、じゃんけんをする。
グーとパーでわたしが勝って、ユミちゃんがわたしたちのチームに来て……終わっちゃった。
「……つまらないね」
「やっぱり、3人ではないちもんめをやるのは無理があったんだよ」
「次はもっと、たくさんでやろうよ」
人数が増えたら先生に見つかるかもしれないけど、たしかにもっと大勢でやってみたいかも。
けど、とりあえず今日はもうおしまい。
昼休みも終わっちゃうし、教室に戻らなきゃ。
だけどそのとき……。
「勝~ってうれしいはないちもんめ、負け~てくやしいはないちもんめ~♪」
後ろから、はないちもんめの歌が聞こえてきたの。
いったい誰が歌ってるの?
わたしたちは、いっせいに振り返る。
するとそこには、白いシャツに水色のスカートをはいて、肩まで髪をのばした女の子が立っていたの。
いったいいつの間にいたのだろう?
というか、この子ダレ?
うつ向いているし、長く伸びた前髪のせいで、顔がよく見えない。
それになんとなく、不気味な雰囲気がする。
すると、なっちゃんやユミちゃんも同じことを思ったみたいで、戸惑いながら顔を見合わせたけど。
そんなわたしたちに向かって女の子は……。
「アヤちゃんがほしい~」
え、わたし?
すると女の子は、わたしがまばたきをした一瞬で、わたしのすぐ目の前まで近づいてきたの。
「ひっ!?」
この子なに?
こんなの、人間の早さじゃない。
だけど恐怖していると、女の子はわたしの腕をつかんできた。
「痛っ!」
つかまれた腕が痛い。
するとさらに、女の子はわたしを引っ張りはじめた。
「アヤ!?」
「アヤちゃん!?」
こんな不気味な子、早く逃げたかったけど、ものすごい力で引っ張られて逃れられない。
するとグイグイと引っ張られてるわたしを、なっちゃんとユミちゃんがつかむ。
「この、アヤになにするの!」
「アヤちゃんを返してよ!」
女の子から引き剥がすように、わたしを引っ張る2人。
だけど、相手の力の方が強く、わたしはどんどん引っ張られていく。
それでもなっちゃんもユミちゃんも、つかんだ手を放そうとはしなかったけど……。
「痛い! 痛いよ!」
両側から引っ張られたんだもの、痛いに決まってる。
これじゃあまるで、なっちゃんやユミちゃんが言っていたはないちもんめの引っ張り合いみたい。
するとさけぶわたしを見て、なっちゃんユミちゃんは心配になったのかな。
手の力を緩めてくれたけど、その瞬間女の子が一気に引っ張る。
「アヤちゃんがほしい~、アヤちゃんがほしい~」
気味の悪い歌が頭に響いて、全身に悪寒が走る。
このままじゃ、何をされるか分からない。
いったいわたしを、どこに連れていく気なの?
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