第8話


「んんっ、」


私…あのまま寝ちゃったんだ。


「ん、彩花ちゃん…おはよう」

朝の湊さん、なんか可愛い、


「湊さんおはよう。昨日は先に寝ちゃってごめんね」


「昨日のこと覚えてない?」


「昨日…?」

何の話しだ?


「あぁ、寝ぼけてたから覚えてないか」


全く覚えてない…

「私、なんかしちゃった?」


まさか湊さんに粗相を…


「いや?可愛かったよ」


「またそんなこと言って…」

湊さんはなんでも可愛いって言うんだから。


「今日、秘書の人来るんだよね」


「あ、そうだった」

「男の人?」


「うん。そうだよ」

「そうなんだ」


どうしてそんなこと聞くんだろう。

「どうして?」


「会ったことあるの?」

「もちろん。心配?素敵な人だから大丈夫だよ。」


そりゃそうか。どんな人かも分からないのに会社のこと全部任せきりだもんね。


でも、優秀なのは間違いないから心配することないのに。


「はぁ、」

えぇ、ため息までついて、よほど心配なんだ。


「今日会えばどんな人か分かるよ。きっと、秘書の方を気に入るはず」


彼を信頼してずっと傍に置いていたんだから。


「だから嫌なんだよ」

「え?」

「素敵な人が彩花ちゃんの近くにいて欲しくない」


「どういうこと?」


…私が至らないからってこと?私なんかが近くにいると困らせちゃうから?


「だって…目移りとか、しちゃうんじゃないかなって、」


「目移り…?」


それって…


「あ、もちろん彩花ちゃんが信用出来ないって訳じゃなくて、」


私のいいように受け取ってもいいの?


「分かってるよ。ただ、嫉妬してくれてるのかなぁ。なんて」


「そりゃ、嫉妬ぐらいするよ」


なにそれ


「…可愛い、」


「もう、からかわないで!」


こんな可愛い湊さんを見れるなんて夢にも思わなかったな。


______



「失礼します」


流石。二時きっちりにいらっしゃった。


「湊さん、顔怖いですよ…」


そんな顔で見たら秘書の方もやりにくいよ。


「いやぁ。ごめんごめん」


「今お茶の準備を」

「いえ、お気づかいなく」


「君が秘書の…」

「佐々木悠真と申します」

「佐々木君。仕事を任せきりで悪かったね」


「いえ。私の方こそお休みのところ申し訳ありません。」


「仕事の件で話があるんだよね」

「はい」


私の方をちらっと見た。


あぁ、そっか、私いない方がいいよね。


「それではごゆっくりどうぞ」


それから数十分が経ち、話しが終わったのか私の部屋まで呼びに来てくれた。


「彩花ちゃん話し終わったよ」

「お疲れ様」


「奥様、私はこれで失礼致します」

「あ、ありがとうございました」


「とんでもございません。これが私の仕事なので。社長のことをどうかよろしくお願い致します」


「こ、こちらこそ。湊さ、主人のことをよろしくお願いします」


「社長。ではまた、明日お迎えにあがります」


「分かった。お疲れ様」


打ち解けたみたいで良かった。



「湊さん、」


「ごめんね、気を遣わせちゃったみたいで」


「なんか、大変みたいですね、」

私のせいなのに、私が手伝えることは何も無い


「覚えることが沢山あるけど、きっと何とかなるよ」


「私にも手伝えることがあれば、なんでも言ってね」

「じゃあ一つだけお願い聞いてくれる?」

「もちろん!」


私に出来ることがあるなら何でもしたい。


「明日俺が仕事から帰ってきたら玄関まで来てくれる?出迎えてほしいんだ」


え、それだけ?


「それはもちろん。だけどそんなことでいいの?」

「それがいいの。仕事頑張れるから」

「そっか、分かった」




______



こんなに湊さんの帰りを待ち遠しく思ったことは無かったな。その間に湊さんの好物作って待っとくか。


盛りつけまで終わった時、


ちょうどいいタイミングでドアが開く音が聞こえたから


「湊さん!おかえりなさい!」

「…ただいま」


「会いたかった!」


そう言って抱きつくと少しびっくりした様子で、


「俺、も、」

「びっくりした?」

「うん、」


なんか…元気ない?初出勤で疲れてるのかな、


「お仕事お疲れさま」

「ありがとう、」


「初出勤どうだった?」

「まぁ、なんとか、」

「そっか、」


やっぱり気のせいじゃない。いつもと様子がおかしい。


「疲れたから先にお風呂入ってくる」

「あ、うん…」


会社で何かあったのかな…それに、冷たい気がする。



「ご飯食べよ」

「うん、」


「新しい服買ったんだ」


「え?この服は湊さんが買ってくれたんだよ?あんまり外行かないならいらないって言ったのに、それじゃあ家で着たらいいよって…沢山買いすぎて忘れちゃった?」


「そうだったっけ、」

「もーそうだよ」

「…彩花は、俺の事好き?」


「 へ?もちろん…!どうしてそんなこと聞くの? 」


「いや、なんでもない。それより、今日のご飯も美味しいね。全部俺の好きなものだし」


「良かった。お仕事で疲れて帰ってくると思ったから、オッパの好きな物沢山作ったの!」


少しでも力になれたらいいなと思って。


「そっか、」


どうしたんだろう…


てっきり、え!?彩花ちゃんが俺のために!?ってびっくりしてくれると思ったんだけど、やっぱり何かおかしい


「いつもと様子が違うけど、会社で何かあった?」


「何もないよ」

じゃあ会社のこと以外で何かあったのかな。なにか隠してることは間違いないんだけどな、、


「ほんとに大丈夫なんだよね」

「久しぶりの会社で少し疲れてるだけだから、心配かけてごめんね」


ほんとにそれだけなのかな、


「なら今日は早く寝る?」

「そうしようかな、」


「そっか…」


今日まだ30分しか一緒に居られてないのに…



「彩花?」

「ん?」


「どうしたの?どうしてそんな悲しそうな顔するの?」

「ううん、なんでもない」

こんなわがままで困らせなくない。


「だめ。ちゃんと言って」

「その…」


「ん?」

「まだ…一緒にいたいです、」

「そっか、分かった」

「え、いいの…?」


「可愛く甘えてくれてるのに、ダメなわけないよ」


「湊さん…」


会社に行って、何か思い出したのかもしれないって思ったけど…こんなに優しいんだもん。


私の勘違いだよね。

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