第28話 クレームあれこれ
客先からクレームがついた。
パチンコのBGMは延々と繰り返される。
それが一周して前に戻るときに音がブツ切れするというのだ。
BGMが終わったかどうかを主ループで監視して再生を繰り返している。この切替に2ミリ秒かかるのだが、これが良くないという。
そこで無理をして1ミリ秒割込み内で検査するようにした。割込み内で行う処理が多くなるとシステムがダウンす可能性が出て来るのでこれは結構危ない処理である。これなら最低でも1ミリ秒以内に次のBGM周回に入る。
ところがこれも気に食わないとまたもやクレームが来た。
タイマ割込みの間隔を短くすればよいのだが、これ以上高速にするとシステム全体に影響がでてしまう。
おかしいな、人間はそこまで反応が速くないはずだがと問題の箇所を聞いてみた。
・・BGMの始めの部分と終わりの部分の音が違う。音の周波数と音量のどちらも違う。
これだとどれだけ素早く切り替えようが当然ながら音が飛んだように聞こえるわけだ。
鬼のクビを取ったような顔でクレームをつけて来る客先にこの部分を指摘する。
クレームは収まり、後でこっそりとその辺りを調整した音源データが送られてきた。
客先が謝罪の言葉を述べることは基本的に無い。
画像処理に関して問題が見つかったので修正して報告を上げる。
たちまちにしてクレームが飛んで来た。
なぜそうなったのか?
修正の結果なにがどうなったのか?
いや・・そんなこと聞いてもあなたたち、まともに判断できないでしょ?
こういうとき、私の中の悪い虫が騒ぐ。
一見マトモそうで、良く読めば間違っているとわかる弁解を論文にまとめて提出する。
その一方で本当の弁解も用意しておく。相手からこれ間違っていないかと来たら、謝ってからこちらの正しい弁解を出すつもりだった。
結果としてクレームは戻って来なかった。
相手は間違った結論を見抜けなかったようだ。いや、そも内容すら読んでいないのではないか。つまりは相手に厳しいクレームを入れて、自分は仕事をしていますアピールを上に向けてやっているだけなのだ。
間抜けとはこういうものである。
例の百のイベントについてもクレームが来た。
これはそもそもイベントの説明文が悪かったのでこちらのせいではない。
内容について問い合わせ報告を書いてK主任に渡したが、K主任は困った顔をするだけだし、応答も返って来ない。
パチプロ君に相談したが彼もこれらが正確には何を意味するのか分からなかった。
そこで適当に仕上げておいたのだ。
クレームの内容は定型文だ。
「・・これにより素晴らしい演出効果が激減し・・」
いや、誰もこんなもの見ていないから。
皆が欲しがるのは百のイベントを全部見て、出て来るQRコードをスマホで操作すると貰える何かのメダルぐらいだから。
上の方にちょろちょろ流れるメッセージなんか誰も気にしないから。
所詮はただの博打の道具。それだけである。
きっとこのデザイナの中では俺は何か凄い事を成し遂げたつもりでいるのだな、と思った。
この世界は実にお軽い。金さえ払えば誰でも神様になれるのだから。
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