第31話

「ごめんね、」

悲しそうに笑って席を立とうとする。


「え、、どこに行くんですか」


まだ話は終わってないのに。

聞きたいことも、湊さんの気持ちも、何も…


「今日はゆっくり休んで。また今度話そう」


今度っていつ…?

今を逃したら、もう二度と本音を話そうとしてくれない気がする。


「私は、今がいいです」

「でも、」


どうして頑なに隠そうとするんだろう。


「教えてください。湊さんがどんな風に思っていたのか」


「ごめん、」


「...どうして、逃げるんですか?湊さんが私の事を好きなのかもしれないって思って喜んだのに、それは私の勘違いなんですか?」


勘違いなら勘違いで良い。

ただ、湊さんの気持ちを知りたい。


「...喜んだ?」


「私は湊さんの事...。それより本当の事を教えてください。私の話はその後です」


私も、湊さんに正直に伝えよう。


たとえ貴方が私のことをどれだけ嫌っていても、私は貴方のことが大好きなんだって。


「俺の話を聞いたら後悔するかもしれないよ」


後悔しても、傷ついてもいい。


「それでも聞きたいです。湊さんの本当の気持ち」


一歩進める気がするから。


「...あの日。初めて俺たちが出会った日の事、覚えてる?」


忘れるわけない。


「もちろんです」


初めての顔合わせで、湊さんと結婚する事を知らされた。


「正直、彩花は俺と結婚するのが嫌だっただろ?」

「それは…」


最初は嫌だった。


好きな人がいたとかいう理由じゃなくて、単純にまともに恋をした事がなかったから。


自分から人を好きになって努力して、めでたくその人と付き合う…


そういう恋を一度はしてみたかった。


それなのに、急に結婚なんて認められなかった。

結婚は好きな人同士でするものでしょなんて思ったりもした。


もちろん、湊さんが嫌いだからという理由ではなく、誰が相手でもそう言ったと思う。


「知ってるんだ。聞いたから」

「聞いた...?」


まさか、この話は私とお父様しか…


「彩花がお義父さんにあんな結婚は嫌だって、あの人と結婚したくないって泣きながら言ってたのを、たまたま聞いちゃって」


そんな…

まさか、聞かれていたなんて。


「それで、彩花に酷いことをした。そうすれば彩花は俺の事を恨むと思って。憎まれる方が俺も早く彩花のことを吹っ切れると思って」


「吹っ切れる...?」


「彩花の事が好きだから」

「…?」


湊さんが私のことを好き?


私の勘違いじゃなかったってこと…?

いや、いざ言葉にされると、やっぱり信じられない。


「まぁ、そんな反応になるよね」

「ごめ、なさ、信じられなくて」


でも、好きなら、好きになって貰えるように行動するべきなんじゃ…


どうしてわざと恨まれるように…


「可哀想な俺の話聞いてくれる?」



「はい…」

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