愛していますを伝える、言葉以外の方法。

くろぬか

第1話 日常


 人生において勝利者、成功者とは何かと聞かれた時、それは俺の事だと言える人間はどれ程いるだろうか?

 普通に想像すれば、滅茶苦茶お金持ちになったり、仕事とかで物凄く上手く行ったり。

 現代で言うと貧乏な思いをせずに、普通に生活できるだけでも勝ち組だと言えるなんて話も聞いた事がある。

 だがそれは大人の話であり、学生からしてみればどうか。

 勉強が出来たり、スポーツが出来たり、異性にモテる容姿をしていたり。

 多分そういうモノだと思う。

 はっきり言おう、俺はそれら全てからっきしだ。

 しかし俺は、“ある意味”人生を成功したと言えよう。

 というのも。


「先輩、朝ですよー? 起きて下さーい」


 可愛い後輩が、毎日起こしに来てくれる環境があるのだから。

 空想の世界かと、男の都合の良い妄想かと言われてしまいそうな状況であるのは間違いない。

 とは言っても俺の場合、ある日突然……とかそういうのは全然ない。

 昔から愚直な程に一つの事をやり続けてきた結果、こういう形になったのだ。

 と言う事で、薄っすらと目を開けてみれば。

 フワフワとした髪の毛を揺らしながら、此方の頭をポンポンと優しく叩いてくる女の子の姿が。

 ウチの高校の制服に身を包みながら、ニコニコと笑みを浮かべている。

 馬岸まぎし 永奈えいな

 小学生の頃隣に引っ越して来た、幼馴染とも言える存在。

 そんな彼女は、高校生になってもこうして俺の事を慕ってくれていた。

 まぁ色々な過去があったからこそ、今この瞬間を勝ち取ったと言える訳だが。

 とりあえず。


「えいなー……おはよぉ」


「はい、おはようございます」


 ニコニコ笑う彼女の頭に、ポスッと掌を置いてみた。

 もはや慣れたとばかりに、相手は拒否する様子を見せない。

 この子は何と言うか、基本的にNOと言わないのだ。

 こんな言い方をすると、俺はその性格につけ込んで好き勝手やってるクソヤロウの様に思えて来るが。


「くすぐったいですよ、先輩。ご飯にしましょう」


 彼女はクスクスと笑いながら、逆に此方の頭を撫でて来た。

 ウチの後輩、献身的過ぎる。

 これ程までに押しに弱いと、他の所で心配になったりもするのだが。

 本人曰く、男性は苦手だそうで。

 いや、ホントに? なんて思ってしまう程、ベタベタ触っても怒られないんだけど。


「起きて下さい、朝ご飯冷めちゃいますよ?」


「ういっす……起きる」


「はい、おはようございます。って、まだ起きないんですか?」


 上半身だけを起こして、ノソノソと動きながら彼女にガシッとしがみ付いてみれば。

 やはり相手は拒否する事も無く、困った様に笑いながら再び頭を撫でて来る。

 普通さ、こんな事やらせてくれないよね。

 昔から一緒に居るとは言え、付き合っても無い男にこんな事やられたら怒るよね。

 何でもかんでも受け入れてくれる後輩女子。

 こんな子が我が家の隣に住んでいるのだから、これはもう恵まれていると言って良いのだろう。

 まぁ、色々と問題もあったりする訳だが。


「補聴器、充電した?」


「はい、問題ありません」


 後輩は、笑顔で声を返して来るのであった。

 なら、ひとまずは安心か。

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