第9話 正しい答えじゃなくても


 長い時間の様で、非常に短い期間で稼ぎを出した。

 その実感を噛みしめ、空港から出て来た俺達は喜びを表現した。


「「「沖縄だぁぁぁ!」」」


「お、沖縄だぁ!」


 永奈だけがちょっとだけ遅れて飛び上がったが、それくらいに喜びに打ち震えていた。

 だって学生の身分で、旅費を稼ぎきったのだ。

 達成感と同時に、永奈と同じ学年の奴等は今頃先生の言う通り動いているのだろうと思うと黒い笑いが出て来ると言うモノだ。


「クックック、アイツ等が修学旅行らしい“授業”を受けている間、俺等は自由に動ける訳だ。行くぞ律也!」


「せ、先輩? 私達もガイドさんの言う事を聞かないと不味いですからねぇ?」


「フハハハ! 来てやったぜ! 沖縄! 皆水着は準備して来ただろうな!? いざ、ビーチへ! 俊介、行こうぜ!」


「先輩方ぁ? まずはビーチじゃなくて陸地のツアーみたいですよぉ?」


 後輩女子二人からやや呆れた声を頂いてしまったが、俺達の頭をデカイ掌がガシッと掴み取った。

 今回の保護者の一人、俺の親父。


「おらぁ、思春期ども。後輩ちゃん達の水着は後の楽しみに取っておいて、今はプラン通りに動けやコラァ。恥かかせんなぁ? そう言うのも、大人への一歩だぞぉ?」


「ぐあぁぁぁ! 親父! いてぇ!」


「おじさん! いてぇっす! 滅茶苦茶痛ぇっす!」


 二人共アイアンクローを頂きながら、バスに乗り込んでみれば。


「皆様こんにちは、今回のツアーに関しましては――」


 バスガイドさんは……何というか、結構若いお姉さん。

 しかし所々方言が混じり、何を言っているのか理解出来ない個所が発生する事態に。

 あれかな? 激安ツアープランだからこそ、現地のバイトとかで賄っているのだろうか?

 いやまぁ良いんだけど、全然問題無いんだけどさ。

 そんな事を思いながら、やけに話の長いガイドさんのスピーチを聞いていれば。


「先輩、何か邪な事を考えていませんか?」


「いや、全然?」


 隣に座る永奈が、妙な事を言って来るではないか。

 おいおいおい、待ってくれ。

 俺は旅行先でナンパする趣味は無い、綺麗なお姉さんだったからラッキーだったな、とか思った程度で。

 だからこそ、ハッハッハと笑いながら後輩の方を振り返ってみると。

 やけにムスッとした表情の後輩さんが一人。


「別に良いですけど、ガイドさん綺麗ですし」


「ま、確かに」


 普通にそう答えてしまったが、永奈は更に頬を膨らませ。


「……水着、頑張って選びました」


「そうか、楽しみだ」


「本当にそう思ってます? さっきからガイドさんばっかり見てます」


「相手が喋っているからな、そう言う時くらいは相手を見ないと」


 彼女の言葉に声を返してみれば、相手はもっと頬を膨らませた。

 此方としては「え? 今ガイドさん何て言った?」などと気になってしまい、相手の口の動きに集中してしまっただけなのだが。

 後輩さんは別の意味として捉えているのか、グリグリと俺の肩に拳をねじ込んで来る。

 止めないか、可愛いぞ。


「知ってるかい、美月ちゃん。アレが沖縄名物、マダツキアッテナイノカヨーだよ?」


「シークアーサーとかサーターアンダギーの親戚か何かですかね?」


「だねぇ、きっとそうだ」


 向かいの席から、鬱陶しい声が聞こえてくるのであった。

 うるさいです。


 ※※※


「先輩、凄いですよ! サトウキビ畑です!」


「齧ったら甘いのかな?」


「外側は……多分甘くないのではないのでしょうか?」


 そんな事を言いながら、俺達はフラフラと歩き回った。

 見学場所での自由時間。

 ツアーの一環だから、退屈な場所が多いのかもしれない。

 そんな風に思っていたのだが。


「写真撮って良いですか!? 先輩そこに立ってください!」


 やけに興奮した様子で、永奈は声を上げていた。

 まるで初めて県外に出た子供みたいな様子で。


「むしろ俺が撮ってやるから、美月ちゃんと並べよ。ホレホレ、永奈の写真も増やさなきゃな」


「わ、私はあまり撮られるのに慣れていないので……」


「なら、余計良い記念になるだろ。修学旅行サボってまで旅行に来たんだから」


「先輩、言い方……」


 などと言いつつも、本人も楽しんでいるのか。

 美月ちゃんと一緒に麦わら帽子の端を掴んで、満面の笑みを浮かべている写真が撮れた。

 長い事一緒に居るが、永奈のこういう写真はあまり見た事が無い。

 本人も見せたがらないし、大体は集合写真だったりするのだ。

 そして、本人は笑ってすらいない。

 だからこそ、今回の旅行は。


「成功、だったんじゃねぇの?」


 ニッシッシと変な笑い声を上げながら、サトウキビ畑の周りを走る二人をデカいカメラで写真に収めていく律也。

 いつもだったら、盗撮だなんて言ってやるところだが。

 今日だけは、もっともっと今の光景を写真に収めてくれと言いたくなってしまった。


「ホレ、見てみ? こんな楽しそうにしてんだから。苦労した甲斐もあっただろ?」


「だな。サンキュ、律也」


「良いって事よ。俺も永奈ちゃんは好きだし、その友達も可愛い。だったら写真に納めなきゃ嘘ってもんだろ」


「おい」


「冗談だっつの。でも、“記憶”と“記録”ってのはまた違うだろ?」


 そんな事を言いながら、デカいカメラでバシバシとシャッターを切る友人。

 セリフだけならまだしも、行動は完全に不審者なんだよなぁ。

 などと思いつつも、友人に此方にも撮影データを送る様お願いするのであった。

 永奈があんなに楽しそうに笑う所、久し振りに見たかも。

 ホント、来て良かった。

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