第10話 王都【サカルドニア】攻略戦 ~その二~
東門。
「——<
カミーアが唱えると、大柄の
その一撃をステップで躱すと、素早く背中から生えた触手を編込み、触腕とでも言うべき大きさのそれを構える。
「力比べがお望みか、木偶坊!」
がっぷり四つ、組み合う。
情勢はほぼ互角、若干シュウが押し負けているか。
(ぐっ……!想像以上に重たい!だが……!)
ハルカの<
いくら動こうが、いくら力が強かろうが、物である以上<
(ぶっ壊してやるよ!)
触腕に力を籠める。電流を流すイメージ。
しかし、目の前の巨体は微塵も揺るぐことがない。
次の瞬間には、カミーアが目の前で右腕を振りかぶっている。
「——土剛拳ッ!」
防御は間に合わない。
周囲の土を寄せ集め形作られた篭手の大質量が、ノーガードのシュウの腹に突き刺さった。
触腕が引きちぎれる程の勢いで弾き飛ばされるシュウの体。
吹き飛んだ先にも、
アッパーカット。
強引にベクトルを捻じ曲げられてシュウは空に打ち上げられる。
「<
翼を生成し、姿勢を維持しようと試みる。
「そりゃあ!」「絶好の的だ!」
壁上から顔を覗かせたのは先込式銃やクロスボウと言った遠距離武器を構えた兵士の群れ。
普段のシュウなら危なげなく弾くことができるレベルの矢玉でも、空中の不安定の状況では迎撃すらままならない。
「マジかよッ!」
翼が穴だらけになり逆しまに墜落を開始する。
逆向きの視界の中で捉えたのは飛翔型の
カミーアが
無理やり振るった右回し蹴りで迎撃を試みるも強靭な腹筋に受けられた。
太ましい両腕が絡みつき、一瞬の内にシュウを拘束する。ちょうど羽交い絞めの形。
(——なッ!?こいつ、まさか!?)
組打ちを重視する格闘技の中には、プレーンバスター、バックドロップ、ジャーマン・スープレックスと言った敵の身動きを奪った状態で背面ないし脳天から地面に叩き落とすことで、敵に大ダメージを与える技が存在する。
カミーアが目論むのはその究極形。高度20mの高空からの――
「墜ちろォ!」
――脳天砕き。
轟音が生まれる。
技を掛けたカミーア本人は20mの着地でもびくともしていない。
立ち上る土煙。
「ガ……ァ……いってえ……」
その中からふらつきながら、シュウが姿を現す。
「見た目の割に随分とタフじゃないか、えぇ?」
「タフじゃなけりゃ、生きていけないってな……」
(ぶっつけ本番だったからな……想定外が出るのは当たり前だが、まさかここまで力が落ちるとは思わなかった、ざっと1/3も出せてるかわからん。しかもよりにもよって<
アミーユの死の情報から『円卓』に戦術が読まれるのを避けるべく、シュウは速攻をかけた。しかるに、奪取した能力の試験運用をシュウは試していない。
脳天から滴り落ちる血の不快感が、痛みで鈍る思考を鮮明にさせる。
その、戦力差も。
「続けるか?」
「ククッ……」
カミーアの獰猛な笑いに、シュウは曖昧な微笑を浮かべることしかできなかった。
◆
南門、北門でも、シュウの分身は苦戦を続けていた。
しかし、彼らの目的は『
——ならば、本命である本体は何処であるか。
—―西門。
周囲になびくは雑兵の群れ。
その隙間から覗くはアメジスト色の眼光。
「シッ!」
雑兵の奥からイユレの呼吸が響く。
ズバン!
音を立てて斬撃がシュウに襲いかかった。
シュウは咄嗟に触手を振りかざしてガード……
「なっ!?」
……出来ずにあっさりと切断された。
想定外に固まるシュウの体。
その隙を突くように、イユレが連撃を繰り出す。
右、左、右、左、右。
交互に振りかざされる二剣。
先程の経験からシュウは防御不能と判断。バックステップで剣を躱していく。
耳元を掠める風切り音。
剣先が静かに命を撫でる。
「ラアッ!」
気合一閃。
両足を揃え、跳んだシュウは空中でくるりと一回転。その最中にイユレの胸板を蹴り飛ばして距離を取る。
「<
生まれる猶予で唱えるは
右腕が変質する。
例えるならば、そう。雀蜂の腹部の毒針が如く、細く、鋭く。
フェンリルと違い一撃の火力には乏しいものの、小回りが効く近接戦闘武装としてシュウはこれを選択した。
「チャンバラがお望みか!」
突貫。
勢い任せの突進でスルリと内側に潜り込み、素早く抉り込む。
速度が乗った一撃を短剣で凌がせ、再度右腕を引き戻してがら空きの胴に叩き込む。
刹那、再びアメジストの眼光がシュウを刺した。
金属音。隙だらけだったはずの右手の長剣は後ろに振り切られている。
――見れば、雀蜂の毒針は、半ばから切断されていた。
(ッ!?これも切断できるのか!?だったら――)
「——<
滑らかな断面から毒液が噴出する。
これにはイユレも入ろうとしていた連撃の構えを解き一歩後ろに下がった。
そこに食らい付くが如くシュウが踏み込む。
使い物にならない<
しかしながら、分身体の弱体化状態ならばいざ知らず、超回復と圧縮筋繊維による補修で増強されたシュウの筋力は攻撃手段として十分有用な範囲に、素人の拳を昇華させていた。
ヒュヒュン、と二剣が空中で図を描く様に動く。
それを合図に、シュウの拳は、雑兵にインタラプトされた。
一撃で潰れる雑兵の頭。
散る脳漿と末期の呻きも意に介することはなく、雑兵がシュウの周りを取り囲んだ。
イユレは、その影を縫うように高速で走り周り、身を隠しながらシュウの隙を見定める。
「そんなに死にたいか!」
憎しみの叫びと共に追撃の手を阻む無数の雑兵を叩き潰しつつも、血飛沫の中でシュウは考える。
(クソ、こいつ、出来る!身のこなしも、兵士の動かし方も、並のそれじゃない!)
アメジスト色の光。
斬撃が仰け反ったシュウの首筋を掠めて雑踏に消える。
(追撃を誤魔化す技術!360度警戒を絶やさせない状況の作り方!そして不自然なまでに斬れる剣戟の才!さすがにこれに関しちゃ『恩寵』だろうが――)
再び眼光を感じる。
雑兵の心臓を射抜きながら投げナイフの群れが高速で飛来してきた。
柄の部分を細めの触手で側面から叩いて軌道を散らす。
そのまま体をひっくり返して後ろを向いた。視線の先にはイユレ。
(シビュティア曰く、三人の中で一番生命力が弱いってんでここを本命にしたが、何が何が!事によると、こいつが、三人の中で一番——)
鍔部分を<
双方共に体に力を込め、鍔迫り合いのような体制になる。
(——強い!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます