魔法少女ムッキマン
ひらすけ
第1話 光の柱って知ってる?
午後の授業はどうにもやる気が起きない。
横でクラスメイトが教科書の内容を読み上げている。それを聞き流しながらぼーっと窓の外を眺める。
…はて、何か遠くで光った気がする。その光は徐々に大きな柱となり、こちらに広がってきた。
教室は驚く間もなく光に飲み込まれてしまった・・・・。
*
春の陽気が過ぎ去り、少々暑い日が続くある日の午後、テスト期間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「終わった…やっと…。」
「おつかれ、ノゾム。勉強の成果は?」
机にうなだれる俺、
「今回は凄いぞ!回答をほとんど埋めたぞ!」得意げに返す。
「本当か!赤点回避の自信はありそうだな?」
無言の間-
「そこは問題ないと即答してくれよ。」
広は成績が良く、部活優先で授業に全くついていけていない俺は毎度のテストで世話になっている。
ほとんどの教科の結果が常に赤点前後のため、教わる身としては無駄な時間に見えて悪い気もするが、「復習になるから丁度いい。」との事で遠慮なく頼らせてもらっている。
もちろんだが今回も自信などない。
他のクラスメイトが談笑している中、さて、と広が席を立つ。
「今日はテスト明けで部活休みなんだろ?一緒に帰ろうぜ。」
希は彼の誘いに快諾し、教室を後にする。
*
ここ
町に住むほとんどの家庭が工場勤務のためなのか、住宅街やマンションばかりが立ち並び、主な遊び場と言えば公園程度の子どもには少々狭苦しい場所である。
そんな町を最近賑わせている変わった話があった。
「"光の柱"、昨日また出たんだって。」
"光の柱"。一カ月ほど前に突然空に向かってのびた謎の大きな光。
遠くからでも目立つ程のものであったにも関わらず、光の発生源と思われる付近の住民は誰一人としてその存在に気付いていなかったという。
しかし、生気を失ったように倒れていた人が複数人おり、”確実に何か良からぬことが起こっていた”と感じざるを得ないものだった。
他校の生徒同士でも情報交換が行われている、今一番ホットな話題である。
「今回はどこだったんだ?」
「三角町の辺りだってさ。」
「マジか、結構近くじゃねぇか…」
光の柱は町の至る所で不定期に発生しており、今回はノゾムらが住む新円町の比較的近所だった。
「そうなんだよ!だから近くの高校の友達に聞いたらさ、やっぱり全然知らなかったって言ってて。」
「絶対人為的な何かがあると思うんだよ!」
うきうきで話す広にそれほど興味がない希が雑に返す。
「何かって、口止めされているとか?」
「もしそうなら馬鹿じゃんそのごまかし。あんなに目立つのに。」
すっごい真顔。から、パッと表情を変えて語りだす。
「俺が思うに異世界から来た侵略者がいると思うんだ。」
「んで、侵略者を止めるために同じ世界にいるヒーローも一緒に来ててそいつを倒す!その時に出るのが光の柱ってわけ!でもここの住人である俺たちにそれを知られてはいけないから魔法とか特殊な機械とかで周りの人たちの記憶を消している、だから皆知らないって言ってる。でも遠距離には記憶消去が届いていないから光の柱を見たって目撃情報だけが残る!んっん~我ながら完璧な考察っ!」
「…寝てんのか?」
「夢の話じゃないわい!」
「ははっまぁ幻覚だろ、光の柱なんて。」
「ノゾムはなぜか実物を見たことないもんな、幻覚で済まされるものじゃないぞ、あれは。」
そんな他愛もない話をしながら公園の前を通り過ぎようとしたところ、数人の子ども達に呼び止められた。
「おーい、筋肉のにいちゃーん!」「こっちー!」「あそぼー!」
「えっと…ノゾムのこと?筋肉の兄ちゃんて何?」
広が目をぱちくりしながら希を見上げる。
「実はな、この前弟とここで巨大ロボごっこしてたんだが、それを見たあいつらが混ざってきて、なんだかんだ気に入られちまったんだ。」
「巨大ロボごっことは。」
希は空手と柔道と剣道を一緒にした武道部に所属している。
190cmの背丈、それに見合ったガタイの良さは小学校低学年程度の小さな子どもからすれば確かに巨人。
そんな巨人が自分たちを軽々と持ち上げ、アトラクションのように振り回すのだから楽しいに違いない。
「ねー今日も巨大ロボやってー」「「てー」」
わらわらと子ども達が希に群がる。
「わりぃな、今日はこいつと遊びに行くから巨大ロボできねぇんだ。また今度な」
希が広を指さし、頬を膨らませた子ども達がじーっと見つめる。
「おまえにいちゃんのともだちか?」「筋肉のおにいちゃんと一緒なのによわそう。」「でかくない。」
辛辣。
「言ったなぁ?俺もノゾムほどではないが結構鍛えてるんだぞお前らなんか簡単に振り回してやるから覚悟しな!」
ちょっとカチンときてしまった広が大きく手を広げて子ども達に襲い掛かる。
皆がキャーキャー言って逃げ出したその時、突如大きな地震が起きた。
揺れはすぐに収まったが、しばらくすると公園の奥から恐怖に顔を染めた人たちが大慌てで走りこんできた。
「あ、あの!何があったんですか!?」
希は逃げてきた一人の腕を捕まえて公園の奥で何が起きたのかを確認する。
「バ、バ、バケモノだ!突然バケモノが現れて人を襲い始めたんだ!あんたらも早く逃げたほうがいい!!」
そう言うと掴まれていた手を振り払い、一目散に逃げだした。
「バケモノ…?」
にわかには信じがたいが、ドラマの撮影にしては余りにも迫真すぎる。
それに、奥からは悲鳴のようなものがかすかに聞こえる。
「なんだかよくわからないけど危険な感じがするし、さっさと逃げようぜ。」
広が声をかけるも、希はすでに公園の奥へと足を向けていた。
「待てノゾム!行った先にバケモノがいたとしても!お前に何ができるんだよ!」
確かに何もできないかもしれない、ただバケモノの餌食になるだけかもしれない。
「けど、必要だろ?ヒーローが来るまでの足止め。」
「ヒーローは俺の妄想の話で…っておいっ!!」
広の制止を無視して希は公園の奥へと駆けて行った。
「足止めって…う~ん、とにかく救急車と警察…の前にお前たちを家まで送って行くから道を教えてくれ。」
希の安否を祈りながらも、ぐずる子ども達を引き連れ広は公園を後にした。
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