ドリーム☆チェンジ!
桜田実里
第1話 謎の手紙
桜の花びらがシャワーみたいに降ってる運動場。白線の前に、数人の生徒が並ぶ。
「いちにーついて、よーい……ドン!」
わたしは、先生の掛け声に合わせて思いっきり駆け出した。
砂が跳ね返って靴に入るのも気にせず、地面をけって、けって……。
……だけど。
「う~また最下位だよーっ!」
白線を通り過ぎた瞬間、わたしは青空の下で叫んだ。
また、誰も追い抜けなかった~っ!
今は体育の授業中で50m走をしている。だけど、
わたしは何度挑戦しても最下位。
む~、あとちょっとで追い抜けそうだったのに。
「
「夢生! あたしたちと一緒に練習しよ!」
すると、一緒に走ってくれた友達がわたしに駆け寄って声をかけてくれた。
その言葉に、私の沈んでいた心がパッと明るくなる。
「ほんと!? ありがとーっ」
励ましてくれる友達にわたしはお礼を言った。
運動は昔から全然だめだけど、ちょっとでもできるようにって頑張りたい。
だって、こんなにも優しい友達がいるんだもん!
わたしは暖かい春の風に、ワンサイドアップに縛った肩まで伸びる髪をなびかせた。
わたしは、この4月に小学5年生になった
何のとりえもないそのへんにいる小学生だけど、楽しい学校生活を送っているんだ!
残りあと二年の小学校生活も、みんなと思いっきり楽しもう!
なんてそう、思ってた。
だけどこの日に、わたしの日常をガラッと変える出来事が起こってしまうとは—―。
「じゃあね夢生~!」
「うん!また明日ね!」
わたしはクラスメイトに手を振って学校を出た。
一人になった下校道を歩きながら、わたしは、帰ったらなにしよっかな〜と考える。
そういえば、もうすぐ学校でなわとび大会があるんだよね。それの練習とか!
あ、でも先に宿題やらないとだなあ。
わたしの住んでいるところはたくさんの人が住んでいるにぎやかで大きな街。
毎日新しい発見があるから、下校だってとっても楽しいんだ。
ほらみて、あんなところに黒くてながーい車を発見!
……て、ん??なにあれ!?
わたしは、信号で止まっていた車に釘付けになる。
ほえーすごい。テレビでしか見たことない長い車ってほんとにあるんだ……!
キラキラ輝いていて、まさに高級車って感じ。
信号が青になって、車はすぐに遠くへ行ってしまった。
この街には生まれたときから住んでいるけれど、初めて見た。
ああいうのに乗っている人がこの街にいるんだ……!と思うとちょっとわくわくする!
わたしは軽い足取りで家まで向かった。
住んでいるアパートにつき、いつものようにポストを開ける。
なにか入ってないかなーって確認するのが、わたしの日課なんだ。
ガチャリとトビラを開けると、何かを発見。
なんだろう?
手に取ると、それは縦長で真っ白なふうとうの手紙らしきもの。
どこかに宛先とかあるのかなと思って表を見ると、ちゃんと書いてあった。
「逢瀬夢生様……ってこれ、わたしあての手紙!?」
名前の近くに書いてあった住所もうちので合ってるし、間違いない、けど……。
わたしに手紙を送ってくる人なんて、いるかな?
それにずいぶんとシンプルな見た目だし。友達とかに送るような可愛いふうとうじゃないやつだ。
でもこれ、差出人が書いてない。どういうことだろう。
……もしかして、いやがらせの呪われた手紙とか!?
う~ん、わたしあてみたいだし、あけちゃってもいい……よね?
気になって、中身を切らないように注意しながら、ゆっくりと上をぺりぺりと破る。
まあ、とりあえず呪いの手紙ではありませんように……。
最後まで破り終わった後、目をつぶってパッと中身を取り出した。
ちらりと片目を開ければ、手には三つ折りにされた一枚の紙。
もう片方の目も開けて、わたしは手紙を広げた。
そして、そこに書いてあったのは……。
『逢瀬夢生様。あなたを
文章の最後には、丁寧に電話番号とメールアドレスが書かれていた。
他にもなにかないかと手紙の中をあさってみるけど、とくにナシ。
てか……え?わたしを“天根家の使用人として採用”???
「し、“しようびと”って、どういう意味?」
調べようとランドセルから国語辞典を取り出そうとしたとき、足音が聞こえた。
「あれ夢生、帰ってたの?」
「あっ、おかあさんっ!」
そこへ、買い物袋を下げたお母さんが姿を現した。
「夢生、こんなところでなにしてるの?」
「ねえ、“しようびと”ってどういう意味!?」
わたしはお母さんに詰め寄り、バッと広げた手紙を突きつけた。
「“しようびと”なんて聞いたことないけど、またなにかとかんちがいしてるんじゃ……って、ええ? なにこれ」
手紙を受け取ったお母さんは、口を半開きにしてみけんにしわを寄せる。
「……簡単に言うと、お手伝いさんみたいなものよ。あと夢生、“しようびと”じゃなくて“しようにん”ね。にしても、ずいぶんと身勝手な手紙」
「なんて書いてあるのっ?」
わたしがたずねると、お母さんは少し困ったような顔をした。
「……簡単に言うと、天根家は夢生をお手伝いさんとして働かせたいってこと」
お母さんはポケットからスマホを取り出して、何やら操作する。
そしてわたしのほうに画面を向けてきた。
「たぶんこれよ、天根家っていうのは」
覗き込むと、画面の一番上にはわたしでも知っているような会社の名前が書かれている。
そしてその下には“会長・
「この会社の会長率いる天根家っていうのが、手紙の家のことで……」
「わたしはその家で働くのっ!?」
お母さんの言葉をさえぎってわたしはそう言った。
「まだそう決まったわけじゃないわよ。それに、本当の手紙かどうかも分からないのに……」
「それは調べてからだけど……。もし本当の手紙だったら、働きたい!」
わたしは少し高いお母さんの目を見つめた。
お母さんは一人でわたしを育ててくれて、今だってたくさん頑張って働いてくれている。
だからわたしは、そんなお母さんの役に立ちたいっ!
「う~ん、そうねえ……」
お母さんは悩んだような顔をした後、軽くうなずいた。
「わかった。夢生がそこまで言うなら」
「ほんとお母さん!? やったあ!」
わたしはその場で飛び上がった。
「とりあえずは、まず天根家に行ってみないと分からないけどね」
「うんっ!」
わたしはお母さんと手を繋いでエレベーターまで歩く。
分からないことだらけだし、手紙が本当かは謎だけど。
でも役に立てるなら頑張りたい!
―――その後ろで晴れていた空にだんだんと黒い影が姿を見せていたことなんて、わたしは知る由もなかった。
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