9-9 胡散臭さ満点
上司に駆除完了と告げると、事後観察は監査官を派遣すると言われた。
珍しい、この腐れ腹黒上司にしては妙に手回しが良い。
しかも次の派遣先は調整中なので、現地にて待機と言われた。
実質上の休暇で、ナニか企んでいるなと勘ぐったのだが思い当たる節が無い。
いや、全く無い訳でもないのだ。
あの片桐とかいう男の一件。
業務内容の記録とかヌカしていたがあたしがお目当てだったのはもう間違いない。
山本地区での強化対応者絡みで、噂の裏付けが欲しかったのだろう。
上司に調べて欲しいと頼んだらアッサリ返答があった。
その辺りは流石に腐れ腹黒、先に見当を付けていたらしい。
しかも片桐はアンチ強化対応者で、いわゆる「超人製造組合」の規模縮小を望んでいる一派だと教えてくれた。
しかもアレ絡みのフィードバック情報で、怪しい某かを画策している気配が
まったく、普段の業務でもコレくらい手際よく情報を寄越してくれれば良いモノを。
だがアレ絡みとは穏当じゃない。
どう転んでも
「勘ぐり過ぎですよ、
当の本人に尋ねた返答がソレだった。
あの夜、業務を終え校門を出たところで片桐一尉が待っていた。
ご苦労様でした、という労いとご協力感謝しますという礼に対し、「どういたしまして」と三人分の小型カメラレコーダーを返却した。
そこで「組合」への冷や水にするおつもりなのですね、と水を向けたのだが、苦笑して軽く肩を竦めたダケだった。
なので「アレがらみの転用なんて碌なもんじゃないですよ」と軽く突いてみたら、先程の台詞がお出ましになったのだ。
「我々は基本、国と国民を外部からの暴力から守る為の組織です。内部の秩序と安全はあなた方の役割。ナワバリを荒らすような真似はしませんし、しようとも思いません。
「飼い慣らそうとした者は居たようですが」
「未だに後を断たないようですね。ですが我々はそんな
何だかつまらない。
通り一遍の返答だ。
もう少し
「不満そうですね」
「肩すかしも良いところです」
「それは失礼。まぁご協力いただいたお礼と言っては何ですが、ちょっとしたお話を。
私の所属している部位では、対人戦闘において強化対応者は不要と考えて居ます。
軍事転用としては
コストばかりが
制限事項も多いですしね」
「知ってます」
「おや、そうでしたか。
ですが現場ではなく制御管制の人員育成目的なら、そのハードルは大きく下げられるのではと考えて居ます。
指示を伝える者が取り乱しては現場が混乱しますから」
「管制の人員?あ、もしかして今回のオペレータたち・・・・」
「はい。
私の今回の目的はあなた方駆除者の現場状況の記録。
そしてもう一つはそれを記録観察するオペレータの情緒反応の観測でした。
実は今回使っていたクルマの器機、半分はオペレータの情緒や生理反応を記録するための機材なのです」
おやおや。
見世物になっていたのはあたし達だけじゃなかったってコトか。
「ああ、コレは機密ではありませんが、彼らには内緒にしておいていただけませんか。出来れば事後反応の変化も観測して置きたいので」
「まぁそれ位かまいませんが」
どうせもう二度と会うこともあるまい。
そもそも名前はおろか顔すら知らないのだ。
「しかし情緒面でのコントロールですか。アレ絡みでそんなソースは見当たらないと思いますけど」
「淵に堕ちても自我のある方がいらっしゃるではないですか。その辺りを紐解ければ、何某かの手がかりが
「あなた、本当に防衛省の情報部ですか?」
「確かその方、
「・・・・まぁ、その筋の方なら簡単に知ることが出来ますよね。新聞にすら書いてありましたし」
「気を悪くされましたか」
「この程度では。むしろ、今回のムシに寄生していた寄生蜂。あんなもの
「何のお話ですか?」
「あの寄生蜂のお陰で校長は正気を取り戻し、駆除部所に連絡を寄越しました。しかもわたしを名指しで。タイミング良すぎでしょう」
「被害が拡大しなくて何よりでした」
「巣別れ直前の時になって、宿主がムシの寄生蜂に犯されて正気を取り戻し、公安の専門部所がムシを駆除。
その現場を自衛官の情報部が観察に来る。
しかも欲しかったわたしの駆除現場を記録した。
出来すぎてませんか?」
「幸運に感謝、と言ったら気を悪くされますか」
「同じ台詞を言われてイラっと来てます」
「それは失敬。語彙が足りなくて申し訳ない」
「寄生蜂の成虫回収も今回の仕事の内で?何処までが絵図通りなのです」
「買いかぶりすぎです。それにソコまで
「互いのナワバリは荒らさない主義なのですよね?」
「当然です。これからもそうです」
「そう願いたいものです」
「信用をなくしてしまいましたね」
「最初から無いものは無くしようがないですよ」
「コレはまた辛辣です。ですが出来れば、良好な関係を築きたいと考えて居るのですよ」
「ほう」
「本当ですよ?」
そして片桐と言う名の士官は「今回はありがとうございました」ともう一度頭を下げて夜陰の中に消えて行った。
この喉の奥に何かが詰まったような、何とも言えない
それが、とても不愉快だった。
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