第6話 戦争、されど世界は廻る
『
そして、それを実行した『
魔王・エルキガンドの雄弁を以て明かされたこれらの事実は、王国を激震させるに足るだけの衝撃を持っていた。
「……確かに、キュリアスの行動は独断専行、俺の預かり知らぬところで奴が勝手に成したことである。その死を、自業自得であると切り捨ててしまうことすらできるであろう。
だが!彼の行動は全て、俺を、ひいては王国を憂いての行動である!『憂うるキュリアス』!長年の彼の忠義を、彼の忠道を、愚かであると嗤う事など誰ができようか!
そして彼は討つべき『
——ならば報いよう!彼の誠意に!彼の犠牲に!
——ならば報いを!彼の怨敵に!彼の怒りに!
『
——万雷の拍手の中、王国が動き出す。
◆
【クヴィーザル】中央【サカルドニア】は魔王城内部、円卓の間。
「第二席キュリアスが担当していた職務、権限などは後任が決定するまで、暫定的に第一席アルアースが受継するものとする。よいな」
「はっ、
アルアースと呼ばれた男が席に着く。
「さて、ようやく本題だな」
エルキガンドが切り込む。
「『
口を開くは、第四席レルヒェ。
刃を思わせる鋭い眼光は、御前であっても緩むことはない。
「そうだ。皆も報告を受けていると思うが、どう動くか」
「懐柔策は検討されましたか?」
「無理だろう、エレム。理由は主に二つ。
一つ目、『パララジア』の報告にも合った通り、奴の戦い方は苛烈にして残酷。恐らくなんらかの理由でこちらに過剰な敵意を抱いている。懐柔するのは現実的ではない。
二つ目、こちらはより単純、キュリアス卿の殺害という重大極まる罪を犯している以上、許してはならない。」
「それは、組織の論理ですか?それともレルヒェ卿個人の――」
「両面だ。組織の論理的にも個人の感傷としても、ヤツは許されない。クッ、むしろここで懐柔策を出したエレム卿こそ怖気づいて売国に奔ったと解釈されても文句は言えぬぞ」
冷ややかな笑みを前に沸点を超えたエレムが椅子を蹴って立ち上がる。
「レルヒェ卿――!」
「やめろ。そういう類の事はせめて俺の目の届かぬ所でやれ、不愉快だ」
俄かに熱を帯びる二者の声を妨げるように魔王が顔を顰めつつ発言する。
「チッ、奴が生きてさえいればこういう時便利だったのだろうが――まぁいい、話を元に戻すぞ。俺はレルヒェの意見に賛成だ。こちらに喧嘩を売ってきた以上ヤツは叩き潰す、これは決定事項だ」
「はっ、それでは『勇者』達との交渉を――」
『勇者』とは、世界から脅威であると認定された『
「いや、良い。やめておけ」
そうした歴戦の強者を第七席イグニスは内に抱え込もうとしたのだが、それを魔王は拒否した。
「何故です?」
「所詮奴らは雇われ、何かあった時に裏切らんとも分からん。そうすればどうなる?『
「成程――」
「だが、その交渉リストは握っておけ。いざという時には『勇者』を投入せざるを得ないときもあるであろう。まぁ、最終兵器と言ったところだ。使わぬに越したことはないがな……」
「了解です」
イグニスが頭を下げ、入れ替わるように第十一席イユレが口を開く。
「ですが、国内勢力だけで、勝てるのでしょうか……『
「キュリアス卿を討ち果たしている以上、油断はできんが、逆に悲観してても始まらんさ、でっかく構えろよ、イユレ」
応えたのは第五席、カミーア。
カミーアとイユレ。この二人は、性格の相性が良いのか、傍から見ると年の離れた兄弟にしか見えない関係性を築いている。豪放磊落なカミーアと慎重なイユレは任務での相性も良く、二人連れだって行動することが多いこともその評価に拍車を掛けた。
「それで、実際の所どうなのですか?」
「歯に衣着せぬな、アグニカ。そうだな……正直『五分』だ。キュリアスを殺せる程の手練れ、それも戦闘力が頭打ちであるという確信もない。正直、恐ろしい相手だ。舐めた真似をすれば容易く畳まれる。気を引き締めてほしい。
——もっとも、負けてやるつもりもないが。」
「まぁ、魔王様と、第一席アルアース卿もいる。分の悪い戦じゃないさ」
「そうカミーアは言っているが、どうなのだ?アルアース」
魔王が目を向けたのは、金色の髪をした男。
透き通るような白い肌と、澄んだ水面の目をした線の細い美青年でありながらも、騎士服の内側には、圧倒的な筋骨と数多の死線を潜り抜けた事による古傷が刻まれている。
眉目秀麗にして質実剛健、華やかでありながらも沈思黙考の似合う、戦映えのする騎士であった。
伏せられた目が、長いまつ毛を震わせながらゆっくり開かれる。
色の薄い唇が、言葉を編んだ。
「……敵の
—―『
彼は、王国最強の騎士である。
◆
命王支配国家【クヴィーザル】は、人族が支配する国家である。
それは勿論、この国の事実上の頂点である魔王・エルキガントが元々は人族であることに由来する。が、それとは別に人族以外の知的生命体もまた多数存在することも事実である。
数え出せばはっきり言ってキリがない、なんならこれにさらに人間との交配によって生まれた
つまり、何が言いたいのかというと。
——『
正確には
「はぁ、まったくなんで僕がこんなことを……」
腑抜けた様子で彼はぼやく。
元々この案件は第十一席イユレの担当事項である。
それをカミーアとの対『
相手は第十一席。辛うじて末席に名を連ねるだけのアミーユに、口答えできる筈もない。
「世の中の人間は『
勝てもしないであろう魔王に尋常ならざる敵意を剥き出しにして喧嘩を売る異常者。アミーユからしてみれば理解しがたい存在だったが、そんな狂人の存在に関わらず、今日もも世界は回っている。どうしようもなく。
それにつけても十二席、である。
十二席。『
それはつまり、何かあろうものなら『円卓』より即刻引きづり下ろされる立場であることを指し、上位席からのお願いを一切断れない立場にある、ということだ。ちょうど、今日のように。
「円卓の前には皆平等」と言われているもののそれは単なるお題目で、実際には一~十二の順に純然たる立場と序列が決まっている。当然、それより上には魔王が鎮座している訳だが。
――力がいる。
地位が、富が、権力が、武力がいる。
まだ、足りないのだ。
なにも第一席に成り代わりたいなどと、身の程知らずの野心を抱いている訳ではない。
せめて自分という存在が揺るがされずに住むだけの力が欲しい。
――畢竟、それが担保されるのであれば、国がどうなろうが、魔王がどうなろうが、『
馬車の座席に敷かれたクッションにゆっくりと沈み込みながら、そう考え、深い眠りに落ちようとした瞬間。
『円卓の十二人』、第十二席アミーユの両脚は、根本から切り飛ばされた。
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