八、奮起

 目を瞑り、もう一度振り返る。宮野くんの警告。泉くんの拒絶。ああ、泉くんと仲良くなれず僕も孤立するという最悪の結果がいよいよ現実的になってきた。


 選択肢は二つだ。今日のことは全て忘れて泉くんのことは諦めるか、何とか打ち解けられるはずだと信じて宮野くんの忠告を無視してでも関わることを続けるか。


 ゆっくりと目を開けて、零す。

「……その二択なら、答えは出てるなあ」

 前者を選ぶぐらいなら、僕は学級委員長になってない。


 体を起こし自分の頬を叩く。すっかりネガティブになっていた。よくない。そういう自分はだめかもしれないみたいな思考、お姉ちゃんならしないと思う。自分に自信を持たないと。絵空事だと笑われるような都合の良い話を本当に現実したいというのなら。


「どうしたら、仲良くなれる……?」

 泉くんの心を覆う壁は厚い。

 彼の指摘通り、いや実際そう言っていたわけではないけど、僕に邪な気持ちがあるのは事実だ。でもそれが全てではなく、泉くんと純粋に友達になりたいという気持ちも確かにある。彼の言動が面白くて、もっと話したいと思ったんだ。


 それが伝わったら、泉くんは心を開いてくれるだろうか。


「どうしたら、わかってもらえる?」

 結局、その点が問題だ。どのように伝えたら信じてもらえるだろう。拒絶されてもめげずに話しかけ続けたら熱意が伝わって「仕方ないな」と折れてくれるだろうか。


「うーん」

 腕を組んで唸る。しつこくて鬱陶しい、と逆効果にならないか心配だ。けど、それ以外の手立ては思いきそうにない。

「とにかく根気強く話しかけてみるしかないか……」

 第一僕の場合、下手に画策するより愚直に向き合い続けるほうがいいかもしれない。泉くんや宮野くんみたいに上手い言い回しができるタイプではないからね。言葉巧みに誘導するような慣れないことをしようとすると、ボロが出て余計に反感を買いそうだ。


「今度はどう話しかけようか」

 卓上カレンダーを見る。次に話せるとしたらゴールデンウィーク中の平日、月曜日だ。


「安直だけど、『ゴールデンウィークどんな感じ?』とか。……泉くん、何気ない会話は嫌だと言っていたからなあ」

 首を左右に傾ける。

「あれ、違ったか。意味のない会話はしたくない、だっけ?」

 泉くんがゴールデンウィークどう過ごしているのか、僕には大変興味深いことなんだけど、だめかな。……自然に思いついたことだから、大丈夫だよね。

「うん、大丈夫」

 言い聞かせる。


 話しかけてまた泉くんが帰るようなことがあったら困る。次は最初に体調がどうか訊いておこう。


「遊びに誘うのはまだ早いかな……?」

 言ってみる分にはいいか。

 何となく、断られることを恐れて遠慮しているようでは泉くんの友達にはなれない気がするんだ。それこそ勝手に見上げてることになるかもしれないけど、あの物言いに押されて何も言えないような人間は、きっと相手にされない。


 それから宮野くんの脅し、もといアドバイスについてだけど、一つ良いことを思いついた。


 泉くんと友達になる以上ある程度白い目で見られるのは仕方ない。ただ、やっぱり痛い目に遭いたくはない。だからせめて宮野くんと真っ向から対立するのは避けよう。


 つまり忠告を完全に無視するのではなく、先生に頼まれているという誤解に僕も乗って「関わらないほうがいいのはわかっているけど、学級委員長としてはクラスの不仲をどうにかしないといけないんだ」というスタンスを取ればいいんだ。

「というか、実際そういう気持ちもあることだし」

 そうすれば大きな軋轢は生じないかもしれない。


「よーし」

 再度こぶしを握って自分を奮い立たせる。落ち着いて整理することで気持ちを立て直すことができた。元気になったのでお腹も空いてきた。夕飯が楽しみだ。

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